特撮ヒーロー生んだ青春群像…市川森一「私が愛したウルトラセブン」 

特撮ヒーロー生んだ青春群像…市川森一「私が愛したウルトラセブン」 

きょう紹介するのは脚本家市川森一氏の「私が愛したウルトラセブン」です。もとはNHKのドラマ(全2話)で、市川氏自身がノベライズを出版しています。特撮ヒーロー「ウルトラセブン」を生んだヒロインや若手脚本家たちの青春群像劇に郷愁を誘われます(2025.7.23) 

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観たくても観られなかった

ウルトラセブンは、円谷プロが製作したウルトラQ(1966年)、ウルトラマン(1966~67年)に続く特撮テレビドラマで、1967年から68年にかけてTBS系列で放送されました。 

わたしは年代的にリアルで観ていてもよさそうな年頃ですが、当時住んでいた県にTBS系列の放送局がなく、ウルトラセブンはのちに再放送で観ました。 

平成に入って地方放送局が多く開局、ケーブルテレビも普及した今となっては、「観たくても観られなかったテレビ番組」ということ自体が昔ばなしでしょう。でも、私にとってウルトラセブンはまさに「観たくても観られなかったテレビ番組」でした。 

そんな子供時代の苦い記憶と郷愁を刺激されたのでしょうか、NHK出版が1993年に刊行した「私が愛したウルトラセブン」は発売されてすぐに購入。30年以上たった今も手元に置いている一冊です。 

市川森一「私が愛したウルトラセブン」(NHK出版)

あとがきを読むと、NHKのドラマ番組部がウルトラセブンの放送25周年にあたる1992年度のドラマ制作として企画立案し、ウルトラセブンに新進脚本家として名を連ねた市川森一氏に脚本を委嘱したーーという成り立ちだったようです。 

脚本委嘱の折、「ウルトラセブンのバックステージもので、青春群像を……」という私たちの企画意図に、彼は一瞬ためらいを見せた。恐らく、彼個人の郷愁に留めて置きたかった”青春”を見せることへの恥じらいであったろう。 

最初の気づき(ヒント)を教えます

NHKアーカイブスでドラマの一部を視聴できます。
NHKアーカイブス – 「土曜ドラマ 私が愛したウルトラセブン」

アンヌ演じるひし美ゆり子

第1話「夢で逢った人々」はこんなストーリーです(ウィキペディアから抜粋) 

体育大学に在籍して将来は体育教師になろうとしていたひし美ゆり子は、アルバイトとして参加していた『ウルトラセブン』の撮影現場で、満田監督に見初められてヒロイン「友里アンヌ隊員」役に起用される。新作発表を間近にして、アンヌ役に決定していた女優が脚本家の一人と交通事故を起こすスキャンダルが発生(脚本家は死亡)、急遽代役が求められていたためだった。 

主人公はウルトラセブンの紅一点、ひし美ゆり子さん(演じたのは田村英里子さん)。なお実際は、アンヌ役が決まっていた女優は映画への出演をオファーされて降板、急きょ代役としてひし美さんに白羽の矢が立ったので、交通事故も脚本家の死亡もフィクションです。 

でも、ウルトラセブンと言えば、ひし美さん演じるアンヌ隊員の印象が強いので、ひし美さんを主人公に据えたのは正解だったのではないでしょうか。

ドラマと現実のはざまで

「私が愛したウルトラセブン」に、こんな場面が出てきます(会話をしているのはウルトラセブンのメーン脚本家の金城哲夫氏と監督の満田穧(かずほ)氏) 

「アンヌが金ちゃんと話したがってたんだけど。最後、自分とダンがどうなるのか知りたいらしいんだ」
「どうなりたいのかアンヌに希望を聞いといてョ」
「結婚したいッて言い出しそうだ」
これには金城も苦笑いで、
「ダンとアンヌが結婚。あまりの幸せに、ダンはセブンに変身することを忘れてしまいました。……それも悪くないか、じゃあね」
と言って、金城は立ち去っていく。

ひし美さんがモロボシ・ダンに恋するアンヌ隊員の気持ちにシンクロして、ドラマと現実のはざまで思い悩むさまが描かれます。こんなせりふも出てきます。 

「彼女は、何ンて言うか、ドラマと現実がゴッチャになってるだけなんです。普通は撮影用の衣装を脱いで、自前の服に着替えたら自分に戻るのに、彼女は衣装を脱いでもまだどっかアンヌのままなんです」 

