ストーリーの先を知らないで読む幸せ…氷室冴子「銀の海 金の大地」 

ストーリーの先を知らないで読む幸せ…氷室冴子「銀の海 金の大地」 

ストーリーの先を知らないで読む幸せーー。そんな気持ちで毎月読み進めようとしているのが氷室冴子さんの復刊本「銀の海 金の大地」(集英社オレンジ文庫、通称「銀金」)です。連載小説を読むような気持ちで「銀金」の世界に浸っています(2025.2.22) 

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本の帯…背表紙のあらすじ

きょう紹介するのは氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」2巻です。2月19日に発売されました。1巻を読んだ直後に書いた記事は下記をごらんください。 

幻のファンタジー小説待望の復刊!!氷室冴子「銀の海 金の大地」
かつて家に全巻あったのに、妻が図書館に寄贈してしまい、読むことが叶わなかった幻のファンタジー小説ーー。故・氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」がついに復刊されまし…
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2巻のあらすじや感想を紹介する前に、すこし長い脱線をします。 

本屋さんで知らない作家の本を手に取る時、最初に参考にするのは本の帯でしょう。 

目に留まって文庫なら本を裏返し、背表紙のあらすじを読んだりして、「読んでみようかな」と文庫を手に取ってレジに向かう。もしくは新聞広告で「おもしろそう」と思ってネット注文するーー。 

本との出会いは大なり小なりこのようなものでしょう。そんな買い方で、ここ数年でいちばん楽しめたのは、中国のSF作家劉慈欣氏の「三体」3部作です。 

Netflixオリジナルドラマ「三体」をイッキ見しました
Netflixオリジナルドラマ「三体」(原題:3 Body Problem)をイッキ見しました。劉慈欣氏の原作「三体」3部作を、既読の人はもちろん未読の人でも、…
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好きな作家の新刊本の場合は少し違います。 

背表紙は絶対見ないようにしますし、変に先入観を持たないように気を付けて読んだりします。帯もカバーをかけて目に入らないようにします。わたしの場合、ここ数年でいえば、凪良ゆう氏の「流浪の月」や「汝、星のごとく」、一穂ミチ氏の「光のとこにいてね」がこのパターンにあたります。 

悲しい幸せを描く:凪良ゆう「神さまのビオトープ」
きょう紹介するのは凪良ゆうさんの「神さまのビオトープ」です。「流浪の月」と「汝、星のごとく」で本屋大賞に2度輝いた凪良さんですが、この連作短編集が出版社の編集担…
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下手に結末を知ってしまって(例えば映画を先に観てしまって)切歯扼腕したケースもあります。アイラ・レヴィンの「ローズマリーの赤ちゃん」がそれです。 

何も知らずに原作で読みたい:「ローズマリーの赤ちゃん」 
むかし「本から読むか、映画から観るか」という宣伝文句がありましたが、わたしは圧倒的に「本から読む」派で、映画であらすじを知ることなく原作を読みたかった!と思って…
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「銀金」は落とし穴だらけ

「銀金」と関係ないことをツラツラ書いたのは、待望の復刊を果たした氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」は落とし穴だらけだからです。 

せっかくなんだから何も知らなくて読みたいのに、かつての愛読者が復刊への歓びから熱く語る人が多くて、X旧Twitter)で「佐保彦が好き」とか書いてあるのが目に飛び込んできて、(1巻では出て来ない登場人物だったので)「おっと危ない!」と思って思わず目をつぶったり、結構な頻度で気苦労が絶えないのです。 

それだけ復刊を心から喜んでいる人が多く、熱く語りたい人が大勢いる小説なんだな…ということがわかります。 

ともあれ、全11巻だから残り9か月、今後も落とし穴にはまらないようにしながら「銀金」の世界を堪能しよう!と決意を新たにしています。 

佐保彦が登場する巻

「銀の海 金の大地」2巻は次のようなあらすじです。 

初潮を迎えた真秀は「月の忌屋」に籠められた。十日後、ようやく外界へ戻った真秀は、真若王や息長の男たちの邪な視線に晒されることに。真秀の危機を救おうとする真澄に、おそるべき霊力が目覚めるーー。そして佐保の若き王子・佐保彦は真秀を「滅びの子」と罵って。次々に真秀を襲う苛酷すぎる運命。氷室冴子が書く伝説の古代転生ファンタジー、怒濤の第2巻。 

「銀の海 金の大地」2巻

おおお、この巻でうわさの佐保彦が登場するのか。ずいぶん”推し”の多そうな登場人物だけど、どんなもんかな… 

ファーストコンタクトの場面

佐保彦が主人公の真秀とファーストコンタクトする場面を紹介しましょう(ふたりが互いに惹かれ合う関係に発展するのなら「出逢う」とかの表現が適切でしょうが、3巻以降のストーリーを知らないのでニュートラルな表現を選びました) 

(真澄、人がくるわ。呼んでくる。山守りの男たちよ、きっと)
(真秀、まて、あれは”近いもの”だ)
「近いもの……?」
(とても近い。ぼくらに近い。ひきあうものがある。それを感じる……)
(邪まなもの……?)
(ちがう。きよいものだ。でも、あぶない。真秀、いかせたくない。なにか、とりかえしのつかないことに……真秀……いってはいけない……)

真澄と真秀が心の中で会話をするかたちで「近いもの」「ひきあうもの」「きよいもの」と表現される男ーー佐保彦がいよいよ登場です。 

「おまえはなんだ、こんな夜中に! まだ、小娘じゃないか。息長の刺客にしては小さくないか?」
「顔をみせろ、小娘!」

零れるような星あかりを仄かにうけた、その顔は、真澄だった。
「真澄、そんな……」
いや、ちがう。
真澄よりも稚く、真澄よりよほど生気にあふれ、傲慢さと、直情さと、激しいものをひめた射干玉(ぬばたま)の黒い目を、ぎらぎらと光らせているのは少年ーー十六、七の少年だ。

佐保彦もまた真秀を見て驚きます。 

「おまえ、佐保姫、こんなところに、どうして、その姿は……!?」
魂を抜かれたように、少年をみあげていた真秀の耳に、少年のあえぎ声がきこえた。
少年もまた驚愕していた。

真秀と佐保彦のファーストコンタクトを、氷室さんは地の文でこう表現しています。 

ふたりは激しく、ほとんど憎みあうように、離れがたい運命の引き綱をひきあうように、凝視めあっていた。 

うーん、どう展開していくのでしょう。3月18日発売の3巻が待ち遠しいです。 

評判悪い…なんでかなあ

氷室さんはあとがきでこんなふうに書いています。 

1冊目の感想のお手紙では(連載中のいまも)、ずいぶんと真若王の人気がたかくって、もう、ビックリしてしまった。
だけど真若ちゃん、そんなにいいかなー。なんか「権力者で」「強引な」ところがいいってご意見が多かったですけど。
(略)
でもでも、もっとショックだったのが佐保彦です。すっごい評判悪いの。なんでかなあ。
「根性わるーい」「ヒネくれて、やなヤツ」とか、なんか、そんなのばっかりだった。いやはや、私がこれまで書いてきた男の子キャラで、しかも、とりあえず主役クラスの男の子で、ここまで評判わるいの、今までなかったですよ。

そうかそうか、佐保彦は主役級なのか。とすると、真澄との関係は「ほとんど憎みあうように」見えつつも、「離れがたい運命」の出逢いと思っていいのかな? 

などと想像を膨らませています。 

ストーリーの先を知らないことの幸せーー。本好きにとって、これに勝る喜びはないのではないでしょうか。 

(しみずのぼる) 

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