“最恐”ホラー、令和に降臨…山岸凉子『わたしの人形は良い人形』 

“最恐”ホラー、令和に降臨…山岸凉子『わたしの人形は良い人形』 

山岸凉子氏のホラー漫画短編集『わたしの人形は良い人形』が文春文庫から発売されました。宣伝文句が「少女漫画界のレジェンド、山岸凉子の“最恐”ホラー、令和に降臨」というもの。降臨かぁ…すごいなあ…と驚きますが、表題作が屈指の「人形ホラー」であるのは確かです。是非読んでほしい短編集です(2025.2.5) 

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トラウマ級の恐怖|道連れにする少女を「無念」の魂が探し続ける

死者と共に葬られなかった市松人形が世代を超えてもたらす怪異を描いた表題作「わたしの人形は良い人形」については、以前に「日本のホラー漫画界に燦然と輝く、伝説の一作」と評して記事にしています。 

📖山岸凉子「わたしの人形は良い人形」徹底解説はこちら

山岸凉子「わたしの人形は良い人形」|死者と共に葬られなかった人形がもたらすトラウマ級の怪異
日本のホラー漫画界に燦然と輝く、伝説の一作があります。山岸凉子氏の「わたしの人形は良い人形」。タイトルは童謡の一節ですが、死者とともに葬られなかった市松人形は、…
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今回、文春文庫から再刊され、お求め安くなったのですから、これを機会に多くの人に手に取ってほしい作品と思いますが、それは文春さんも同じ思いなのでしょう。宣伝文句(Amazonの紹介文)が尋常ではありません。 

少女漫画界のレジェンド、山岸凉子の“最恐”ホラー、令和に降臨。

山岸作品の中でも、トラウマ級の恐怖と言われる伝説的な作品がある。
それが表題作「わたしの人形は良い人形」だ。

昭和21年。初子という少女が交通事故で死んだ。
葬儀では副葬品として立派な市松人形が添えられたが、
その人形は初子と一緒に焼かれないまま箪笥に仕舞われることになる。
長い時を経て、今、呪いの人形が背後から忍び寄ってくる……。
ラストの1ページが、読む者を更なる恐怖に突き落とす!

「こんな恐ろしい話、ほかにない」──三宅香帆

「令和に降臨」という表現は、何ともすごいですね……。

あらすじは上記の文章でよくまとまっていますし、わたしも感想・読書レビューはすでに書いているるので、付け加えることはあまりありません。

でも、文庫の解説(筆者は文芸評論家の三宅香帆氏)を読むと、このように出てきます。

本書に収録された「わたしの人形は良い人形」。こんなに恐ろしい話、ほかにない。なぜこの物語が恐ろしいのか。それはこの話が、どうしようもないからだ。ーーあるひとりの少女が、不憫な事故で亡くなった。そして人形を副葬品として棺に入れなかった。そんなの、どうしようもない、ありふれた出来事だ。しかしどうしようもないからこそ、想いはどこにも行き場がないまま残る。だから道連れにする少女を、無念の塊である魂は探し続ける。

なるほど…「山岸ホラーで最怖」と評される本作の核心をつく評だと思います。

まさに令和の時代でも手に取ってほしい短編集であるのは間違いありません。その一念で、もう一度紹介文をまとめてみよう…と思った次第です。

収録作「八尾比丘尼」|人魚の肉を食べ八百歳の命を得る

とはいえ、表題作について付け加えることはないので、きょうは表題作以外から紹介します。こちらも相当怖いホラー漫画「八尾比丘尼」(やおびくに)です。 

十六の時、人魚の肉を食べ
幾百年たっても若わかしく
十六歳の容顔であった

八百歳の時に
空印寺境内後瀬山麓の
大巌窟に入定し
八尾比丘尼と称せられる

こんなふうに八尾比丘尼の言い伝えが巻頭に書かれた後、場面は現代の原宿に移ります。 

上京して二年目
つまらない

女子高生の江崎は、父の再婚で家に居場所がなく、ひとりでアパート暮らし。加えてクラスでも浮いた存在だ。 

男と服と化粧の話しかしない級友
こんなところを一人で歩いていると
もうたまんない!たまんない!

孤独と不満をためた少女に「あなたは一人ぼっち?」

そんな孤独と不満を抱えた江崎は、ある日、美少女から声をかけられた。 

あなたは一人?
一人ぼっち?

江崎が答えないでいると、 

あたしもよ
あたしもあなたと同じ
あたし探していたの
あなたのような人

そして、美少女は江崎を誘った。 

ねえ 夏休み 用がないのなら
うちに遊びに来ない?

江崎は美少女に誘われて別荘でひと夏を過ごすことに…。その別荘には美少女の母と叔母がいた。美少女、母、叔母は、3姉妹と言っても通用するほど若く、驚くほど容姿端麗だったーー。 

わたしたち八百歳まで生きるの
聞いたことあるでしょう
人魚の肉を食べて八百歳まで生きた話を

美少女のこの後に続くセリフーー事の真相は明かさないでおきますが、「令和に降臨」した山岸ホラーは確かに”最怖”です。 

40年以上前の作品ばかり…それでも今読むべき理由

このほかの収録作は、 

家々に火が灯る日暮れ時。歩いても歩いても家に辿り着けないその訳に戦慄する「化野の……」 

両親の離婚でN市のとある学校に転校した少女を襲う怪奇現象を描いた「千引の石」 

です。わたしはどちらも未読でしたので、結局、文庫を購入してしまいました。

収録作品を雑誌掲載順に並べると次のようになります。

  • 化野の……:1982年
  • 八尾比丘尼:1982年
  • 千引の石:1984年
  • わたしの人形は良い人形:1986年

いずれも40年以上前の作品ですが、山岸ホラーをなぜ今読むべきなのか、三宅香帆氏の解説から、そのヒントとなる文章を紹介します。

誰かにないがしろにされたこと。誰かに搾取されたこと。誰かに傷つけられたこと。人間はずっと覚えているし執着する。感情はなかったことにならない。現実で痛い目を見てそれを知るたび、私は山岸作品を読み返す。そして「ああ、ずっと前に山岸凉子先生が教えてくれていたじゃないか」と苦笑するのだ。

決して色褪せない傑作が詰まった短編集です。多くの人に手に取ってもらえたらと思います。

(しみずのぼる) 

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