小学校や中学校の図書館でこんな本と出逢ったら、その子は将来どんな読書体験をして大人になるんだろう…そんなことを考えながら楽しく読んだ児童書を紹介します。なんと稀代のホラー作家、伊藤潤二氏のホラー漫画のノベライズです(2026.1.27)
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児童書史上最凶級の恐怖?
本のタイトルは「何かが奇妙な物語」で、出版社は学研プラス。帯には「児童書史上最凶級の恐怖です」とあります。



え?これって児童書なんだ!
もちろんわたしは「ホラーなんて青少年にとって有害図書だ!」みたいな頑迷固陋な見解の持ち主ではありません。わたし自身、小学生の頃に楳図かずお氏の漫画は貪るように読んだ口です。
宮部みゆきと『世界の名作怪奇館』
小学校や中学校の図書館で”出逢う”児童書について、先日紹介した宮部みゆき氏のホラー・アンソロジー「贈る物語 Terror」(光文社刊)に、こんなくだりが出てきます。
中学一年の夏、学校の図書館で、いっぷう変わった真っ黒な表紙の本を見つけました。『世界の名作怪奇館』全八冊。今思えば、この叢書との出会いが、わたしのその後の人生を決めてしまったーーと言っても、けっして大げさではありません。
各巻に収録されている作品は、小中学生向きに易しく改稿され、タイトルも親しみやすいように変えられてこそいましたが、まさに極上の逸品ばかりでした。
その『世界の名作怪奇館』で宮部さんがはじめて読んだというW.W.ジェイコブズの「猿の手」を「贈る物語 Terror」は収録しているのですが、こういう読書体験は誰しもお持ちではないでしょうか。

宮部みゆき編「贈る物語 Terror」に触れた記事はこちらです
天才画に秘められた狂気の真相と恐怖…「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」
わたしも小2・小3の時に偕成社や岩崎書店のSFシリーズを貪るように読み、ホラーは小4の時に(シリーズ名も忘れてしまいましたが)ポーの「黒猫」「アシャー館の崩壊」、小泉八雲の「耳なし芳一」「雪女」などと”出逢い”ました……。

学研プラスの編集者さんは、いまの小学生や中学生に伊藤潤二に”出逢って”ほしいと思ってこの本を作ったんだろうな…
そう思うと、何やらオカシクなり、読んでみようと思ったわけです。ちなみに、わたしが伊藤潤二氏のホラーを読んだのは大人になってからです(伊藤氏のデビュー作「富江」は1986年作。すでに社会人でした…)
「何かが奇妙な物語」の収録作品
「何かが奇妙な物語」の2冊を読んでみると、未読の作品もいくつかありました。伊藤ホラーは結構読んでいるはずなのに…と驚きましたが、それほど多作の作家だということでしょう。収録作品は以下のとおりです。
「墓標の町」
- 長い夢
- 地縛者
- 棺桶 「双一」シリーズ
- 墓標の町
- 漂着物
- 死刑囚の呼鈴
- 血玉樹
- 寒気
- なめくじ少女
- トンネル奇譚
- 耳擦りする女
- 地獄の人形葬
「緩やかな別れ」
- ご先祖様
- いじめっ娘
- 隣の窓
- 緩やかな別れ
- 土の中…
- 潰談
- 黴
- 落下
- 押切異談・壁
- 木造の怪
- 毛髪 「富江」シリーズ
「血玉樹」「いじめっ娘」…
わたしが以前紹介した記事で触れた作品も複数入っています。
同短編集で個人的に好きなのは「あやつり屋敷」と「血玉樹」です。
伊藤潤二のホラー短編漫画集から1冊選ぶなら…山中で車の事故を起こした安西と加奈は、助けを呼びに民家を探すことにした。途中、不気味な子供たちに襲われる。彼らは噛みついて血を吸おうとしたのだ! 子供たちから逃れたふたりは集落を見つけるが、人気はなくあちこちに赤いシミが……。ようやくひとりの男が住む館を見つけ、泊まらせてもらうことにしたが、その男から、ある女性の思い出話を聞かされる。「彼女は孤独な女性で、みんな、自分を避けていくと考えていました。自分の体から血さえ逃げていくと」(血玉樹)
「歪」から紹介する1作目は「墓標の町」です。短編集「墓標の町」(2013年、朝日新聞出版刊)に入っています。
兄の剛と妹のかおるは、転校していった親友・泉の転居先の町に遊びに行くことに。しかしその道中、車で少女をはねて死なせてしまう。死体をトランクに隠しやりすごそうとする剛だったが、泉が“不思議な町”と呼ぶその町には、至る所に墓標が立っていて―――。
「歪」の自作解説で、伊藤氏は次のように書いています。
お墓は墓地や山中などにあるのが普通だが、もしそれがそうでない場所に唐突に立っていたら? という発想。元を辿れば、人が木になって路傍に立っているという、筒井康隆さんのシュールな傑作「佇むひと」の影響だと思う。筒井先生からは多大な影響を受けた。
筒井康隆氏の「佇むひと」は、せつなさ溢れる初期短編の傑作。「墓標の町」のラストも「佇むひと」に通じる哀切を感じさせます。
「歪」から紹介する2作目は「いじめっ娘」です。
裕太郎と遊びたい栗子は、自分になついていた直哉が次第にうとましくなり、意地悪をしはじめる。しかし泣きながらも離れようとしない直哉の様子を見ているうちに、栗子の中には邪悪な悦びが芽生えていき……。悲劇の果てに待ち受ける哀しみと狂気、それが最終ページで圧倒的な恐怖へと変化するサイコスリラーの傑作。
まさにこのとおりで、霊や怪物のたぐいはまったく登場しないのに、最後の1ページによってもたらされる恐怖はただならぬものがあります。
「歪」から紹介する3作目は「緩やかな別れ」です。
由緒ある戸倉家には死んだ人間を一族の念で残像として蘇らせるという秘密があった。20年あまりで消えてしまうその残像は、死者と家族との緩やかな別れの期間として一族にある種の充実を与えていた。そんな戸倉家に嫁いだ璃子は、その儀式や現象に最初は驚いたものの、次第にその特異な家族の形に慣れていくのだが……?
もし、伊藤ホラーでもっともせつない作品は?と聞かれたら、わたしは間違いなく「緩やかな別れ」を挙げます。
伊藤潤二のホラー短編漫画集からもう1冊選ぶなら…
このようにバラエティーに富んだ作品を選んでいます。

