よしながふみ『環と周』感想|「また会ったね」に涙する再会の物語

よしながふみ『環と周』感想|「また会ったね」に涙する再会の物語

よしながふみさんのオムニバス漫画『環と周』(集英社)は、様々な時代や関係性の中で紡がれる「好きのかたち」を描いた作品です。作中では、姿かたちを変えながらも惹かれ合う二人の魂の物語が繊細に描かれており、多くの読者の心を揺さぶります。本記事では、最終話やエピローグの結末に触れつつ、本作の魅力や「また会ったね」という言葉が持つ深い感動について、あらすじを交えてレビューします。(2026.1.23) 

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時代や関係性を超えて描かれる”好きのかたち”

『環と周』のあらすじの一部をAmazonから引用します。 

家族、恋、友情……さまざまな関係性で綴られる“好きのかたち”。
──現代編 中学生の一人娘が同級生の女の子とキスをしているのを目撃して動揺する妻。実は夫にも、かつて同級生の男の子を好きになったことがあった。
──明治時代編 大切な“お友達”になった女学生の環と周。周の縁談が決まり二人は離れ離れに……。
──70年代編 病気で余命わずかと知った環は、同じアパートに住む少年と出会い交流が始まる。
──戦後編 復員兵の周は元上官の環と再会し、闇市で一緒に店を始めるが、環には秘密があった。

登場人物の名前はいつも「環」と「周」ーー現代編では夫婦ですが、明治時代は女学生同士、70年代は年の離れた大人と子ども、戦後編は復員した元上官と元部下。「関係性」はバラバラで、共通するのは名前と「好き」の気持ちだけ……。でも、 

あれ? これは姿かたちを変えているけれど、おなじ魂が惹かれ合って出逢いを重ねているのかな……? 

と思うのは第3話ーー「70年代編」あたりでした。 

【戦後編】闇市で再会する元上官と元部下

どの短編もすこぶるよいのですが、ここでは第4話ーー「戦後編」を紹介します。 

この時空の「周」は家で首をくくろうとしていた。そこへ登場する「環」ーー。 

こらッ!!
こらこらこらッ!!
何て事をッ!!
やめなさい
やめなさいッ!!

!?
これは…!!
白鳥環班長殿でありますか!?

鮫島周二等兵
せっかく助かった命だろう!?
馬鹿な事をするもんじゃないよ!!

生きていたって仕様がありません…
こんな…こんな女房も子供もいない家に帰ってきたって…!!

周は「近所の人」から聞いた家族のことを語り出した。 

娘の和子は疎開先から帰ってきた後チフスで亡くなって
間もなく女房はよその男とどこかに行ったって

環は「自慢にもならんが俺の家族も空襲で一人残らず死んじまったよ それでも俺はこうして生きてるんだぞ!?」と慰め、「俺の仕事をちょいと手伝ってくれないか」と誘った。 

環の仕事は新宿の闇市でカストリーー粗悪な密造酒を売ることだった。客はさまざま。売春婦のマチコが周に目をとめた。 

あら新入りのお兄ちゃんだ
コンバンワ

南方にいた時の部下だよ
鮫島ってんだ

闇市を仕切ってる山田組の根津に絡まれつつも、周は闇市での忙しい日々に徐々に慣れ始めた。 

戦地の記憶を呼び起こす環の「貝殻節」

環は歌が上手かった。根津に頼まれて鳥取の貝殻節を環が唄うのを聞いて、周は南方の戦地での夜を思い出した。 

お前達ともこれでお別れか
田村・鮫島・塚本は明日からラバウルだな
俺みたいないい加減な上官のもとでお前達はよくやったよ
配給の菓子や煙草はちゃんと受け取ったか?

いえ!自分の分はどうか班長がお持ちください
自分はもうこのまま内地に帰れないと思います
形見だと思ってどうか!

環は「形見は嫌だから煙草の礼に一曲歌わせてもらうよ」と言った。貝殻節だった。 

〽戻る
 船路にゃ
 艪櫂(ろかい)が勇む
 (可哀やのう 可哀やのう)
 愛し妻子(つまこ)が待つほどに
 愛し妻子が待つほどに

俺だけじゃない
貝殻節を聞いた事が無い者も
妻子がいない者も
みなが班長の歌を聞いて泣いていた

妻との再会と、物語の鍵を握る「環の秘密」

周は闇市の日々に慣れ、根津が調達したコーヒー豆で淹れたてのコーヒーをつくり、「照子もきっとどこかで生きてくれてる」「俺もしゃんとして生きていかなきゃ」という言葉が口をついて出るようになった。 

そして雨の夜、照子がカストリ酒場に姿を現したーー。 

紹介はここまでにしておきましょう。Amazonのあらすじにある「環の秘密」を書くのは無粋も甚だしいので。 

結末とエピローグ:「また会ったね」の感動

ひとつひとつの話に泣かされるのですが、どの時代でも同じ名前の環と周が登場します。夫婦として、女学校の同級生として、元上官と元部下としてーー。 

それはなぜか。オムニバスを貫く謎は、最終話(Amazonのあらすじで唯一削った部分)で明かされます。

そして、エピローグでふたたび冒頭の第1話(現代編)に戻り、夫婦の環と周がかつて大学生の時、就活中に出逢う場面がラストに紹介されます。 

あ…沢渡さん

お疲れさま!立石君もここの説明会来てたんだね!

うん まあ記念受験みたいなもんだからたぶん全然ダメだと思うんだけど

いやいやご謙遜ご謙遜
しかし今日はずいぶん暑いね…
ちょっとお茶でも飲んでいこうかな
立石君は?

そうだね 僕も飲もうかな
けどさ
ゼミが一緒だった時も思ったけど
何だか沢渡さんとはたまたま会うよね

ホントだね!また会ったね!

こんな普通の場面なのに、もう泣いています。「また会ったね」の一言が、こんなにも心に沁みるなんて……。 

ネタバレが過ぎると怒られそうですが、 

家族、恋、友情……さまざまな関係性で綴られる“好きのかたち” 

という一文では「環と周」のよさは絶対伝わらないと思うので、どうかどうかお許しください。 

「環と周」が連載された「ココハナ」では、第1話(現代編)のあらすじが読めます。環と周の表情もわかりますので、どうぞ覗いてみてください。 

環は仕事の帰り道、空き地で娘の朱里が同学年の女の子・則本さんとキスをしているところを目撃してしまう。帰宅して夫に相談するが、夫は思うところがあるようで…。実は、…
cocohana.shueisha.co.jp

(しみずのぼる)

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