【徹底解説】上橋菜穂子〈守り人〉シリーズ|大人が心震わせる異世界ファンタジーの金字塔

【徹底解説】上橋菜穂子〈守り人〉シリーズ|大人が心震わせる異世界ファンタジーの金字塔

「名前は知っているけれど、どこから読めばいい?」「大人でも楽しめる?」そんな疑問をお持ちの方へ。NHKでのドラマ化やアニメ化でも話題となった上橋菜穂子氏の〈守り人〉シリーズを徹底解説します。児童文学の枠を遥かに超え、国家の陰謀、異界の神話、そして過酷な運命に抗う人々の営みを緻密に描き出した「異世界ファンタジーの金字塔」的作品。女用心棒バルサと皇太子チャグムが辿った壮大な旅路にいざなわれてみませんか。 (2026.2.28)

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上橋菜穂子〈守り人〉シリーズとは?全10巻の歩みと出版順一覧

上橋菜穂子氏の〈守り人〉シリーズは、1996年に偕成社から『精霊の守り人』が出版され、最終巻の『天と地の守り人』(全3巻)が出版される2007年まで、11年の歳月がかかったファンタジー小説です(出版年月は偕成社版。本稿で紹介する4作品に青のマーカーをつけています)

  1. 精霊の守り人 1996年7月  
  2. 闇の守り人 1999年1月  
  3. 夢の守り人 2000年5月   
  4. 虚空の旅人 2001年7月  
  5. 神の守り人 来訪編 2003年1月  
  6. 神の守り人 帰還編 2003年1月  
  7. 蒼路の旅人 2005年4月  
  8. 天と地の守り人 第一部 ロタ王国編 2006年11月  
  9. 天と地の守り人 第二部 カンバル王国編 2007年1月  
  10. 天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編 2007年2月  

このほかに主人公たちが登場する短編集や外伝が計3冊ありますが、物語の骨格を成すのは上記の10冊です。いずれも新潮社から文庫化されています。 

  • | 著者 | 上橋菜穂子 |  
  • | ジャンル | 異世界ファンタジー |  
  • | 既刊数 | 10作品(10冊)+外伝等(3冊) |  
  • | 出版社 | 偕成社、新潮文庫 |  

大人の読者を魅了する理由|女用心棒バルサに”ダメ出し”された過去

新潮社の公式サイトに上橋菜穂子氏は次のように寄せています。 

大人が手に取りやすいように文庫化をしていただきましたが、漢字を増やしただけで、内容は、偕成社版『精霊の守り人』とまったく同じです。 

子どもでも、大人でも、どなたでも楽しめる物語を書きたいと思って書き継いだ守り人シリーズ、通勤や旅のお供にしてやっていただければ幸せです。 

https://www.shinchosha.co.jp/moribito/

ここにある通り、〈守り人〉シリーズは当初、児童文学として出版されました。

ちなみに、〈守り人〉シリーズ同様に”大人が読める和製ファンタジー”として世評名高い小野不由美氏の「十二国記」シリーズの場合はスタートがライトノベル(講談社Xハート文庫)、荻原規子氏の〈勾玉〉シリーズも児童文学(福武書店)として世に出ています。出版社の側にも”ファンタジーなんて、女子供が読むもの”式の偏見があったのかもしれませんね…

話を〈守り人〉シリーズに戻します。上橋さんが『精霊の守り人』の草稿を編集者に見せたところ、最初は編集者から主人公のバルサに対して”ダメ出し”をされたそうです。編集者いわく、

「あのね、児童文学って、子どもが主人公に心を乗せていける物語なのよ。子どものお母さんみたいな年代の女を主人公にして、どーする!」 

このダメ出しに上橋さんは次のような気持ちで抗ったそうです(このエピソードは、偕成社編集部編『「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド』8~9ページに出てきます)

