小野不由美『人形の檻』|子供を支配し、霊をも従える人形の正体とは!?

小野不由美『人形の檻』|子供を支配し、霊をも従える人形の正体とは!?

きょうは小野不由美氏の「ゴーストハント」シリーズの一冊『ゴーストハント2 人形の檻』(角川文庫)を紹介します。子どもの玩具と思いきや、実は子どもを心理的に支配し、霊をも従える「人形」の正体とは!? 真正ホラーの傑作です。(2023.10.23)

〈PR〉

登録は簡単、3ステップのみ!無料会員登録はこちら

「悪霊」シリーズ|麻衣とナルたちが心霊現象の謎を解く

ホラー小説や漫画には「人形ホラー」と呼べる作品があります。きょうから3回にわたって紹介したいと思うのですが、その初回に選んだのは小野不由美氏の『ゴーストハント2 人形の檻』です。

小野不由美氏の作家デビューは1988年で、デビュー翌年の1989年に出版されたのが『悪霊がいっぱい!?』(講談社X文庫ティーンズハート)です。

あらすじは、主人公の谷口麻衣が通う高校の旧校舎で心霊現象が頻発、校長の依頼でSPR(渋谷サイキックリサーチ)所長・渋谷一也に調査の依頼があった。ひょんなことで麻衣が調査を手伝うことになるが、あまりのナルシストぶりに麻衣は「ナル」と呼ぶように…。校長はほかにも巫女、高野山僧、エクソシスト、霊媒師に声をかけ、ナルたちは旧校舎で相次ぐ心霊現象の謎に迫っていくーーというストーリーです。

麻衣が一人称で語るスタイルで、17歳の美男子ナルにときめく気持ちも織り交ぜてあって…という典型的なティーン向け小説で、小野さんは次のように言っています。

当時は恋愛モノの全盛期で、ご多分にもれず私も恋愛モノを書いていたわけですけど、当時を振り返ると、よくもあれで生き残ってこれたなぁ、と自分でも呆れてしまいます。

じつはむかしは、主人公はふつうの女の子でなければいけないとか、その女の子の一人称でなければならないとか、そういうきまりごとがあったんです。

『悪夢の棲む家』(講談社X文庫ホワイトハート)上巻あとがき

『悪霊がホントにいっぱい!』|シリーズ2作目からホラー色濃厚に

幸い『悪霊がいっぱい!?』が好評を博してシリーズ化が決まったものの、本来はホラーが大好きーーということで、小野さんは続く作品から「悪霊」シリーズで真正ホラーを書き連ねていきます。

そのターニングポイントとなった作品が、シリーズ第2作目となる『悪霊がホントにいっぱい!』です。

「悪霊」シリーズは長らく絶版で、2010年から11年にかけてメディアファクトリーから再刊。その際に小野さんは全面改稿を施し、シリーズ名も「ゴーストハント」と改めました。

『悪霊がホントにいっぱい!』も改題されました。(察しがいい人はわかると思いますが)それがきょう紹介する『ゴーストハント2 人形の檻』です。

ティーンズハートは表紙がピンクで、中学生が購買層の主要ターゲットだそうですから、『悪霊がホントにいっぱい!』なんて可愛らしいタイトルに騙されて手にした少女たちは、あまりの怖さに震え上がっただろうなあ…などと想像してしまいます。

すみません、前置きが長くなりました。ここから『ゴーストハント2 人形の檻』の紹介です。

洋館を襲う怪異現象…小学生の少女「毒で殺そうとしてるんだよ」

あらすじを単行本の帯から紹介します。 

瀟洒な洋館に住む一家を襲うポルターガイスト現象。騒々しい物音、移動する家具、火を噴くコンロ。頻発する怪しい出来事の正体は地霊の仕業か、はたまた地縛霊かーー。家族が疑心暗鬼に陥る中、依頼者の姪・礼美が語る「悪い魔女」とは? ナルとともにSPRの一員として屋敷に赴いた麻衣は、礼美と彼女が大切にしている人形との会話を耳にする。 

