きょう紹介するのは田中圭一さんの取材漫画「ペンと箸」です。登場するのは漫画界のレジェンドたちのお子さんたち。「家庭でレジェンドはどんな親だったか」をエピソードを交えて描いています。 レジェンドたちの画風を模した田中さんの画力が光る傑作です(2025.3.28)
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目次
ぐるなびの連載漫画を書籍化
「田中圭一の「ペンと箸」 – 漫画家の好物 –」(小学館)は、以前に田中さんのもうひとつの傑作「うつヌケ」(KADOKAWA)を紹介した際に触れているのですが、今回は単独で取り上げます。

「ペンと箸」は、第1話の最初のページにコンセプトが書かれています。文字の部分をそのまま引用します。
父 偉大なる父
もしもあなたのお父さんが名だたる著名人だとしたら…あなたはその大きな背中をどんな気持ちで見つめるのでしょうか?
尊敬? 憧れ? それともライバル心?この企画は偉大な父を見つめてきた「息子さん・娘さん」をお招きして
お父さんに縁のある料理を紹介していただきつつーーその思い出を語ってもらう
グルメレポートマンガです!!
読むまで知らなかったのですが、飲食店の紹介検索サイト「ぐるなび」内の「みんなのごはん」というページで、2014年から16年まで月1本ペースで掲載された漫画がもとになっているそうです。
そのため、書籍化に合わせてサイト内のコメントも一部掲載されていたり、田中圭一さんの模写(?)の苦労話も交えてあったりで、とても充実した書籍となっています。
田中さんの模写(?)がスゴイ!
模写(?)と書いたのは、田中圭一さんが毎回登場する漫画家の画風を真似て描いているのですが、その模写ぶりがとにかく上手い! オリジナルを知っていれば捧腹絶倒ものです。
これはオリジナルの画風を知らないとおもしろさがまったく伝わらないので、著者の漫画の表紙をいくつか挿入しますので、その表紙で描かれるキャラクターをイメージして読んでください。
謝謝称把亜洲人 書得那磨美!
例えば、池上遼一さんの回。

ああ~「男組」はハマったなあ…



登場するのは池上遼一氏の娘・池上美穂さんと夫で漫画編集者の池上昌平さんです。
池上遼一は香港・台湾を中心にアジアのファンが多いんですけど、その理由がわかりますか?
カッコいい池上キャラの多くは「アジアの人の顔」なんです
一般的には劇画の美形キャラと言えば
マネキンみたいな「西洋人の顔」になってしまうんですよ
だから アジア人をあんなに美しくカッコよく描ける池上さんが尊敬されるんです池上先生!! 謝謝称把亜洲人 書得那磨美!
(オレたちアジア人を美しく描いてくれてありがとう池上さん)
この( )の部分に、上記3つの表紙のような池上キャラが勢ぞろいして笑顔で描かれます(田中圭一さんの模写した池上キャラはほんとにソックリです)
夏休みの宿題の昇り龍
池上遼一氏の回は、エピソードも抜群におもしろいです。
美穂さんが小学生の時、夏休みの宿題が間に合わず、「お父さんお願い 代わりに描いて」と頼んだら、
気軽に描いてくれたんです
すごい昇り龍の絵!ちょっと待て!!
まさかソレ提出したのしました
いくらなんでも池上遼一さんの描いた龍でしょ?
絶対先生にはばれたよね?でも先生からはなにも言われなかったけど…
いやいやいや!!
おそらく先生たちは…
(ひょっとしてこれはなにかのギャグなのか!?)
この( )部分に、池上遼一の悪役キャラ風の校長先生と担任の絵が挿まれる…という具合です。