私にとっては、主人公のバルサは、どうしても三十歳以上でなくては、ならなかったのです。 

なにしろ、いきなり頭の中に、短い槍をかついだ三十代のオバサンが、小さな男の子の手を引いて逃亡している姿が浮かんできたことで、この物語は産声をあげたのですから。 

上橋さんが児童文学の固定観念を跳ね返してくれたおかげで、〈守り人〉シリーズは、子どもから大人までファン層を広げる物語となったのです。 

〈守り人〉はどの順番で読むべき?第1作『精霊の守り人』を勧める理由

〈守り人〉シリーズは順番どおり読んだほうがいいかーーというお訊ねには、これは間違いなく第1作目の『精霊の守り人』から作品順に読まれることをお勧めします。 

たま~に、第2作目の『闇の守り人』から読んでもハマりますよ…という声も聞きます(偕成社版『完全ガイド』にもそう出てきます) 

『闇の守り人』がシリーズの中でも最高傑作の呼び声高い作品であることは認めますが、それでも、バルサと養い親ジグロとの関係、バルサが女用心棒となった過去が描かれるのは、第1作『精霊の守り人』です。 

そして、ジグロとの父と子にも似た関係があったからこそ、バルサは命を狙われるチャグムに自身の過去を重ね、チャグムを守ることに命を懸けるのです。そしてチャグムを守ることで、ジグロのバルサに対する気持ちを理解し、自身とジグロの過去に向き合う第2作『闇の守り人』へーーとつながるのです。

読む順番を違えてしまっては、ジグロの死後、幼なじみの薬草師タンダや呪術師トロガイを除いては、周囲に心を閉ざして生きてきたバルサの心境の変化をくみ取ることはできません。

しかもしかも!『精霊の守り人』は、最初の1行目を読んだだけで物語世界に引き込まれるーーとまで言われている小説です。 

『精霊の守り人』(1996)をはじめて読んだ時は、ほんとうにびっくりでした。 

「バルサが鳥影橋を渡っていたとき、皇族の行列が、ちょうど一本蒸留の、山影橋にさしかかっていたことが、バルサの運命を変えた」 

はじめから、もう話は動いていたのです。 

『精霊の守り人』(新潮文庫)解説(筆者は翻訳家の神宮輝夫氏) 

作家の恩田陸氏も『精霊の守り人』の解説で「偶然の縁で、女用心棒が命を狙われる皇子を救うことになる見事な導入部」と書いています。ですから、ぜひ『精霊の守り人』から手に取ってほしいと思います。

恩田氏いわく、 

あなたはラッキーだ。私たちは、母国語で読める。しかも私たちが読むべきファンタジーにようやく巡りあったのだ。 

『精霊の守り人(新潮文庫)解説

とまで激賞している作品ですから、安心して『精霊の守り人』から読んでください。 

【各巻あらすじ】物語の核心に触れる4作品の感想・徹底解説レビュー

全10作品のうち、わたしは第1作『精霊の守り人』、第2作『闇の守り人』、第4作『虚空の旅人』、第7作『蒼路の旅人』の感想・読書レビューを書いています。簡単に内容紹介します(詳しく知りたい方は[詳細記事]から個々の記事にジャンプしてください) 

① すべてはここから始まった。命を懸けた逃亡劇とバルサとチャグムの絆 

上橋菜穂子 精霊の守り人 新潮文庫 書影
『精霊の守り人』(新潮文庫)

第1作『精霊の守り人』 

女用心棒バルサが、精霊の卵を宿した少年チャグムを守り抜く。異世界ファンタジーの幕開けにふさわしい、緊張感溢れる第1作です。

👉 [詳細記事:30歳の女用心棒と、精霊を宿した皇子の運命の出会い『精霊の守り人』感想・解説はこちら] 

② バルサの過去とジグロの真実。シリーズ最高傑作の呼び声高い一冊 

上橋菜穂子 闇の守り人 新潮文庫 書影
『闇の守り人』(新潮文庫)

第2作『闇の守り人』 

故郷カンバル王国へ戻ったバルサが、自身を救うために友を殺した育ての親・ジグロの真意を知る、魂の救済の物語。 

👉 [詳細記事:故郷カンバルで向き合う、呪われた過去と魂の救済『闇の守り人』感想・解説はこちら]

