スタジオジブリのアニメ映画「海がきこえる」が今年7月に全国リバイバル上映されるそうです。氷室冴子さんの原作に忠実ながら、原作とは微妙に異なる味付けもあって、原作とは違った魅力を放つ青春映画です。この夏の楽しみがひとつ増えました(2025.3.26)
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「懐かしい」がキーワード
まず、「海がきこえる」(望月智充監督)が今年7月に全国リバイバル上映される件です。
国内最大級の映画・ドラマ・アニメのレビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」主催のリバイバル上映プロジェクトにて、スタジオジブリ作品『海がきこえる』が2025年7月4日(金)より、3週間限定で全国リバイバル上映されることがが決定しました。全国で上映されるのは今回が初めてです。
これを知ったファンからは「ギャー!! コレ絶対見に行きたい。」「やったあああ」「懐かしい」「全国でやってくれるのめっちゃありがたい」との声があがっています。
マグミクス – 地上波放送たった1回のジブリ作品『海がきこえる』初の全国上映決定 来場者特典の「匂わせ」も
ファンの声にある「懐かしい」ーーこれは観る機会が限られるというだけでなく、内容そのものにも関係していそうです。
氷室さんの原作を紹介した以前の記事でも触れましたが、「懐かしい」は「海がきこえる」の重要なキーワードのひとつです。
「海がきこえるII」(1999年刊行の文庫版)のあとがきに、脚本家の岡田惠和氏がおもしろいことを書いています。
いまも色褪せない青春小説の傑作:氷室冴子「海がきこえる」「海がきこえる」好きな男性は、たいていこんな風に言います。
「懐かしい感じがする」
「そういえば、俺にも似たようなことがあったなぁ」
でも、これも錯覚なんじゃないかと私は思うのです。
私もそんな気持ちになりました。
「あぁ、そういえば……」
でも、私は東京生まれの東京育ちだし、この本に出てくるような出来事なんて、ほとんど重なることはなかった。
でも、懐かしい気持ちになれる。
これって、何なんでしょうね。
全国上映の機会にぜひ確かめてみてください。
印象的な吉祥寺駅のシーン
アニメ映画「海がきこえる」のあらすじを紹介しましょう。

東京の大学に進学した杜崎拓(もりさきたく)は、吉祥寺駅の反対側ホームにある人影を見た。中央線下り列車に姿を消したその人影は確かに武藤里伽子(むとうりかこ)に見えた。だが里伽子は高知の大学に行ったのではなかったのか。高知へと向かう飛行機の中で、拓の思いは自然と里伽子と出会ったあの2年前の夏の日へと戻っていった。
そうそう、この吉祥寺駅のシーンがいいのです。バックに流れる「ファーストインプレッション」のピアノが効果的に響きます。
「あたし、かわいそうね」

