きょう紹介するのはイギリスの児童文学作家ニール・ゲイマンの「コララインとボタンの魔女」です。アニメ映画は子供向けのしつらえですが、親の視点でも存分に楽しめる(怖い思いをする)ダーク・ファンタジーです(2025.2.22)
〈PR〉


ヒューゴー賞受賞、アニメ映画化
わたしの手元にあるのは2003年刊行の単行本(角川書店)で、著者ニール・ゲイマンの説明は次のようなものです。
イギリス生まれ。人気コミック『サンドマン』の原作者。ダーク・ファンタジー作家。世界幻想文学大賞、ヒューゴー賞、ブラム・ストーカー賞など数々の文学賞を総なめにする、今、もっとも注目される作家である。

2002年に出版された「コララインとボタンの魔女」(原題:Coraline)も、前年のSFやファンタジーで読者投票によって選ばれるヒューゴー賞の受賞作で、2009年には「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」で有名なヘンリー・セリック監督がアニメ映画化しています。

11歳の少女コララインは、引っ越したばかりの家で不思議なドアを見つける。扉の向こうで彼女を待っていたのは、夢のような世界と、何でも願いをかなえてくれるボタンの目をした”別の世界”のママとパパだった。楽しくて、夜ごとドアを開けるコララインに、別の世界のママは言う。「ずっとここにいて良いのよ。ただ1つ条件があるの。目をボタンにしましょう…」。慌てて元の世界に逃げ帰るコラライン。しかし、家に帰ると、本当の両親が消えてしまっていたーー。(DVDパッケージより)

両親がかまってくれない
アニメ映画は原作に忠実ですが、もともと子供向けのしつらえなのでしょう、大人がみると少し物足りないかもしれません(小学生就学前や低学年ぐらいなら、存分に面白がってくれるでしょう)。ニール・ゲイマンの原作も、ヤングアダルトというよりは子供向けかな?と思います。
でも、コララインがなぜ、目がボタンのママやパパがいる別の世界に惹かれるかと言えば、現実世界の両親がかまってくれないからです。
親の都合で田舎に引っ越してきたコラライン。家のまわりはもう探検し尽くしてしまった。
「なにをしたらいい」コララインはいった。
「本でも読んだら?」ママが答える。「ビデオをみてもいいし、おもちゃで遊んでもいいし、ミス・スピンクとミス・フォーシブルのところか、上の変なおじいさんのところにいって、おしゃべりしてきてもいいじゃない」
「そんなのつまんないな。探検がしたいな」
母親が相手をしてくれないので、コララインは父親のところにいく。
パパは家にいる。パパもママもコンピュータの仕事をしているから、たいてい家にいる。ふたりはそれぞれ仕事部屋をもっている。
「どうした、コラライン」コララインが入っていくと、パパはふりむきもせずにいった。
コララインは外に遊びに行っていいか訊ねた。
「ママはなんだって?」
「こんな天気のときに外に出るなんてとんでもない、って」
「じゃあ、だめだ」
「でも探検の続きをしたいの」
「じゃあ、この階を探検すればいい」
仕方なく部屋の探検をしていて見つけたのが、上から壁紙を貼ったドア。母親に鍵で開けてもらうとレンガでふさがれている。母親はコララインに説明した。
「このお屋敷全部を一家で使っていたころには、このドアもどこかに通じていたのよ。でもこの階を分けたときに、手っ取り早くレンガでふさいでしまったみたい。このむこうは空き部屋よ。まだ売りに出てるわ」
そんなふさがれたドアが、夜になると別の世界への入り口になるーー。
アニメ映画の一部をユーチューブ動画から紹介しましょう。
子供が小さいとき、若いおとうさんもおかあさんも自分のことで手いっぱいです。わたしもそうでした。でも、そんなふうに子供をかまってあげていないと、危険な世界に子供がはまりこんでしまうかも……。
そんな導入部は、親の世代も(自分のふだんの振る舞いを思い出して)怖い思いをしながら読み進めることができるでしょう。
魔女にゲームをもちかける
家に戻ると行方がわからなくなった両親を捜しにボタンの目のママ(実は魔女)のもとへ帰り 、魔女にゲームをもちかける。
両親と、コララインの周囲に現れる3人の子供の幽霊の奪われた目を探して見つけられたらコララインの勝ち、見つけられなかったら魔女の勝ちで、コララインもボタンの目になるーー。
コララインはちゃんと両親たちを探し出すことはできるか……というストーリーです。
コララインがボタンの魔女と対決するシーンも、アニメ映画から紹介します。
ネットやSNS…異世界はいっぱい
久々に「コララインとボタンの魔女」を読み終えた(+アニメ映画を観終えた)あとで最初に頂いた感想は「ちゃんと子供の相手はしてあげなくちゃな…」でした。冒頭の母親の言葉を思い出してください。
「本でも読んだら?」
「ビデオをみてもいいし…」
いまならスマホを貸し与えて「好きなユーチューブ動画でもみてて…」という感じでしょうか。
ネットやSNSを通じて親の知らない異世界はいっぱいあります。そんなところに愛する子供がはまり込んでしまったら…。
実はとっても怖い小説(+アニメ映画)なのかもしれませんね。
(しみずのぼる)
〈PR〉

