少女ホラーのレジェンド的作品と言えばコレ…楳図かずお「赤んぼ少女」 

少女ホラーのレジェンド的作品と言えばコレ…楳図かずお「赤んぼ少女」 

少女ホラー漫画というジャンルがあります。その中でレジェンド的作品と言えば、わたしが真っ先に思い浮かべるのが、昨年亡くなられた楳図かずお氏の「赤んぼ少女」です。怖くて、可哀想で、妖しい少女ホラー漫画の世界に誘われること間違いなしです(2025.2.6) 

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妹の漫画をむさぼり読む

私には3歳下の妹がいます。小・中学生の頃は妹の本棚から拝借した少女漫画をずいぶんたくさん読みました。 

くらもちふさこ「いつもポケットにショパン」…亜月裕「伊賀野カバ丸」…萩尾望都「ポーの一族」…このあたりはみんな妹の本だったなあ 

妹はホラーもOKでしたから、いわゆる少女ホラー漫画も妹の本棚から漁って読んだものでした。「赤んぼ少女」()もそんな一冊です。 

生まれた時から離ればなれとなっていた両親の元へ、晴れて引き取られることになった少女・葉子。孤独な施設での生活から一転、親と暮らせることに加え新居は瀟洒な洋館で、葉子は感激しきり。だが、手放しで歓待してくれた父とは違い、母は彼女を見るなり「タマミ」という別人の名を呼びかけて…? 

)小・中学生の頃に読んだ当時は「のろいの館」というタイトルでした。現在購入できるのは「赤んぼ少女」なので、基本的にこの表記を使います。 

長じて社会人になっても「赤んぼ少女」の記憶は鮮烈で、角川ホラー文庫で「赤んぼう少女」が出版された時はすぐに購入しました。奥付をみると平成6年=1994年のことです。 

お化け」の立場で書いた

角川ホラー文庫の「赤んぼう少女」は巻末に楳図氏と大槻ケンヂ氏の対談が載っていて、ふたりはこんなことを言っています。 

大槻 子供のころに『のろいの館』を読んだ時は、一ページめくるのが怖いっていう世界で、ヒーッとか言いながら読んでたんですけど、あらためて読むと、タマミちゃんってかわいいですよね。 

楳図 僕ね、『のろいの館』(単行本収録時に『赤んぼう少女』を改題)を描くまではお化けに所属するようなキャラクターが怖さのもととして出てきていたんだけど、これはたぶんお化けの立場にたって物語を見ていった最初の作品なんだなって、思っているんですよ。 

楳図氏にとっても画期となる作品ーーそれが「赤んぼ少女」です。 

醜い容姿を持つ赤ん坊

施設で育った葉子は、お手伝いさんもいるような大きな洋館で父親に厚い出迎えを受ける。 

夕子 おまえの子どもの葉子だよ
ごらん 大きくきれいになって帰ってきたのだよ

父親が母親に葉子を紹介したが、母親はこう返した。

まあ タマミ
まあ きれい!
タマミ おまえ いつのまに
こんなにきれいになって よかった

父親が「夕子 これはタマミじゃない 葉子だよ」と注意すると、母親も「葉子 葉子だったわね ごめんなさい」と訂正する……。 

その夜、葉子が風呂に入っていると、水面に気味の悪い両目がうつり、「ふふふふふ」という怪しい声がーー。夜中に目がさめると、母親が仏前に「さあ…おあがり」と声をかけて食べ物を供えるが、後で覗くと食べ物が消えていた。 

なにかがいる……。それが醜い容姿を持つ赤ん坊・タマミです。母親はかばってくれるものの、父親に疎まれ、タマミはページをめくるたびに葉子への嫌がらせをエスカレートしていきます。 

化粧して涙するタマミ

でも、それだけではないところが「赤んぼ少女」の魅力です。 タマミが姿見を前に化粧をするシーンが出てきます。

頭に髪飾りをつけて、口紅を塗ってみる。鏡にうつる自分の顔を見て、涙をポトンと落とす。 

物語の終盤では、タマミは葉子を古井戸に連れて行きます。 

おまえにはわからないだろうけど
ここはわたしがひとりで泣きにくる
秘密の場所なんだよ

タマミは手に濃硫酸を持って、こう言います。 

わたしはこれで何度
この醜い姿を焼ききって
死のうとしたことか

いかがですか。楳図氏の言うとおり「お化けの立場にたって物語を見ていった最初の作品」ーーそれが「赤んぼ少女」です。 

少女フレンドに毎週連載

角川ホラー文庫版「赤んぼう少女」には、呪われた家系に生まれたネコ少女の恐怖を描く「黒いねこ面」、雪山で遭難して互いに怪談話を語りあう「怪談」が収められていますが、どれも1966年から67年にかけて「週刊少女フレンド」に連載された作品です。 

ほぼ毎号「週刊少女フレンド」で連載してる…。それだけ人気があったということだろうから、女の子って怖い漫画がほんとに好きなんだろうなぁ… 

綾辻氏編纂の文庫もおすすめ

楳図漫画は奥深いですからあまり深入りしませんが、個人的におすすめの本は、この角川ホラー文庫の「赤んぼう少女」と、綾辻行人氏が編纂した「楳図かずお怪奇幻想館」(ちくま文庫、2000年刊)です。 

おすすめの楳図かずお本2冊です

後者で特に好きな短編は「とりつかれた主役」(少女を襲っている表紙の作品)と「恐怖の館」です。どちらも現在は「恐怖」(全2巻、小学館)で読めます。 

綾辻氏による巻末の解説から引用しましょう。 

とりつかれた主役」(1969年、『取り憑かれた主役』改題)は、「普通」の人間が「異形」に変わるーーすなわち「変身」をモチーフにした、端正な作りの正統派ホラー。みやこ高校を舞台とする「高校生記者シリーズ」の一篇として発表された。「恐怖の館」(67年)も同じシリーズの一編だが、シリーズ中でも随一の異色形だろう。名作「半漁人」(65年)にも通じるあるアイディアが光る、綾辻偏愛の一品である。 

角川ホラー文庫の「赤んぼう少女」も、綾辻氏編纂の「楳図かずお怪奇幻想館」もすでに品切れですから古本で探すしかありませんが、収録作品は小学館から再刊されています(電子書籍でも読めます) 

「赤んぼ少女」(小学館)
「恐怖」1巻(小学館)
「恐怖」2巻(小学館)

大槻ケンヂ氏が子供の頃に震え、綾辻行人氏も「偏愛」と語る少女ホラー漫画の世界ーー。ここで紹介した「赤んぼ少女」などの作品は、どれも最初の入り口として最適です。ぜひ手に取ってみてくさい。 

(しみずのぼる) 

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