かつて家に全巻あったのに、妻が図書館に寄贈してしまい、読むことが叶わなかった幻のファンタジー小説ーー。故・氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」がついに復刊されました。毎月1冊ずつ発売されるそうです(2025.2.1)
【追記】本文中に訂正があります(2025.2.3)
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旧コバルト文庫…長らく絶版
集英社コバルト文庫には、絶版となって読みたくても読めない文庫が数多くあります。
稀覯本のひとつ「たんぽぽ娘」は古本で入手できたものの、小野不由美さんの「悪霊がいっぱい!?」シリーズは、小野さんの小説を読み出してすぐ(最初に読んだのは「東亰異聞」)に探したのにすでに絶版。「ゴーストハント」とタイトルを変えて2011年に再刊されるまで待たなくてはなりませんでした。

「たんぽぽ娘」は下記記事をごらんください。
おとといは兎をみたわ。きのうは鹿、今日はあなた
「悪霊がいっぱい!?」シリーズは下記記事をごらんください。
人形はとっても怖い:小野不由美「人形の檻」
シリーズ最恐のホラー:小野不由美「鮮血の迷宮」
しかし、「悪霊がいっぱい!?」シリーズ以上にくやしい思いをしたのは、氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」ーー通称「銀金」でした。なぜなら妻が全巻購入して自宅にあったからです。
【訂正】たいへん失礼しました。小野不由美さんの「悪霊がいっぱい!?」はコバルト文庫ではなく「講談社X文庫ティーンズハート」でした。「銀金」と同時期のくやしい思い出だったため混同していました。お詫びして訂正します(2025.2.3)
「銀金」めぐる不幸な出来事
そのころはまだ氷室冴子さんを読むことはなくて、妻が「銀金」を読んでいたことは知っていましたが、わたし自身は90年代後半に「なぎさボーイ」「多恵子ガール」で氷室冴子さんに開眼。「なんて素敵にジャパネスク」を号泣して読み、「海がきこえる」にしびれて、「さあ、次はいよいよ『銀金』だぞ!」と思って本棚を探したら、見当たらないではありませんか。

「海がきこえる」は下記記事をごらんください。
いまも色褪せない青春小説の傑作:氷室冴子「海がきこえる」
捜してもどうしても見つからないため、仕方なく妻に訊ねました。

ねえねえ、「銀金」が見当たらないんだけど、わかる?

ああ、図書館に寄贈したよ

えええ~
妻はわたしと違って本への執着がとても希薄で、美内すずえさんの「ガラスの仮面」も友人にあげてしまったりして、わたしは泣く泣く全巻買い直す羽目になったことも…。
そんな不幸ないきさつから「銀の海 金の大地」は未読のままになってしまったのです。かれこれ20数年前の苦ーい思い出です。
オレンジ文庫から待望の復刊
以来、いつか読みたいと思っていた幻のファンタジー小説が、今回、集英社オレンジ文庫から装いを新たに復刊されました。
90年代コバルト文庫で人気を博した、古代日本を舞台にした氷室冴子の伝説のシリーズ『銀の海 金の大地』(全11巻)の復刊が決定しました!
https://orangebunko.shueisha.co.jp/news/newbook/240903.html
2025年1月より毎月1冊ずつ、オレンジ文庫にて発刊されます!
イラストは、初版でも装画を担当した飯田晴子による描き下ろし。巻末には氷室冴子ゆかりの作家、文筆家たちによる解説が収録されます!
集英社オレンジ文庫は特設サイトまで作る力の入れようです。
「奇跡の復刊!」の文字をみても、多くの人が復刊を熱望していたことが窺えます(まあ、わたしのように妻のせいで読めなくなった例は稀有でしょうが…)
あらすじを復刊サイトから引用します。