③ 皇太子チャグムの孤独な戦い。物語は国家間の政治劇へ 

上橋菜穂子 虚空の旅人 新潮文庫 書影
『虚空の旅人』(新潮文庫)

第4作『虚空の旅人』 

バルサの手を離れ、皇太子として隣国の危機に直面するチャグム。為政者としての自覚と、国家の非情さが浮き彫りになる転換点です。 

👉 [詳細記事:国家の陰謀と、少年の自立を描く新章の幕開け『虚空の旅人』感想・解説はこちら]

④ 大帝国の脅威と、チャグムが選んだ「裏切り」という名の正義 

上橋菜穂子 蒼路の旅人 新潮文庫 書影
『蒼路の旅人』(新潮文庫)

第7作『蒼路の旅人』 

滅びゆく国を救うため、父帝と対立し、国を捨てる覚悟を決めたチャグム。少年が真の王へと覚醒する、緊迫の物語。 

👉 [詳細記事:絶望の淵で下した究極の決断と、覚醒する勇姿『蒼路の旅人』感想・解説はこちら]

ほかの作品ももちろん格別におもしろいのですが、バルサとチャグムが織りなす壮大な物語の流れをつかんでほしくて、このチョイスにしています。未読の方は、わたしの感想・読書レビューを手掛かりに〈守り人〉シリーズに興味を抱いていただけたら幸いです。 

ナユグとサグとは?文化人類学的視点で描かれる緻密な異世界の設定

〈守り人〉シリーズの魅力が、バルサやチャグムの人物造形にあるのは間違いありません。チャグムの成長物語であることも重要な要素です。 

ただ、異世界ファンタジーですから、上橋さんが描く世界観を抜きに〈守り人〉シリーズを語るわけにはいきません。 

独特な世界観のひとつが、ナユグ(異界)とサグ(この世)という二つの世界が重なり合って存在する設定です。いくつか重要なキーワードを紹介しましょう(偕成社版『完全ガイド』から) 

  • サグ:目に見えるふつうの世界。人間の住む世界のこと 
  • ナユグ:サグと重なりあって存在する、目に見えないもう一つの別の世。精霊界。異能者や呪術師は、この世界を見ることができる 
  • ニュンガ・ロ・イム:〈水の守り手〉の意。ナユグの生き物。サグとナユグの両方の気候に影響をあたえる存在で、百年に一度卵を産む 
  • ニュンガ・ロ・チャガ:〈精霊の守り人〉の意。サグの生き物。ニュンガ・ロ・イムに卵を産みつけられる者を意味する 
  • ラルンガ:〈卵食い〉の意。百年に一度目覚める土の精霊。ニュンガ・ロ・イムの卵が大好物 

ニュンガ・ロ・イムの卵を産みつけられたチャグム皇子を、女用心棒のバルサは王の放つ刺客からだけでなく、人間の住む世界では見えないラルンガからも守らなければならないーー。 

しかも百年に一度の出来事のため、百年前はどうしたのかがわからない。その答えは先住民ヤクーの伝承に残されていて…… 

というふうに、上橋さんの専門である文化人類学的な視点ーー異なる文化や価値観を「善悪」ではなく「違い」として描いているところも、〈守り人〉シリーズの魅力と言えるでしょう。 

まずは『精霊の守り人』から!最高の和製ファンタジーを母国語で読める幸せ

それでも、ナユグって何だっけ?みたいに思うことなく、バルサとチャグムの物語に引き込まれると思いますので、聞きなれない単語はスルーしても大丈夫です(いい加減な読み方で、上橋先生すみません!) 

先に引用した恩田陸氏の言うとおりです。 

わたしたちはラッキーだ。わたしたちが読むべきファンタジーにようやく巡りあった… 

そんな深い深い多幸感に包まれること間違いなしです。まずは『精霊の守り人』です。ぜひ手に取ってみてください。 

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(しみずのぼる) 

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