きょうは上橋菜穂子さんの〈守り人〉シリーズの第2作目「闇の守り人」の紹介です。文庫版の帯に「大人の読者人気No.1作品! 信義とは何か。人間が守るべき本分とは」とあります。わたしも読んでいて一番涙したのは「闇の守り人」です(2024.11.13)
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「闇の守り人」の紹介に入る前に、前回記事では前置きが長過ぎてはしょってしまった〈守り人〉シリーズそのものの紹介をします。
〈守り人〉シリーズは、1996年に偕成社から「精霊の守り人」が出版されてから、最終巻の「天と地の守り人」(全3巻)が出版される2007年まで、11年の歳月をかけて出版された全10冊からなるファンタジー小説です(出版年月は偕成社版)
- 精霊の守り人 1996年7月
- 闇の守り人 1999年1月
- 夢の守り人 2000年5月
- 虚空の旅人 2001年7月
- 神の守り人 来訪編 2003年1月
- 神の守り人 帰還編 2003年1月
- 蒼路の旅人 2005年4月
- 天と地の守り人 第一部 ロタ王国編 2006年11月
- 天と地の守り人 第二部 カンバル王国編 2007年1月
- 天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編 2007年2月
このほかに主人公たちが登場する短編集や外伝も計3冊ありますが、物語の骨格は上記の10冊です。
養親ジグロの気持ち
シリーズ第2作目にあたる「闇の守り人」は、前作「精霊の守り人」でバルサがチャグムーーニュンガ・ロ・チャガ〈精霊の守り人〉になってしまい、父帝から命を狙われる身となったーーを助けて逃避行を繰り返す中で、カンバル王国で王位簒奪の陰謀に巻き込まれ、父の親友ジグロとともに逃避行を余儀なくされた自身の過去と重ね合わせたことで、ようやく過去と向き合う気持ちになれたところから始まります。「精霊の守り人」の終章で、こんな言葉が出てきます。
「チャグムと出会ってーーチャグムの用心棒になって、ようやく、ジグロの気持ちがわかったような気がする」
こうして故郷のカンバル王国に足を踏み入れるバルサですが、折しもカンバル王国では新たな陰謀がうず巻いているところで……というストーリーです。
女用心棒バルサは、25年ぶりに生まれ故郷に戻ってきた。おのれの人生のすべてを捨てて自分を守り育ててくれた、養父ジグロの汚名をそそぐために。短槍に刻まれた模様を頼りに、雪の峰々の底に広がる洞窟を抜けていく彼女を出迎えたのはーー。バルサの帰郷は、山国の底に潜んでいた闇を目覚めさせる。壮大なスケールで語られる魂の物語。読む者の心を深く揺さぶるシリーズ第2弾。
洞窟で助ける兄妹
バルサが帰還の経路に選んだのは、ユサ山脈の地下にクモの巣のように広がる洞窟だった。25年前にジグロに連れられて脱出した路を通って帰ることにした。
洞窟は〈山の王〉の家来ヒョウル〈闇の守り人〉たちが行き来すると言われるが、洞窟の中でしか取れない石を勇気の証として求めて洞窟に入るカンバルの子供たちが少なからずいた。バルサが洞窟で出会ったのも、石を求めて洞窟に入ってヒョウルに襲われる兄妹だった。
ヒョウルと短槍で戦い、カッサとジルの兄妹を助けたバルサだったが、ふたりが持ち帰った石ーーこの世でもっとも美しい宝石といわれるルイシャ〈青光石〉だったことから、大人たちにバルサの帰還が知られてしまう。
ジグロの実弟の野望
カンバルでは、ジグロは卑劣な反逆者に仕立て上げられていた。そのジグロを討ち取ったと称してジグロの実弟ユグロが英雄扱いされていた。ジグロは病死したのであり、ユグロに討ち取られたわけではないーーそのことを唯一知っているバルサは、ユグロから口封じのため狙われる身となった。
そのユグロは、王をも騙してひそかな計画を遂行しようとしていた。それは宝石ルイシャを〈山の王〉から奪う…という途方もない計画だった。
魂の救済はできるか
ユグロの刺客に襲われて瀕死の状態となったバルサをかくまい、手当をした牧童の長老がバルサにユグロの計画を阻止するよう頼む場面が出てきます。
「これこそ、運命ってやつだろう。ーージグロは、〈舞い手〉に選ばれながら、〈山の王〉を裏切り、故郷に災いをもたらした。多くの短槍使いを殺し、兄弟の情と氏族長の血筋なんてもののために、ユグロに金の輪を手渡してしまったのだからな。やつの魂は、きっと死んでもやすらいではいないだろう」
バルサは、歯をくいしばった。死の直前のジグロの言葉が、耳の底によみがえってきた。
ーーおれは、母なるユサの山なみの底に沈み、自分の罪は、自分で償う。「な、バルサさん。これは、運命だよ。そのジグロに鍛えられたあんたが、カンバルのために、命をかけるとすればな」
バルサは、きっと目をあげた。
「……ふざけるな」
キリキリと歯を鳴らして、バルサは、うなるようにいった。
「この国が、わたしにあたえてくれたのは、地獄のような日々だったんだ。ジグロが災いをもたらした? ーーそうさせたのは、いったい、だれだったんだ!
わたしは、今でもジグロがまちがっていたとは思わない。ジグロは、人としてできる、ぎりぎりのことをしたんだ。わたしにおなじ人生があたえられたとしたら、わたしも、ジグロとおなじことをしただろうよ。
あの日々をーーあの苦しみをーー運命なんて言葉で、かるがるしくかたづけないでくれ!」
(略)
「……もし、わたしが、こんなことのために命をかけるとしたら、それはカンバルのためなんかじゃない。ーーこの国のために、地獄の苦しみをあじわって死んだ、ジグロのためさ」
バルサは、ジグロが遺した罪ーーユグロの野望を打ち砕くことができるか。そしてジグロの魂を救済することができるか……。そこは「闇の守り人」を手に取ってお確かめください。
嗚咽をとめられない
〈守り人〉シリーズは、基本的にバルサやチャグムが艱難辛苦を乗り越えるものがたりですから、ある意味、涙を誘うような場面は出てきません。
ところが、この「闇の守り人」だけは、終盤はもう嗚咽をとめることが難しくなります。
なぜ泣けて泣けて仕方ないのか、それを書くことは限りなくネタバレになってしまうため、できないのがもどかしいのですが、嗚咽をとめられないほどの感動を呼び起こす「闇の守り人」は、〈守り人〉シリーズの中でも異彩を放つ一冊です。
大人がしびれる一冊
2011年に出版された「『守り人』のすべて 守り人シリーズ完全ガイド」(偕成社)の巻頭に、こんなふうに書かれています。
『精霊の守り人』にはじまる、十一巻の「守り人シリーズ」。
長いな、読んでみようか、どうしようかな、と迷っている方は、
まずは、『精霊の守り人』か『闇の守り人』のどちらかを、
手にとってみてください。
この二冊は、どちらから読んでも楽しめますよ。子どもにも大人にも老人にも愛されている、
大河物語のはじまり『精霊の守り人』
その深い心理描写から、大人がしびれる『闇の守り人』どちらかを読んでみて、気に入った方なら、きっと、
あっという間に全巻読破してしまうはず。
いや、読破してしまうのが惜しくなるはずです。
大人がしびれる「闇の守り人」です。ぜひ手に取って、心地よい涙を流してください。
(しみずのぼる)
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