里伽子は勉強もスポーツも万能の美人。その里伽子に、親友の松野が惹かれていることを知った拓の心境は複雑だった。拓にとって里伽子は親友の片思いの相手という、ただそれだけの存在だった。それだけで終わるはずだった。高校3年のハワイの修学旅行までは…
拓はハワイ旅行で里伽子からお金を貸してくれと頼まれるが、里伽子がお金を必要としていたのは母親の離婚で別れた父親に会いに出かけるため。ひょんな事情で巻き込まれた拓は東京まで付いていってやることになる。
ところが、もともと里伽子ら家族が住んでいた成城のマンションにいたのは父親の不倫相手。拓が父親の手配で新宿のホテルでくつろいでいると、チャイムのなる音が。目を真っ赤に腫らした里伽子が「ここに泊まるわ」と飛び込んできたーー。
コークハイに酔いながら、里伽子は言った。
「ねえ、杜崎くん。あたしね」
「あたしね。ママたちがモメたとき、ママがバカだと思ってたの。見過ごしてればいいのに、わーわー騒ぐから、パパも意地になっちゃって、離婚なんてカッコ悪いことになっちゃってさ。あたしや貢も、大好きなクラスメートと別れて、高知みたいなド田舎に転校しなきゃならなくなって、ひどいって」
「……うん」
ド田舎という言葉には、憎しみがこもっていた。里伽子はそのころ、ほんとにド田舎にいかなきゃならないめぐり合わせを憎んだのだろうと実感できる言い方だった。
「パパの味方のつもりだったの。でも、パパはわたしの味方じゃなかったのよ」
「あたし、かわいそうね」
お風呂で寝るシーン
予定外の里伽子の押しかけで、拓は寝床に困った(このあたり、今の若い人たちならもっと違いそうですよね…)。ひとりで食事を外ですませて部屋に戻ると、
ありがたいことに里伽子は、服を着たままベッドにもぐりこんで、グースカ寝ていた。
ぼくはタメ息をついて、洋服ダンスみたいなところの戸をあけた。そこに予備の毛布があったのを、ウロ覚えで覚えていたのだ。
毛布はちゃんと、棚にあった。
それを持って、しょんぼりとバスルームに入った。浴槽はかなりでかくて、長くて、外人用かと思えるほどで、体を縮めれば、眠れないこともなさそうだった。
浴槽の下に、バスタオル二枚をしいた。ぼくは毛布をかかえて浴槽にはいり、膝を縮めて、横になった。
(ひでえ連休だな、ちくしょー! どうして、こんなことになったがな)あたし、かわいそうね。
ぽつりといった里伽子のセリフが思いうかび、
(ぼくだって、そうとう、かわいそうやんか)
と思ったが……ーーたしかに、里伽子はかわいそうだった。里伽子はかわいそうだと、ぼくは心から思った。そして、そのまま眠ってしまった。
お風呂で寝る印象的なシーンは、氷室さんの原作からそのまま引用しました。とてもとても大事な場面です。
映画を観ていない人もいると思うので、これ以上は控えますが、映画の終盤でこの場面に触れる里伽子のセリフが出てきます。
きっとアニメ映画版のファンは、このセリフのシーンが一番大好きなんだと確信しますが、実は氷室さんの原作にはありません(えええ???と思うでしょう?)
裏を返せば、望月智充監督や作画を担当した近藤勝也氏らスタジオジブリの若手制作スタッフたちが取り組んだアニメ映画版「海がきこえる」は、氷室さんの原作に勝るとも劣らず、独立した作品として優れているのだとわたしは思います。
制作過程で高校時代に絞ったことも、アニメ映画版が成功した理由のひとつでしょう。
短い放送時間の中で原作のエピソードを全て描ききるのは困難だと考えた望月は、原作の前半部(高校生編)か後半部(大学生編)のどちらか一方のアニメ化を希望していた。そして作監の近藤、制作プロデューサーの高橋望、脚本を手がけた中村香を交えた話し合いの結果、高校生編を中心に大学生編の一部を加えた内容でストーリーを構成することが決まった。
ウィキペディアより
やっぱり僕は好きなんや
そして、映画のラスト(ここも原作には出てきません)。冒頭のシーンと重なる吉祥寺駅での拓と里伽子の再会にかぶせて拓のセリフが流れます。
ああ…やっぱり僕は好きなんや…
そう感じていた
吉祥寺駅のシーンは”聖地巡礼”の対象にもなっているようです。

「海がきこえる」は音楽もいいので、ぜひ注目してください。
この夏の全国リバイバル上映の情報は、Filmarksの公式X(@Filmarks_ticket)で随時公開されるそうです。待ち遠しいですね。
大学生の2人に”会う”なら原作を
きょうはアニメ映画版「海がきこえる」の紹介でしたが、氷室冴子さんの原作が素晴らしいのは言うまでもありません。


大学生になった拓と里伽子に会いたければ、原作の「海がきこえる」(徳間文庫)と続編「海がきこえるII アイがあるから」(徳間文庫)をぜひ読んでください(あ~、また読みたくなってきた…)

(しみずのぼる)
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