きょう紹介するのは韓国ドラマ不朽の名作「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」です。あまりに有名な韓ドラですから、今さら何を…とも思いますが、ノベライズ版も交えて紹介します。あの場面はこういう意味があったのか!という部分もありますよ(2015.1.14)
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恋愛ファンタジーの傑作
「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」(全16話、2016~17年製作)のあらすじは、
幽霊が見える女子高生チ・ウンタクは幼いころ母を失い、意地悪な叔母とその息子・娘のもとで暮らしていた。ところがある日”トッケビ”と出会い、自らが”トッケビの花嫁”であることを知る。トッケビは一千年の昔、謀反の冤罪で処刑された武将キム・シンが神の悪戯で、処刑に使われた剣を胸に刺したまま現世に留まっているのだった。この世界でただひとり、トッケビの花嫁だけがその剣を抜くことができるのだが、それはトッケビがこの世から消えることを意味する(ウィキペディアより)
というものですが、Blu-ray&DVD発売に合わせたユーチューブ動画の予告編をまず観てください。
コン・ユ演じるトッケビと、キム・ゴウン演じる女子高生ウンタクの恋愛ファンタジーと言ってしまえばそれまでですが、これは観始めたらとまりません。せつない! 泣ける!
妻にすすめられて観たのが最初ですが、ノベライズも出ていることを知って上下2冊を読み、「あの場面はそういう意味だったのか!」と思って、改めてその場面を観直したり…と、しばらくハマッてしまった韓国ドラマです。


そばの花の花言葉
例えば、ウンタクが最初にトッケビを呼び出す海辺のシーンを紹介しましょう。ノベライズの上巻の表紙にもなっていますし、OSTのジャケットにも使われているシーンです。

ウンタクはその日は誕生日。しかし、叔母からいじめられ、家を飛び出して海辺にたたずみ、ひとりで自分の誕生日を祝った。
「アルバイトが見つかりますように! お願いだから叔母さんを何とかしてください! 彼氏もできますように!」
祈るとますますみじめな気持ちになった。ポトリ。涙が頬を伝った。
雨まで降ってきた。慌ててケーキのろうそくの火を吹き消した。すると急に風がやみ、目の前に白い花束を握った男が立っていた。
「私を呼び出したのは、おまえか?」
その男ーートッケビは、その直前まで、そばの花が咲き誇る広い草原にいた。誰もいない、トッケビしか知らない世界。ひとり考えに浸るときに訪れる場所だったが、白いそばの花を摘んでいると、少女の泣き声が聞こえた。そう思った瞬間、体が透明になった。そばの花が咲く花畑は、いつの間にか海に変わっていた。
「私がですか? 呼んでませんけど」
「おまえが呼んだのだ、確かに。どうやって私を呼び出した。思い出せ、どうやって呼び出したか」
ウンタクは思い当たった。
「おじさん、幽霊でしょう? 私、幽霊が見えるんです」
そして、男が手にしている花のことを訊ねた。
「その花、何ですか?」
「そばの花」
そばの花ってこんなに綺麗だったんだ。
「私にください。おじさんには似合いませんから」
幽霊であろうと構わない。誰かから、何かもらいたかった。誕生日なのだから。
ウンタクはトッケビに質問した。
「そばの花の花言葉って、何ですか?」
「恋人」
低い声が頭上で鳴り響いた。恋人ーー。あまりに美しい響きだ。白くて淡いこの花にぴったりの花言葉だった。