舞台は古代日本――湖の国・淡海。14歳の少女・真秀(まほ)は、複雑な生い立ちのため人々から疎外されながらも、病で寝たきりの母・御影(みかげ)と、目も耳も不自由だが不思議な霊力をもつ兄・真澄(ますみ)とともに気丈に生きていた。ある日、真秀は母の病にきく薬をもらうため丹波行きの船に乗るのだが。「古事記」を愛した氷室冴子が手加減なしで書いた、超弩級のエンターテインメント小説!
さっそく電子書籍で買い求めて読了しました(Amazonのレビューに「解説に重大なネタバレがある」と書き込まれていたので、氷室さんのあとがきまでで寸止めしました)
氷室さんのあとがきに、
この物語はファンタジーではありますが、日本の古代を舞台にしています。時代的には4世紀。西暦350年あたりをイメージしています。
舞台の”淡海”(おうみ)ってのは、淡海=近江=琵琶湖のある滋賀県。オオキミのいるとこは奈良県と。そんな感じですが、あんまり気にしないでくださいませ。
(1992年3月刊コバルト文庫掲載)
と書いてあります。その程度の基礎知識で、妻には「内容は絶対に言わないでね」と釘を刺し、ウィキペディアなども軽々に覗くことは控えて、毎月1巻ずつ11か月にわたって「銀金」の世界を味わおうと思います。
14歳の少女が知る「佐保」の名
といっても、これでは紹介文になりませんから、とても興味を惹かれた部分を紹介します。
主人公の真秀は、ヤマト中央の和邇(わに)族の長・日子坐(ひこいわす)が「ふとした気まぐれで御影を愛して、そして捨てた」ことで生まれた14歳の少女。12歳上の兄・真澄は目も耳も口も不自由。だが、真秀とは心で会話することができた。
そんな兄妹には異母兄弟がいた。ひとりは丹波の国を治める美知主(みちのうし)、もうひとりは美知主の弟で息長(おきなが)の族長・真若王(まわかおう)。真秀は病に苦しむ母・御影の薬欲しさに美知主のもとを訪れるが、そこで美知主の娘から「佐保」の名を耳にした。
「トネや。ねえ、奇麗だことね、この佐保の血すじの婢(めやっこ)は」
「佐保は同族とばかり結ばれますからな。血がさぞ、どす黒い紫色になっておりましょう。それが肌を輝かすのでしょう。呪いのある美しさですよ」
「佐保というのは、今もある一族なの!?」と訊ねる真帆に、娘は言った。
「父さまは何も教えていないの? 父王の美知主が、おまえたち兄妹を心にかけるのは、佐保の血筋だからだわ。今どき、珍しい一族だもの」「他族の手に落ちない、古いヤマトの血だもの」
母の御影が佐保の一族であることを知った真秀は、美知主に佐保の話を聞きに行きます。
すべて流れつく最後のクニ
美知主は最初、真秀に「おまえは、息長の邑の近くで、よく韓土(から)わたりの工人を見かけるだろう。どうだ、異国の連中は嫌いか?」と謎かけをする。
真秀が「みんな、知恵や、ふしぎな手技をもっているわ。だから、へこへこしなくても生きていけるのよ。あの人たちは、ひとりひとりが自分の王よ。だれかの奴婢じゃない」と答えると、美知主は遠くに目を放ったまま微笑んだ。
「ーーこの秋津島はふしぎなクニだな。東の果てのクニだ。海潮の流れが、すべてこのクニに流れつくようになっている。西からも人々が流れつく、最後のクニかもしれないな、このヤマトは。三輪の大王(オオキミ)一族も、もとからヤマトに住まわれていたわけじゃない」
「知ってるわ。筑紫のほうから来たのよ」
「まあ、それはそうだが、どうかな。その前は韓土か、そのむこうの呉(くれ)か、あるいは北の粛慎(みしはせ)か……。大王自身、どこの国から流れついたともしれない、流れ者の末裔だ。それでいいんだ。このヤマトのクニびとは、みな、海を渡ってやってきたのだと思えばいいんだ」
日本の国のなりたちを語る美知主はこう続けます。
「人々は、浜辺に流れつく木の実のように、潮の流れにのって、このクニに流れつき、住みつき、増えていったんだ。本国で食いつめたか、罪を問われそうになって逃げてきたか。未知の群島でひと稼ぎしようと企んだか……。どっちにしろ、もとを辿ったところで、褒められた育ちでもあるまい」
「みんな、モトをたどれば、食いつめ者や罪人なの? 大王も、豪族も……?」
「そうだ、みな、流れ者さ。そう思えばいい。本国から、それぞれが祀る神々ごと、このヤマトに流れついた木っ端のような民なのさ、おれたちは。それでいい。なつかしい祖先の神々を祀りながら、このヤマトの国つ神とも仲良くして、新しいクニ、新しいヤマトをつくっていけばいいんだ」
美知主はこう話したあと、「なのに」と続けた。
「佐保の一族は、そう思っていない」
同族同士の結婚で外に固く閉じた佐保の一族ーー。その血をひく真秀はこれからどうなっていくのでしょうか!?
つづきは2巻を待て!ですね。2月19日発売だそうです。
(しみずのぼる)
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