新海誠監督の代表作『秒速5センチメートル』。アニメ版における遠野貴樹と篠原明里のせつないすれ違いは多くの人の心に深く刻まれていますが、第2話「コスモナウト」のヒロイン・澄田花苗のその後を知る人は少ないかもしれません。実は、清家雪子氏による漫画版では、アニメでは描かれなかった花苗の東京でのストーリーやその後の救いが丁寧に描写されています。本記事では、映像詩としての魅力を受け継ぎつつ、花苗の未来を描き切った漫画版ならではの見どころと感動を解説します。(2023.8.29)
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目次
アニメから続く3話構成の映像詩
2007年に製作された新海誠監督のアニメ映画『秒速5センチメートル』は、3つの短編アニメーションで構成され、トータルでも63分という短い映画です。DVDの背表紙から内容を紹介します。
小学校の卒業と同時に離ればなれになった遠野貴樹と篠原明里。ふたりの間だけに存在していた特別の想いをよそに、時だけが過ぎていった。そんなある日、大雪の降るなか、ついに貴樹は明里に会いに行く……。
貴樹と明里の幼い恋心と彼らの再会を描いた「桜花抄」、高校生へと成長した貴樹に想いをよせる同級生、澄田花苗の視点で描く「コスモナウト」、そして彼らの魂の彷徨を切り取った表題作「秒速5センチメートル」
新海監督の作品ですから、とにかく映像がきれいで「映像詩」という表現がピッタリです。
名曲が彩る、せつないすれ違いの記憶
特に第3話の表題作は、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」の音楽に乗せて、映像のフラッシュバックで貴樹と明里らの「魂の彷徨」と時の経過をあらわしていて、さすが新海監督という映像美です。
DVD付属のブックレットによると、制作中に息抜きのためにコンビニ立ち寄った際、流れていた曲が「One more time……」だったのだそうです。
例えば何かが失われた、あるいは最初からないと感じているとし、それをあえてそのままに描こうとしていたのが本作だった。そういう決意を、街で偶然この曲を耳にするという体験が後押ししてくれた。
心は許されるの
どれ程の痛みならば
もういちど君に会える
One more time
季節ようつろわないで
One more time
ふざけあった時間よ
くいちがう時はいつも
僕が先に折れたね
わがままな性格が
なおさら愛しくさせた
One more chance
記憶に足を取られて
One more chance
次の場所を選べない
いつでも捜しているよ
どっかに君の姿を
向いのホーム路地裏の窓
こんなところにいるはずもないのに
願いがもしも叶うなら
今すぐ君のもとへ
できないことはもう何もない
すべてかけて抱きしめてみせるよ…
第2話「コスモナウト」|香苗のせつない恋心
第3話が、中学1年生の雪の日に再会した貴樹と明里のその後を描いているので、第1話と第3話は連続したストーリーです。
一方、高校生へと成長した貴樹に想いをよせる同級生、澄田花苗の視点で描く第2話の「コスモナウト」は、花苗の視点で描かれていることもあり、花苗のせつない感情が全編あふれかえっています。
それだけに、「花苗のその後はどうなったの?」「花苗は自分の気持ちにどうやって折り合いをつけたの?」という感想を抱いた人は少なくないのではないでしょうか。
わたしにとって「コスモナウト」がとても好きな作品とあって、この宙ぶらりんの気持ちが映画『秒速5センチ…』への唯一の不満でした。
それだけに、漫画版を手に取って、花苗のその後が描かれているのを知った時は、本当に本当にうれしくて涙が出ました。
漫画版の最終話に描かれた「空と海の詩」
漫画版の作者は清家雪子さん。以前に紹介した『まじめな時間』の作者です。
ただ、著者欄は清家さんの名前と並んで新海監督の名前があるので、花苗のその後を描いた「最終話『空と海の詩』」のストーリー自体は、新海監督が書かれたのだと思います。
「空と海の詩」は、花苗の故郷・種子島でサーフィン仲間から「よかったらオレとつきあってくんないかな」と告白されるところから始まります。
貴樹への想いが決して届かないことに気づいて泣いた高校3年の秋から、すでに10年が経過していた。
鹿児島の看護学校に通い、いまは種子島の病院で看護師をしている花苗は、数日後、告白してきた男を呼び出し、10年前の恋心を打ち明ける。
そばにいて優しく笑ってくれるのに
心はずっと遠くの何かに向かっているような……
(略)
最近特に…思い出すの
彼のこと
東京へ向かう花苗が掴んだ未来
ふつうに恋愛しようとしても、うまくいかなかった10年の歳月。花苗は、自分の気持ちにふんぎりをつけようと、貴樹のいる東京に向かう。
東京の雑踏に酔い、同級生から聞いた住所を手掛かりに、近くの公園のベンチにたたずむ花苗。
遠野くん
遠野くんは
たどり着けた?
遠野を想う花苗は、はたして貴樹と再会できるでしょうか。
「コスモナウト」が大好きだった方なら、ぜひ漫画版を手に取って、花苗のその後を確かめてください。
(しみずのぼる)
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