いまの小学生や中学生が読んだら「いじめっ娘」なんて、どんなふうに思うんだろう? 「緩やかな別れ」のせつなさは、さすがにまだわかんないんじゃないかな…
オリジナルの漫画が挿入
「何かが奇妙な物語」の2冊が秀逸なのは、各話とも、ノベライズを担当した澤田薫氏の文章に挿入するかたちで、伊藤潤二氏のオリジナルのコマ割りが挿入されている点です。
これは挿し絵とはまったく違います。まさに言葉どおりの挿入です。たとえば「土の中…」で紹介しましょう。
「土の中…」は、中学生の卒業記念でタイムカプセルを埋めた同級生が20年ぶりに集まってタイムカプセルを掘り出す話です。その過程で、ひとりの女生徒がクラスで孤立していたことが明かされます。
(澤田氏のノベライズ部分)
「それがね、つい先日も電話があったんだけど、うんざりしちゃった。この20年、何度も電話があったけど、毎回同じ話題なのよ」
クレーンがアームを上げ、今まさにカプセルが引き上げられようとしている。
「もちろん、あの文化祭の時の話よ。高山さんに対する憎しみとか、級友に罵声を浴びた時の口惜しさとかを、延々と聞かされるのよ。私が話題を変えようとすると、口調を荒くして怒りだすの……」(オリジナルのコマ割り=セリフ部分を引用)
「ねえ…それって…少し異常なんじゃない?」
「そうなの…二十年も昔の事をつい昨日の事のように話すの……なんだか気持ち悪くて……」
(よーし OK)
(危ないよ どいてどいて!!)
(オーライ オーライ)
「さあ皆さん 待ちに待った瞬間がやってまいりました カプセルがゆっくりと地上に降ろされます」(澤田氏のノベライス部分)
カプセルがゆっくりと地面に下ろされた。
地面にカプセルが置かれた時、重くて鈍い音がした。
「さぁ、いよいよカプセルが目の前にやってきました!」
マイクで実況中継をする元生徒会長の声が響く。
挿し絵でなく挿入ーーという意味がわかって頂けたでしょうか。 オリジナルの漫画への興味を惹く仕掛けになっているとも言えます。
伊藤ホラーの入門書として最適
読み終えての感想を一言でいえば、

この本が「児童書」と括られてしまうのはあまりにもったいない!
です。大人でも存分に楽しめる本ですし、特に伊藤ホラーを読んだことがない人には最適な入門書になるでしょう。「何かが奇妙な物語」の2冊からオリジナルの漫画に誘われていけば最高です。

でも、やっぱり小学生や中学生の感想が聞いてみたいなあ…
(しみずのぼる)
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