いつか必ず君に会えると信じてる…映画「旅立ちの時」 

いつか必ず君に会えると信じてる…映画「旅立ちの時」 

きょう紹介するのは1988年製作のアメリカ映画「旅立ちの時」(原題:Running on Empty)です。ベトナム反戦運動の元闘士の父母とその息子2人による逃亡生活。家族の結束は強いものの、17歳の少年は自らの恋と進路から人生の岐路に立たされる。最終的に家族が選んだ選択はーー。誰の気持ちに寄り添ってもせつなくて何度も涙します(2024.8.20) 

〈PR〉

最新コミックも600円分無料で読める<U-NEXT>

リバー・フェニックスが出演

社会派の映画監督で知られるシドニー・ルメットが製作した「旅立ちの時」は、17歳の少年を演じたリバー・フェニックスの名前とともに語られる映画です(DVDのパッケージを見ても「名匠シドニー・ルメットとリバー・フェニックスが組んで贈る青春のメモワール」というキャッチコピーです ) 

リバー・フェニックスは、スティーヴン・キング原作の青春映画「スタンド・バイ・ミー」(1986年)で一躍有名になり、2年後の「旅立ちの時」でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。若手俳優として順調にキャリアを重ねたものの、1993年、23歳の時に麻薬の過剰摂取で亡くなりました。 

ニュージャージーの小さな町。17歳のダニーは今、人生の岐路に立っていた。前の学校の成績証明書さえ提出すればジュリアードへの入学が認められるのだ。だが、反戦活動家であるダニーの両親はベトナム戦争当時、ナパーム工場を爆破。守衛を失明させてしまった罪で今も警察に追われていた。名前や髪の色を変え、全米各地を放浪する彼らに”明日”は約束されていない。そんな中、かつての両親の同志が銀行強盗で逮捕され、一家は窮地に追い込まれてしまう。 

リバー・フェニックスは「旅立ちの時」でアカデミー賞助演男優賞にノミネート

あらすじはこの通りなのですが、家族の愛と葛藤が随所に描かれます。 

常に偽名で過ごして半年もすれば引っ越して、また新しい人格で生活を始める…という毎日。ほんとうのことを話せるのは家族4人だけ…というシチュエーションですから、家族の絆が強まるのは当然なのですが、それでも、父と母、ふたりの息子ーー17歳のダニー、10歳のスティーヴンがともに支え合って生きている日常がとても丁寧に描かれます。 

そこに”変化”を及ぼすのが、ダニーが新しく通うことになった高校の音楽教師フィリップとその娘ローナの登場です。 

フィリップはピアノを弾くダニーに音楽的才能を見いだし、ダニーの家にピアノがないことを知ると、ピアノがある自宅に招くようになります。そこで出会うローナとは、お互いに徐々に惹かれ合い、ダニーは母アニーの誕生日にローナを招待します。 

誕生会で歌う「Fire and Rain」

はじめて家族4人以外の人間が参加する誕生パーティー。最初は警戒する様子だった父アーサーも、ローナと打ち解け、最後はダンスまで踊るようになります。 

そこで家族4人とローナがダンスをしながら歌うのが、ジェイムス・テイラーの代表作「Fire and Rain」(1970年)です。映画の字幕から歌詞を引用します。 

昨日の朝まで知らなかったよ
スザンナ 君は行ってしまった
今朝めざめてこの歌を書いた
でもだれに贈るか思い出せない
私は見てきた火や雨を
いつまでも続く晴れの日も見た

イエスよどうか
私を助けたまえ
いつの日かまた会おう
もう体は病み 終わりも近い
もう覚悟はできている
私は見てきた火や雨を
いつまでも続く晴れの日も見た
友達のいない寂しさも知った
いつか必ず君に会えると信じてる

Won’t you look down upon me, Jesus
You’ve got to help me make a stand
You’ve just got to see me through another day
My body’s aching and my time is at hand
And I won’t make it any other way

Oh, I’ve seen fire and I’ve seen rain
I’ve seen sunny days that I thought would never end
I’ve seen lonely times when I could not find a friend
But I always thought that I’d see you again

最初は父アーサーとローナ、母アニーとダニーがペアで踊って、途中からアーサーとアニー、ダニーとローナにスイッチしながら、彼らが笑いながら口ずさむシーンはとてもいいです。 

(もっとも、ジェームス・テイラーのこの歌は、子供の頃からの友人のスザンナが自死して「逝ってしまった」ことを想って歌うので、楽しいシーンにふさわしいかと言えば微妙ですが……) 

母子の連弾シーンに

このような幸せな場面があるだけに、彼らが別れを決断しなければいけなくなる物語の後半は、せつなさが溢れかえります。 

ダニーがローナにほんとうのことを打ち明けて恋人同士になるものの、身元がばれることを恐れて再び引っ越すことを決める父アーサーに「残りたい」の一言が言えない。「わたしたちはどうなるの?」とローナに泣かれ、ついに「残りたい」と口にするも、アーサーに一蹴され……。 

一方、音楽の才能を見いだされてジュリアード音楽院への進学の道が開けそうだとわかっても、家族にそれを打ち明けられないダニー。そのことを母アニーは音楽教師のフィリップから聞かされる……。 

学校の音楽室でひとり寂しくピアノを奏でるダニーの後ろ姿を見て、アニーが近づいていき、黙って横に座って連弾するシーンは、せりふは何ひとつないのに、胸をわしづかみにされます。 

二度と会えなくなる

アニーはその足でアーサーに会い、 

ダニーは成長したわ
自由にさせたいの

と提案するが、アーサーは反対する。 

10分会うにもダニーにはFBIの尾行がつく
彼が大学へ行けば二度と会えないことになる

今度は私が苦しむ番ね

それでもアニーは自分の両親にダニーを預ける可能性を探り、老いた父親がレストランで昼食を取るタイミングを見計らって接触する。 

14年も自分の子どもに
会えない気持ちが分かるかね?

怒りと悲しみと懐かしさと全部詰まったような父親の表情を見て、わたしは涙を抑えることができませんでした。

「ダニーを預かって」と頼むアニーに、父親は言います。 

どこへ行くにも
FBIの尾行がつく
会えないぞ

それでもアニーの決意は変わらず、10歳のスティーヴンが一人前になったら「自首する」と打ち明け、涙目の父親に向かってこう言うのです。 

ママに愛していると伝えて
パパの事も思ったわ
とても会いたかったのよ
苦しませてごめんなさいね
今度は私が苦しむ番ね

なんてせつないんでしょう。 

ローナか家族かで迷うダニー。ダニーを失うことを踏み切れないでいる父アーサー。そのふたりが最後に選んだ選択はーー。 

そのラストシーンにかぶせるように流れてくるのが、誕生パーティーでの彼らの歌声です(楽し気な歌声が重なって、わたしはブワッと涙がこぼれました) 

イエスよどうか
私を助けたまえ
いつの日かまた会おう

いつか必ず君に会えると信じてる

字幕なしですが、ユーチューブに予告編がありました。

Rotten Tomatoes Classic Trailers – Running On Empty (1988) Official Trailer – River Phoenix, Judd Hirsch Drama Movie HD

家族の愛を描く映画です。動画配信サービスでも視聴できますので、ぜひ観てみてください。 

(しみずのぼる) 

〈PR〉

最新コミックも600円分無料で読める<U-NEXT>