そうか……、花束のシーンは、ふたりの出会いを象徴する場面だったんだ……
トッケビと死神が並んで歩く場面
「トッケビ」は名場面の連続ですが、なかでも有名なのがトッケビと、イ・ドンウク演じる死神がふたりそろってウンタクを助けにくるシーンです。
例えば、韓ドラOSTの2枚組CD「WE LOVE 韓ドラ OST HITS COLLCTION」にも収録されているCHANYEOL & Punchの「Stay With Me」の紹介文はこう書かれています。
EXOのチャンヨルと女性シンガー、Punch(パンチ)が歌う「Stay With Me」のイントロを聴くだけで、コン・ユとイ・ドンウクの二人が、遠くから歩いてくるシーンが思い浮かぶ。
このシーンは、ノベライズではどう書かれているでしょうか。
ウンタクは放課後、学校の前で車に押し込められた。叔母に金を貸している借金の取り立て屋だった。
車に乗せるや、巨漢の男はウンタクのカバンを取り上げ、ウンタクの死んだ母が預けたはずの通帳を探し出した。「おい、オレたちは気が短いんだ。女子高生がこんな薄暗いところに連れ込まれたらどうなるか、わかるだろう。どこに隠したんだ、通帳は!」
ーーおじさん。
おまけの人生もこれで終わりだ。それでも、自分を助けてくれるかもしれない誰かを、思い浮かべるだけでも幸いだった。トッケビと知り合う前だったら、思い浮かべる人さえいなかった。悲しみの涙を一粒こぼし、ウンタクは下を向いた。それでもまだ生きたかった、まだ。
すると、車が急ブレーキをかけた。道の先のほうにある街灯が、まるで雷が落ちたかののように、バン!と大きな音を立てて次々と消えていった。車のヘッドライトだけになり、その先にふたりの人影ーー。
「何だ、あいつら! おかしいんじゃねえか?」
「何してんだ! そのまま走れ! 早く、アクセルを踏むんだ!」
トッケビは手に剣を握っていた。人間には見えない水の剣。その剣を大きく振り、猛スピードで突っ込んできた車を縦に真っ二つに切った。
「ケガしたのか? どこだ」
トッケビの広い胸がウンタクを抱きとめていた。何か言いたくても声が出ない。ウンタクは、小さな拳でトッケビの胸を叩いた。
「何だ?」
「……ケガしたのかって、そんな聞き方ありますか? 車をあんな風にして、危険な目に遭わせておいて」
しかも、死神と一緒に現れるなんて。助けてほしいのに、死神を連れてくる人がどこにいるのだ。
「いや。あの……ああなる前に、あいつらにケガさせられなかったか、という意味だったんだが」

まだこのころは死神を警戒するウンタクだったんだなあ…
などと思いながら、また名シーンを観直しました。
甘酸っぱい前半…涙がとまらない後半
ドラマの前半は、ウンタクとトッケビは徐々に惹かれあう展開ですから、存分に甘酸っぱい気持ちになれます。
死神にもサニーという愛しい女性が現れ、さらに死神とトッケビのコミカルな絡みもはさんで、ほのぼのとした気持ちで観ていられますが、あらすじにもあるように、
トッケビの花嫁だけがその剣を抜くことができるのだが、それはトッケビがこの世から消えることを意味する
ことをウンタクが知ってしまった後半からは、ウンタクが自身に危険が及ぶとわかっても、トッケビと距離を置こうとします。さらに死神とサニーの因縁も徐々に明るみになり、せつなさが溢れかえる展開の連続です。
未見の人にはぜひ観てほしいドラマですし、はまった人には、わたしのようにノベライズにも手を出して頂けたら…と思います。
結ばれることのないトッケビとウンタクの悲しい恋の行方はーー。
ノベライズのラスト(下巻の表紙=カナダ・ケベックの墓地が舞台です)を一部引用して拙文を閉じたいと思います。
ーー千年、万年も続く悲しみなんてどこにある。千年、万年続く愛もないし。
ーー私はあるに1票
ーーどっちに1票だ。悲しみか、愛か。
ーー悲しい愛?
一日が千年のようだった。毎日繰り返される千年を我慢していたら、ウンタクが本当に約束を守って来てくれた。「おじさん」
トッケビの目から涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「私のこと、知ってますよね?」
(しみずのぼる)

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