池上遼一の漫画は、悪役も悪役っぽくって、ほんとカッコいいもんなー
小5の少女が森山塔を読破…
もうひとり紹介しましょう。山本直樹氏の回です。




ほんとよく読んだなあ(妻や子供たちに隠れて…)
登場するのは山本直樹さんの娘、山本佳奈さんですが、ここで語られる話は「ペンと箸」出色のエピソードです。
家の屋根裏部屋
そこは小学五年生の私にとって…
まるで財宝が山積みされた宝物殿ーー
そんな場所でした
そこで私は父が勧めてくれた
宝石のようなマンガたちと出会いました
ここで田中圭一さんの描く高橋留美子『うる星やつら』のラムちゃんや手塚治虫の『ブラックジャック』が挿まれます…。
そしてある日
もっと面白そうなのはないかな?森山塔…?
こんなにたくさんあるなんて…
お父さんはこの人の大ファンなのかな?え?!
なに? …これそれは小学五年生の少女にはあまりに刺激的な内容でした
このあたりから山本直樹さんの描く女性キャラを想像してください(「ペンと箸」でも田中圭一さんが描く山本直樹キャラのエロい表情がバンバン挿まれます)
そこで私は今までに体験したことのない興奮を感じました
単なるエロスだけではない
名状しがたい引力のような魅力を持った作家ーーそれが森山塔だったんですその日から頻繁に屋根裏部屋に上がって森山塔を読破しました
え!? お父さんなの?
その翌年。父の実家に帰省した時、祖母が「お父さんのデビュー当時の記録をスクラップしてあるんだけど見る?」と見せてくれたスクラップブックをみて、
え!?
森山塔って
お父さんなの?
小5の女の子が森山塔にハマるのもすごいし、それが山本直樹氏のペンネームであると初めて知る衝撃も想像するに余りあるものがあります。
山本直樹と言えばエロい青年漫画。森山塔と言えばとってもエロい「禁18」の成人漫画ーーという使い分けだったのでしょうか。わたしも森山塔は結構読みましたーー。
もう散逸してしまったので記憶で書きますが、ドラえもんのアニメソングの歌い出しをもじった
「あんな娘(こ)といいな できたらいいな」
というタイトルの本もありました……。
えwwちょwwやめてよww
こんなふうに取り上げる漫画家の画風に思い切り似せた漫画で展開するのもおかしく、挿入されるエピソードには笑いあり涙ありで、とにかく飽きさせません。
ここでは「笑いあり」のほうのエピソードを紹介しましたが、通読すると泣けるエピソードのほうが多いような気がします。
中でも出色は「うつヌケ」の記事で紹介した「ド根性ガエル」の作者、吉沢やすみさんの回です。
そんな大ヒット作を生んだ父ですけど
その次が続かなくて
とても苦しんだみたいです。ペンを持つと手が震えるようになり
そのうち吐き気もとまらなくなってその後 清掃会社で働きだしたものの…
しばらくして父は突然
失踪してしまいました吉沢さんが「うつヌケ」できた経緯や、いまはお孫さんと幸せな暮らしをしている場面(ラストのひとコマ)は、ぜひ「ペンと箸」を手に取ってご確認ください。 泣けること請け合いです。
うつは「心の風邪」じゃない:田中圭一「うつヌケ」
毎回締めくくりに載る「田中圭一のひとこと」を紹介しましょう。
ネット連載時に一番反響が大きかった回です。「ペンと箸」でも屈指の「泣ける回」になりました。(略)ちなみに、キャラクターを最後のコマで大集合させるカットは、「こんなの泣くに決まってるだろ!!」と同業者からは非難轟々でした(笑)
サイト連載中のコメントも載せます。
えwwちょwwやめてよwwここ職場なんですけどwww涙腺崩壊して仕事サボってるのバレるじゃないですかwww
わたしも、このラストのコマは何度見ても涙腺が崩壊します。
「ペンと箸」はグルメサイトのネット漫画ですから、本題は食事です。
池上遼一さんの回なら越前がに料理、山本直樹さんの回ならトウモロコシの天ぷら、吉沢やすみさんの回なら特選国産牛上カルビ焼ーーという具合に紹介されています。
でもそれ以上に、笑いあり涙ありのエピソードに惹かれてしまうーーそれが「ペンと箸」の魅力です。
23人の漫画家と家族が登場
「ペンと箸」に登場する漫画家は
- ちばてつや
- 手塚治虫
- 赤塚不二夫
- 山本直樹
- 西原理恵子
- ジョージ秋山
- 江口寿史
- 吉沢やすみ
- 池上遼一
- いがらしゆみこ
- 魔夜峰央
- ゆでたまご(中井義則)
- 中島徳博
- 上村一夫
- かわぐちかいじ
- 矢口高雄
- 諸星大二郎
- 石坂啓
- 平松伸二
- 相原コージ
- うえやまとち
- 畑中純
- 永野のりこ
の23人です。「懐かしいなあ…」という漫画家もいるでしょうし、「読んだことない」という漫画家もいることでしょう。
「ペンと箸」をきっかけに、オリジナルの漫画を読んでみる、再読してみる。そんな楽しみ方もできると思います。

「男組」や山本直樹、そして散逸した森山塔… 中古本を探して、ひさしぶりに読んでみようかなあ…
(しみずのぼる)
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