山育ちの忍者が名門校に!? ギャップが笑いを誘う亜月裕「伊賀野カバ丸」 

山育ちの忍者が名門校に!? ギャップが笑いを誘う亜月裕「伊賀野カバ丸」 

きょう紹介するのは亜月裕さんのギャグ×ラブコメ漫画「伊賀野カバ丸」です。40年以上前の漫画ですが、山育ちの忍者が都会の名門校に入学したら!?というギャップが笑いを誘います(2025.9.8) 

1979年から「別マ」に連載

「伊賀野カバ丸」は1979年から「別冊マーガレット」に連載され、1980年から単行本が発売されました(当時の記憶では、8巻が最終巻だったような…) 

わたしは3歳下の妹が全巻揃えて持っていたので、妹の本棚から抜き出して愛読しました。妻も10代の頃に愛読したそうで、我が家ではやきそばを食べるたびに「カバ丸読み直したくなるね~」と話題にのぼるほど、10代の思い出の漫画です。 

忍者として修行をしていた伊賀野影丸・通称カバ丸は、祖父・才蔵の死後、人里離れた山奥でろくな食事もせずに暮らしていた。そこに祖父の若かりし頃の恋人・大久保蘭が出現! “きちんとした食事”に釣られたカバ丸は、大久保蘭が院長を務める名門・金玉学院に入学することに…。そこでカバ丸は、夢にまで見た美しきお弁当と、院長の孫娘・大久保麻衣に出会う(1巻) 
 
山奥の生活から一転し、東京の名門学院に通い始めたカバ丸。彼には同じ学院に通う麻衣が美しく見えた。が、麻衣にとっては、あこがれの沈寝さまと正反対の、大食い・野蛮・不潔なカバ丸がめざわり。ところが、そんな麻衣の思いとは裏腹に、カバ丸は弁当の一件以来、学院のスターに。さらに駅伝大会を機に沈寝がカバ丸に急接近! カバ丸、沈寝、麻衣の奇妙な三角関係が始まる(2巻) 

「伊賀野カバ丸」1巻(集英社)
「伊賀野カバ丸」2巻(集英社)

「異質なもの」の取り合わせ

「伊賀野カバ丸」がなぜ笑えるのかーー。 

秘密は「異質なもの」の取り合わせにあるように思います。 

「異質なもの」の取り合わせは、ショートショートの神様・星新一が創作の秘けつに挙げています。以前の紹介記事から該当部分を再掲します。 

そもそも、アイデア捻出の原則は一つしかない。異質なものどうしを結びつけよ、である。  

時代の最先端はなんだろう。宇宙船だ。時代おくれのものはなんだろう。キツネツキがある。では、キツネツキの男をロケットに乗り込ませよう……。といった方式で私はSFの発想を得ているわけだが(以下略)  

これだけは電子書籍で買ってはいけない! 星新一「進化した猿たち」 

「伊賀野カバ丸」はまさにコレです。 

忍者と高校生。野生育ちと名門高校。ギャグとラブコメ。これでもかとばかりの「異質なものどうし」が、化学反応を起こして笑いを誘うのです。 

笑いを誘う教頭の懊悩

例えば、学院長の大久保蘭がカバ丸を教頭に引き合わせる場面。 

シャンデリアの上にいるカバ丸が「おりゃあ まだ 学校いくなんていってねーぜ」と言うやいなや、山猿のような身のこなしで窓から外に飛び出していく。青ざめる教頭をよそに、大久保蘭が頬を赤らめて「なんてものごしが優雅なんだろ」と嘆息し、教頭は絶句するーー。 

この偉大なる院長のもとで
教鞭をとらせていただいてはや18年
わたしは院長の人柄ことば行動すべてに心から同意し尊敬してきた
だが……今回の転入生に関してだけは……

教頭は「彼を理解することが院長を理解することなのだ」と自身に言い聞かせますが、カバ丸の言動がことごとく裏切るので、まともな教頭はますます思い悩み、その悩める様子に読者は思わず笑いを誘われます。 

もう一場面紹介します。教頭の担当する国語の授業で、教頭がカバ丸の答案用紙をのぞくと、汚い字で「やきそばやきそば」と書いてあるだけ。ところが他の教師たちはカバ丸をほめそやします。 