金城哲夫の沖縄へのこだわり

一方、沖縄出身の金城哲夫氏(演じたのは佐野史郎氏)は、同じく沖縄出身の脚本家・上原正三氏とともに、沖縄へのこだわりを脚本に投影していきます。 

最終話「史上最大の侵略・後編」の脚本作りで金城が思い悩んでいた時、ひし美が訪ねてくる。 

「後編、楽しみ」「そう?」
「早く読みたいわ」「うん」
「セブンは宇宙に帰っちゃうの?」
アンヌの質問は、矢つぎばやだ。
「帰るしかないだろうねェ。もともと、地球人じゃないんだから」
一方の金城は、物語の構成を頭に描きながらなのか、ゆっくりと話す。
「地球人になりすまして暮らせないの? もうセブンに変身しないで、ダンのままで。ダンはアンヌを愛してるんでしょう? アンヌもダンを愛しているんだから、ふたりを別れさせるのは可哀相だわ」
「宇宙人はね、決して、地球人にはなれないんだな。他人の目はごまかせても、自分を騙せない……セブンはね、自分を偽って生きることに疲れたんだ」

ひし美との会話に刺激されて、金城はついに沖縄へのこだわりを打ち明ける。 

「ダンやセブンは、いつも自分だと思って書いてるよ。……沖縄ではね、本土の日本人のことを大和人(ヤマトンチュー)と呼ぶんだ」
「どうして沖縄の話を?」
「僕が沖縄人だから……僕はね、アンヌ、大和人(ヤマトンチュー)じゃないんだよ。昔、薩摩藩に侵略されて、力づくで日本人にさせられた琉球人の末裔なんだ。琉球人は決して大和人(ヤマトンチュー)にはなれない。亡び去った王国の血が、まだ身体の奥で脈打ってるんだ」
初めて他人に話した、金城の心の奥底の叫びであった。

ここで、ひし美がこう言います。 

「……琉球人だろうと大和人(ヤマトンチュー)だろうと……金城さんは金城さんに変わりはないじゃないの。たとえ日本人じゃなくても、金城さんは金城さんよ」 

あああ、これがウルトラセブンの最終回「史上最大の侵略・後編」のアンヌのせりふにつながるのかあ! 

「私が愛したウルトラセブン」はその場面の脚本も紹介しているので引用します。 

アンヌ なぜ逃げたりしたの? ね、答えて……ダン

ダ ン (とまどい、しかしついに意を決して)……アンヌ、僕は、僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来た、ウルトラセブンなんだ。

ガーンとシューマンのピアノ協奏曲イ短調が響き渡り、画面は一転して強烈な光をバックにしたダンとアンヌのシルエットに変わる。
見つめ合うふたり……。

ダ ン ……びっくりしただろう。

アンヌ ううん……人間であろうと宇宙人であろうと、ダンはダンに変わりないじゃないの。たとえウルトラセブンでも。

紛れもなく市川森一の青春小説

ふたたび、あとがきから引用します。 

物語の基本モチーフは”青春”である。「ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、彼らをドラマに織り込んで行く作業は、私を銀河鉄道で星空を旅するジョバンニの心境にしてくれた」と彼は言う。 

ウルトラセブンの製作を最後に沖縄に戻った金城哲夫氏、ひし美ゆり子と言えばアンヌ隊員と今なお語り継がれるひし美さん、そして新進脚本家として自身も登場する市川森一氏……。 

この作品は、まぎれもなく市川森一の”青春小説”である。彼がまだ若く夢多き新進脚本家だった時に、彼の”夢と青春”を育んだ人々への限りない”愛”が書かせたものである。 

30年以上も前の本ですから絶版なのはやむを得ないとは思いますが、古本を探してでも読んでほしい作品です。 

「ウルトラセブン Legend」も必見

なお、ウルトラセブンについては「ウルトラセブン Legend」というドキュメンタリー映画が2023年に製作されています。 

55年経っても色褪せない『ウルトラセブン』の魅力を、当時のキャスト、スタッフ、関係者のインタビューで解き明かす。モロボシ・ダン役の森次晃嗣さんも登場。

『ウルトラマン』の後継番組として、’67年10月から’68年9月まで放映された『ウルトラセブン』。敵対的な宇宙人に対する諜報戦が描かれることが多いなど軍事色が強まった。また、ドラマ性が重視されるなど、『ウルトラマン』と一線を画す作風が魅力的だった。

金城哲夫氏や市川森一氏はすでに故人ですが、モロボシ・ダン役の森次晃嗣氏やひし美ゆり子さんら存命の方々の証言を織りまぜながら、ウルトラセブンの制作秘話を明かしています。こちらも必見です。 

(しみずのぼる) 

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