きょうから3回連続で人形をモチーフにしたホラー小説と漫画を紹介します。人形を扱ったホラーはたくさんありますし、網羅して選んだわけでないので「3選」というわけではありません。でも、どれも怖い作品なのは太鼓判を押します。1回目は小野不由美さんの「人形の檻」です(2023.10.23)
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「人形の檻」は、小野不由美さんの「ゴーストハント」シリーズの第2巻にあたります。
「ゴーストハント」シリーズは、もともと「悪霊がいっぱい!?」(講談社X文庫ティーンズハート)というタイトルのライトノベルで出版された小野さんの最初期の作品です。
その後、このシリーズをいなだ詩穂さんが漫画化。その漫画のタイトルが「ゴーストハント」でした。
「悪霊がいっぱい!?」シリーズは古本でもなかなか入手できない稀覯本となっていましたが、2011年に小野さんが全面改稿したうえで「ゴーストハント」のタイトルで再刊されました。現在は角川文庫で読めます。
シリーズは全7巻
「ゴーストハント」シリーズは全7作からなります。
- 旧校舎怪談
- 人形の檻
- 乙女ノ祈リ
- 死霊遊戯
- 鮮血の迷宮
- 海からくるもの
- 扉を開けて
ホラー色がもっとも強いのは「鮮血の迷宮」と「海からくるもの」ですが、登場人物たちが毎回一緒ですから、このシリーズは第1巻の「旧校舎怪談」から順番に読まれることを強くお勧めします。
でも、きょうは人形に絡むホラーを紹介する記事ですから、あえて第2巻の「人形の檻」を紹介します。
洋館を襲う怪異現象
あらすじを単行本の帯から紹介します。
瀟洒な洋館に住む一家を襲うポルターガイスト現象。騒々しい物音、移動する家具、火を噴くコンロ。頻発する怪しい出来事の正体は地霊の仕業か、はたまた地縛霊かーー。家族が疑心暗鬼に陥る中、依頼者の姪・礼美が語る「悪い魔女」とは? ナルとともにSPRの一員として屋敷に赴いた麻衣は、礼美と彼女が大切にしている人形との会話を耳にする。
礼美が語る「悪い魔女」のくだりから引用しましょう。
お手伝いの柴田さんが礼美の部屋におやつを運んで、麻衣が口にしようとしたところ、礼美が「だめ!」と叫んだ。
「毒が、入ってるの!」
(略)
「そんなことないわ。毒なんて入ってない。誰もそんなことしないよ?」
「するの。だって柴田さんは魔女の家来なんだもん」
わたしはぽかんとして、典子さんと顔を見合わせた。
「魔女って?」
「悪い魔女。柴田さんは家来なの。魔女は礼美とお姉ちゃんが邪魔だから、毒で殺そうとしてるんだよ」
ミニーと名付けられた人形
礼美に「魔女」の話を吹き込んだのは人形だった。礼美の父親がフランスで買い求めたアンティークドールで、礼美は「ミニー」と名付け、片時も手離さない存在だった。
麻衣は偶然、礼美が人形のミニーと話している内容をドア越しに聞いてしまう。
『きっと今頃は懲りてるよ』
部屋の中から女の子の声が聞こえてきた。
……礼美ちゃん? でも、声が少し違うような。首を傾げたとき、さらに声がした。
『あたし、怖い……』
これは間違いなく礼美ちゃんの声だ。じゃあ、その前の声は?
あたしは思わず、ドアに耳を寄せる。
『大丈夫、今にみんな追い出してあげるから』
『お姉ちゃんも? 麻衣ちゃんも?』
低い含み笑い。
『もちろん……』
(略)
『大丈夫。あたしだけは礼美を守ってあげるから。悪い魔女の一味は、全部懲らしめてあげるからね』
これがきっかけでナルーーSPR(渋谷サイキックリサーチ)所長の渋谷一也とその仲間たちは人形を監視。人形が夜中に動く姿をみて、人形がポルターガイスト現象に関係しているのは間違いないと判断する。
しかし、除霊も、お焚き上げも、悪魔祓いも効かない。ナルはつぶやく。「人形は器に使われているにすぎないと思う。問題は、ミニーが何者なのか、ということなんだ」
……一人じゃ、ない
そのうちに麻衣は礼美がミニー以外の何かと遊ぶ場面に遭遇する。
礼美に訊ねると「おともだち」と言うだけ。二階で突然物音がして、各部屋に設置したモニターをチェックすると、スピーカーから音が聞こえた。
どこかで子供の声がした。サブスピーカーから流れる雑多な音の中に、声としか思えない異質な音が混入している。
(略)
「……一人じゃ、ない」
何かを怒鳴る声、泣き叫ぶ声、喚き立てる声。どれも子供の声だ。
礼美もようやく打ち明けてくれた。
「ほんとはもう、怖かったの。ミニーから逃げたかった。けど……ミニーは何でもお見通しで、どんなとこでもやって来るし、それにミニーには家来がいっぱいいて」
「家来?」
礼美ちゃんは頷いた。
「いっぱいいるの。礼美ぐらいの男の子とか女の子。みんなミニーの家来なの。ミニーがいいって言うと、一緒に遊んでくれるけど、ミニーが怒るとみんな……」
礼美ちゃんを虐めるのだ。それが怖くて、礼美ちゃんは何も言えなかったし、何もできなかった。ーーどんなに辛かっただろう。
墓場のようなものです
ナルたちは仲間のひとり、霊媒師の原眞砂子を呼ぶと、眞砂子は顔を真っ青にした。
「なんですの、ここは」
「こんな酷い……こんなに険悪な幽霊屋敷を見たのは、初めてですわ……」
「……この家は墓場のようなものです」
紹介はここまでにしましょう。引用したところを読み返しても、徐々に恐怖の度合いが増していくことが読み取れるでしょう。真正のホラー小説です。
でも、くどいようで恐縮ですが、必ず第1巻「旧校舎怪談」から読んでくださいね。
(しみずのぼる)
人形をモチーフにしたホラー「3選」はこちらをご覧ください。
・人形はとっても怖い:小野不由美「人形の檻」
・世代超える人形の怪異:山岸凉子「わたしの人形は良い人形」
・雛人形の禍々しさに恐怖する:三津田信三「ついてくるもの」
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