ところで院長 伊賀野君にはおどろかされますな
生物で現在学んでいることは「川魚の生態」なのですが
いや その知識の完璧なこと

院長 それよりなんといっても運動神経ですよ

わたしの漢文の授業では3年の教科書をスラスラでしたよ
なんでもおじいさんに殺されるのがおそろしくてまる覚えした…とか…
なーんて冗談いってましたがね

い…いえない…
とてもあの答案のことは…

まともなのは教頭のほうなのにねぇ… 

「まんぷく堂」のやきそば

「伊賀野カバ丸」と言えば、やきそばのことも忘れてはなりません。 

金玉学院の隣に建つ「まんぷく堂」の単品メニュー、やきそばがカバ丸の大のお気に入りで、ことあるごとにやきそばが出てきます。 

学院を裏で取り仕切る目白沈寝がカバ丸の運動神経に注目、味方に引き入れようとします。すると、カバ丸が沈寝に向かって「おまえ…金出せるか」 

…まあむりだろうな えらそうなこといったっておめーもただの学生だ 

地面に木の切れ端で計算をしだしたカバ丸をみて、沈寝は気をもむ。

いったいいくら出せというのか
並の人間とは思えなかったがやはり…
あのようすから見るとかなりの額かもしれぬ
50万…100万…それ以上か

この信じがたい人間ばなれした
けだもののような運動神経
手ばなすのはおしい
金で解決するものなら

ここで汲取銀行の看板がインサートされて、 

代々取引きのある汲取溜男に連絡して
わたしの動かせる限りの金額を用意させれば…

と思案していると、カバ丸の声が聞こえてくる。 

やきそば大もり1ぱい150円だから…
2はいで300円…3はいで500…じゃなしえーっと…450円で
4はいだとえーとえーとえーと

沈寝が「…600円だ」と助け舟を出すと、カバ丸が、 

そーー600円!!!
どうだ 毎日とはいわねー
週1回おれにまんぷく堂の大もりやきそばを4はいおごるんだっ

まともな沈寝が徐々にカバ丸に感化されてズッコケていくのが笑えます。 

巻を追うごとにカバ丸の引き起こす騒動に学院全体が巻き込まれていくのですが、まずは1巻を読んでみてください。「異質なもの」の取り合わせの妙が気に入れば、2巻以降も手に取りたくなること間違いなしです。 

31年ぶり続編「そりから」

「伊賀野カバ丸」は(わたし自身は観ていませんが)アニメや映画も作られましたし、亜月さん自身もスピンオフ的な作品を数多く描かれています。 

そんなひとつに、「伊賀野カバ丸」発売から30年以上たった2015年に発表された「伊賀野カバ丸★そりから」(集英社)があります。 

「伊賀野カバ丸★そりから」(集英社)

伊賀野カバ丸:31年ぶりカバ丸が大暴れ 「YOU」で続編掲載へ」という記事から引用します。 

「伊賀野カバ丸」は、1979年から84年まで「別冊マーガレット」と「週刊マーガレット」で連載されたコメディー。山奥で忍者の修行をしながら育った伊賀野影丸こと「カバ丸」が、東京の金玉学院での新生活を始めることになり、とんでもない食欲と人間離れした運動神経で、周囲を騒がすというストーリーが描かれた。 

続編を描いた理由について、亜月さんは「(昨年に開催された)『わたしのマーガレット展』がきっかけでした」と説明。「原画を出してもらったり、サインを描いたり、インタビューにお答えしたりしているうちに、以前からリクエストされていた続編を描いてみようという気になったのです。……描いててなんだか楽しいです!」と話している。 

MANTANWEB – 伊賀野カバ丸:31年ぶりカバ丸が大暴れ 「YOU」で続編掲載へ

1951年生まれの亜月さんは、続編を書いた時すでに63歳。でも、続編を出してくれてよかった~という気分です。 

なぜかと言えば「そりから」は、実質的に最終巻(のはず)の8巻のラストシーンにつながるストーリーなのです。 

あの時、大好きな大久保麻衣や金玉学院と別れ、山に帰っていったカバ丸。どこにいたのか? 何をしていたのか?? そんな疑問にお答えするため、高校生忍者・カバ丸が、おそるべき身体能力と、食い意地もそのままに、再び参上! 待望の描きおろし!! 

なお「そりから」は、やきそばを食べるカバ丸が表紙に描かれていますが、まんぷく堂のやきそばは出てきません。カバ丸の食い意地は相変わらずですが……。 

(しみずのぼる) 

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