おばあちゃんの含蓄あるセリフに胸が熱くなる…押切蓮介「サユリ」 

おばあちゃんの含蓄あるセリフに胸が熱くなる…押切蓮介「サユリ」 

映画化されて旬な話題となっている押切蓮介氏のホラー漫画「サユリ」(幻冬舎コミックス)。人間が怪異に敢然と立ち向かう展開にも驚きますし、含蓄あるセリフが多くて、どんな映画に出来上がっているのか楽しみです(2024.8.25) 

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負け戦はこりごりだ

「サユリ」は、「ミスミソウ」と並ぶ押切氏の代表作で、2011年から2012年にかけてコミック誌に連載され、幻冬舎から出版されました。 わたしは数年前に電子書籍で購入して読みましたが、 

こんなストーリー展開のホラーがあるのか! 

とたいへん驚きました。著者の押切氏自身、今回の映画公開に合わせて言っています。 

今までのJホラー映画で理不尽に散っていった人類の無念、僕はもう我慢の限界だ!霊に負けに負ける負け戦映画はもうこりごりだと思う人には是非観てほしい!霊に立ち向かえ!怒りに怒れ!バカになれ!! 

著者は映画に限定していますが、漫画でも小説でも「負け戦はもうこりごりだ」というストーリー展開はかなり異色であるのは間違いありません。 

この家に住んでた人って…どんな人だったの…? 夢の一戸建てマイホームへと引っ越した神木家。しかし、家族7人揃ってのありふれた幸せを満喫する間もなく次々と不幸で不気味な出来事がこの一家にふりかかる…。鬼才・押切蓮介の超絶ホラー、開幕――。(1巻) 
  
祓ったくらいじゃ、すませない。マイホームでの幸せも束の間、父、母、祖父、姉、弟…次々と家族が死んでいった神木家。悲劇を引き起こしたのは、この家に棲む“少女の霊”だった。残された少年と老婆の、“霊”への逆襲が始まる――。(2巻) 

「サユリ」1巻(幻冬舎コミックス) 24年に1・2巻を合わせた「サユリ 完全版」も発売

映画公開に合わせて、怪異への人間の反撃という本書の大きなプロットは種明かしされています。 

さらに、その主役となるのが老婆であることも明かされています(例えば、下記記事の見出し「少女の霊にばあちゃんブチギレ、孫と結託「復讐じゃ!!」」) 

少女の霊にばあちゃんブチギレ、孫と結託「復讐じゃ!!」 押切蓮介原作✕白石晃士監督作『サユリ』本編映像[ホラー通信]
getnews.jp

ですから、その範囲で「サユリ」の魅力を紹介します。 

次々と家族に襲いかかる怪異

夢の一戸建てマイホームに引っ越して来た神木家一家。父と母、姉、弟と則雄。一家の引っ越しに合わせて、離れて暮らしていた祖父と祖母も同居することになり、7人で暮らし始める。 

しかし、引っ越した翌日に父が心筋梗塞で死に、続いて姉と祖父がおかしくなり、母は首つり自殺。弟も行方不明となり、残されたのは則雄と祖母だけになる。 

祖母は引っ越した時点ですでに認知症の症状が出ていた。夕飯の時には昼に何を食べたかを忘れ、父が死んでもそのことがわからず……。 

その祖母が、家の中で聞こえる少女の笑い声に恐怖する則雄の後頭部を思い切りたたくのが、2巻に入って最初の第8話です。つまり、1巻は、その家で家族の手で殺された少女サユリが引き起こす怪異のせいで次々と神木家の人たちが死んでいく悲劇が描かれ、その展開は普通のホラーと何も変わらないのです。 

ところが、2巻から、認知症の老婆が俄然、正気になるのです。目つきが変わり、タバコをふかし、こう言うのです。 

則雄…
このままで…いいんか?
やられ損のままでいいんか…

ここからが、著者の言う「負け戦はもうこりごりだ」という展開になっていきます。 

命を濃くして立ち向かう

第9話は、祖母がフライパンを片手で操り豪快に野菜炒め(?)を作るシーンから幕が明けます。

則雄は祖母に命じられて朝のランニング。家に戻って祖母が用意する朝食を見て、「せっかく作ってくれたのに…今は食欲がないんだ…」と言うと、「許さん!」と一喝。

甘えは聞かんぞ 
食べて命を濃くせんと 
ワシャ許さん

則雄は無理やり朝食を食べせられると、今度は家じゅうの床掃除を命じられる。 

家(ウチ)はなるたけ綺麗にしろ則雄
内である事は外でもある
内を良くすりゃ外も良くなるこった

怪異に立ち向かう術について、祖母は「奴に報いるワシらの唯一の武器は何だと思う?」と言った後、こう続ける。 

生命力じゃ
よく食べよく寝て
ーーよく活きる
毎日走り外気に触れ
心の臓を動かす

見ろ
奴がワシらに手が出せんのは
命の濃さに気圧されてるからじゃ

命を濃くして 立ち向かうぞ
昭雄…
じいさん…
俊…
径子…
正子の…
無念を晴らす

いかがですか。このおばあちゃん、本当にカッコよくないですか。 

怪異を惹き起こす少女サユリにどう立ち向かうのか、そこは漫画や映画でお確かめください。 

皆一緒に向こうで会おう

もちろん、著者自身が「負け戦はもうこりごりだ」と言っている以上、ラストは祖母と則雄がサユリに打ち勝つのですが、祖母のラストのセリフはほんとうに心に沁みます。 

「この先真っ当に生きていけるのか不安なんだ」とつぶやく則雄に対し、祖母は「死んだ後、地獄が存在せんと割りに合わん」と言って、 

何故なら人間良し悪し…
様々な生き方をしていくからな
死んで行き着く先が同じであるなんて事…
あってはならん

そして、 こう続けます。

大丈夫…ワシらの家族は大丈夫じゃ…
ばあちゃんが死んで…
則雄もジジイになって死んだら…
皆一緒に向こうで会おうぞ
則雄の生涯の話を皆と一緒に聞かせてくれや
魂を綺麗にな…則雄

ホラー漫画なのに、この場面は目じりに涙がにじんでしまいました。 

映画で祖母役を務めるのは根木季衣さんです。原作どおりなら相当な”怪演ぶり”を求められたはず…。観るのが楽しみです(映画の予告編がユーチューブで公開中です) 

シネマトゥデイ – 公開超直前!ばあちゃん大覚醒!映画『サユリ』本編映像

映画から観ても、漫画から読んでも、ぜひおばあちゃんの活躍に注目してください。 

(しみずのぼる) 

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