音楽がつなぐ”たった一度”の出会い…映画「ONCE ダブリンの街角で」 

音楽がつなぐ”たった一度”の出会い…映画「ONCE ダブリンの街角で」 

きょう紹介するのはアイルランド映画「ONCE ダブリンの街角で」(原題:Once)です。ストリートミュージシャンと移民のほのかな恋を、全編にあふれかえる音楽で描いています(2024.9.6) 

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観客の口コミで評判に

最初にブルーレイの「Introduction」から紹介します。 

音楽を通した普遍的な出会いを描いたこのアイルランド映画は、アメリカでは当初限定2館のみの公開だったが、観客の口コミにより140館まで拡大され、サントラ盤は全米チャート2位を獲得!2007年サンダンス映画祭ではワールド・シネマ観客賞受賞!そして2008年アカデミー賞歌曲賞受賞!全米の各メディア、批評家から絶賛されている。”言葉”にできないもどかしさを”音楽”にのせることで、より心に響く物語とハーモニーは多くの共感を呼んだ。 

たった2館の上映から口コミで評判となった映画と聞けば、やっぱりいいものはいいとわかってもらえるものなんだなあ…と嬉しくなりますが、製作は大変だったそうです。 

プロデューサーが途中で降りてしまって、低予算での製作を余儀なくされ、屋内のシーンは照明スタッフもいないで撮影したような雰囲気の映画です。ジョン・カーニー監督は「手作り感を大事にした」と言いますが、予算上の制約もおそらくあったのでしょう。 

そもそも主役の2人は俳優でもありません。本業はどちらもミュージシャンで、この映画以降も映画には出演していません。その代わりにふたりは「The Swell Season」という音楽ユニットで活動しています。 

つまり、主役は音楽なのです。 

楽器店で音楽を合わせる

あらすじは、ブルーレイの「Story」から。 

男(グレン・ハンサード)と女(マルケタ・イルグロヴァ)は、恋か友情か、心の通じる相手を見つけた。男は穴の空いたギターを抱え、街角に立つストリート・ミュージシャン。女は楽器店でピアノを弾くのを楽しみにするチェコからの移民。そんな一見、なんの接点もない二人を、音楽が結びつける。一緒に演奏する喜びを見つけた二人のメロディが重なり、心地よいハーモニーを奏でる。そんなどこの街角でも起こりうる出会いが、静かに動き始める……。 

男が夜、ギターを鳴らして自作の歌を歌っていると、女が拍手をして曲のことを訊ねる。昼間弾いているのと曲想が違う理由を聞かれ、男は昼間はお金が稼げる曲を歌い、夜は自分の曲を歌うと答える。別れた恋人への未練を赤裸々に歌った歌だった。 

翌日、男が街角でギターを弾いていると、女が掃除機を引きずってきた。前夜、仕事を聞かれて掃除機の修理屋と名乗って「直せる」と請け負ったからだった。男がいまは道具を持ってきてないから直せないと言うと、「今日直すって言ったのに」。悪く思った男がランチに誘い、そこで音楽の話題になった。 

女はチェコ出身。バイオリン奏者だった亡き父にピアノを教わったという。ピアノは高くて買えないが、「楽器店がお昼に1時間弾かせてくれるの」。ふたりは楽器店に向かい、女が「あなたの曲を」と水を向け、男はギター、女はピアノで音合わせをしていく……。 

ここでふたりが演奏するのが、アカデミー賞歌曲賞を受賞した「Falling Slowly」(グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ作)です。 

セリフの代わりに音楽で表現

ストーリーはいたってシンプルです。 

別れた恋人への気持ちを引きずる男と、夫をチェコに残して母と娘とともにアイルランドに移民として住み始めた女が、音楽を通じて友情を育む。互いにほのかな恋愛感情は抱きながらも、それ以上の関係には発展せず、最後は男がふたたび音楽と向き合い、自作CDを手に恋人のいるロンドンへ旅立つ……というものです。 

この映画が出色なのは、男が別れた恋人への未練を歌う「Lies」や、女が別居中の夫のことを歌う「The Hill」など、セリフの代わりに音楽で気持ちを表現していくのです。なんと本編87分の映画のうち、6割が音楽シーンです。 

君が本気で決めたのなら

男のCD作りを女が手伝うことになり、スタジオを借りて、一緒に演奏する仲間を見つけ、最初に演奏するのが「When Your Mind’s Made Up」(グレン・ハンサード作)です。 

最初はやる気のまったくないミキシングの男が、曲の中盤から徐々に目の色を変え、曲にのめり込む姿は、「音楽には人の気持ちを動かす力がある」という監督が映画に込めたメッセージが伝わってきます(ジョン・カーニー監督は、映画の世界に入る前、主役のグレン・ハンサードのバンドでベーシストでした) 

So, if you ever want something 君が何かほしい時
And you call, call 呼んでくれれば
Then I’ll come running ぼくは走っていく
To fight, and I’ll be at your door 君を守るために辿り着く
When there’s nothing 走る意味が
Worth running for 別になくても
 
When your mind’s made up 君が本気で決めたのなら
When your mind’s made up 君が本気で決めたのなら
There’s no point trying to change it 考え直す必要はない
When your mind’s made up 君が本気で決めたのなら
When your mind’s made up 君が本気で決めたのなら
There’s no point trying to stop it やめようとしなくていい

音楽にふたたび向き合う気持ちを固めた男の心情が吐露されるような歌詞です。 

沈みそうな舟で家を目指そう

そして物語のラスト、男がロンドンに旅立つ時……。女が家に届いたピアノを弾きながら、男との日々を振り返るように窓から外を見つめる時……。かぶせるように「Falling Slowly」がふたたび流れてきます。 

Take this sinking boat 沈みそうな舟で
And point it home 家を目指そう
We’ve still got time まだ時間があるから
Raise your hopeful voice 希望の声をあげろ
You have a choice 自分で選んだ道だ
You’ll make it now きっと君はたどり着ける
 
Falling slowly ゆっくりと
Sing your melody 歌おう君のメロディを
I’ll sing along ぼくも一緒に歌うから

グレン・ハンサードの公式ユーチューブに「Falling Slowly」があり、ストーリーがわかる内容となっています。 

Glen Hansard, Marketa Irglova – Falling Slowly (Official Video)

また、「When Your Mind’s Made Up」は、ふたりが作るThe Swell Seasonの演奏がユーチューブにありました。 

Swell Season – When Your Mind’s Made Up (Live at Amoeba)

気に入ったら、ぜひ映画もごらんください。 

なお「ONCE ダブリンの街角で」の成功を受け、ジョン・カーニー監督がハリウッドに進出して製作した映画が「はじまりのうた」(原題:Begin Again)です。こちらも超おすすめです。 

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hintnomori.com

(しみずのぼる) 

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