礼美が語る「悪い魔女」のくだりから引用しましょう。 

お手伝いの柴田さんが礼美の部屋におやつを運んで、麻衣が口にしようとしたところ、礼美が「だめ!」と叫んだ。 

「毒が、入ってるの!」 
(略) 
「そんなことないわ。毒なんて入ってない。誰もそんなことしないよ?」 
「するの。だって柴田さんは魔女の家来なんだもん」 
わたしはぽかんとして、典子さんと顔を見合わせた。 
「魔女って?」 
「悪い魔女。柴田さんは家来なの。魔女は礼美とお姉ちゃんが邪魔だから、毒で殺そうとしてるんだよ」

少女と会話する人形…「全部懲らしめてあげるからね」

礼美に「魔女」の話を吹き込んだのは人形だった。礼美の父親がフランスで買い求めたアンティークドールで、礼美は「ミニー」と名付け、片時も手離さない存在だった。 

麻衣は偶然、礼美が人形のミニーと話している内容をドア越しに聞いてしまう。 

『きっと今頃は懲りてるよ』 
部屋の中から女の子の声が聞こえてきた。 
……礼美ちゃん? でも、声が少し違うような。首を傾げたとき、さらに声がした。 
『あたし、怖い……』 
これは間違いなく礼美ちゃんの声だ。じゃあ、その前の声は? 
あたしは思わず、ドアに耳を寄せる。 
『大丈夫、今にみんな追い出してあげるから』 
『お姉ちゃんも? 麻衣ちゃんも?』 
低い含み笑い。 
『もちろん……』 
(略) 
『大丈夫。あたしだけは礼美を守ってあげるから。悪い魔女の一味は、全部懲らしめてあげるからね』

これがきっかけでナルーーSPR(渋谷サイキックリサーチ)所長の渋谷一也とその仲間たちは人形を監視。人形が夜中に動く姿をみて、人形がポルターガイスト現象に関係しているのは間違いないと判断する。 

しかし、除霊も、お焚き上げも、悪魔祓いも効かない。ナルはつぶやく。「人形は器に使われているにすぎないと思う。問題は、ミニーが何者なのか、ということなんだ」 

泣き叫ぶ声、喚き立てる声…「…一人じゃ、ない」

そのうちに麻衣は礼美がミニー以外の何かと遊ぶ場面に遭遇する。 

礼美に訊ねると「おともだち」と言うだけ。二階で突然物音がして、各部屋に設置したモニターをチェックすると、スピーカーから音が聞こえた。 

どこかで子供の声がした。サブスピーカーから流れる雑多な音の中に、声としか思えない異質な音が混入している。 
(略) 
「……一人じゃ、ない」 
何かを怒鳴る声、泣き叫ぶ声、喚き立てる声。どれも子供の声だ。

礼美もようやく打ち明けてくれた。 

 「ほんとはもう、怖かったの。ミニーから逃げたかった。けど……ミニーは何でもお見通しで、どんなとこでもやって来るし、それにミニーには家来がいっぱいいて」 
「家来?」 
礼美ちゃんは頷いた。 
「いっぱいいるの。礼美ぐらいの男の子とか女の子。みんなミニーの家来なの。ミニーがいいって言うと、一緒に遊んでくれるけど、ミニーが怒るとみんな……」 
礼美ちゃんを虐めるのだ。それが怖くて、礼美ちゃんは何も言えなかったし、何もできなかった。ーーどんなに辛かっただろう。

顔を真っ青にした霊媒師「この家は墓場のようなものです」

ナルたちは仲間のひとり、霊媒師の原眞砂子を呼ぶと、眞砂子は顔を真っ青にした。 

「なんですの、ここは」 

「こんな酷い……こんなに険悪な幽霊屋敷を見たのは、初めてですわ……」 

「……この家は墓場のようなものです」 

『ゴーストハント2 人形の檻』(メディアファクトリー刊)

紹介はここまでにしましょう。

引用したところを読み返しても、徐々に恐怖の度合いが増していくことが読み取れるでしょう。真正のホラー小説です。 

「ゴーストハント」シリーズのことは改めて書きますが、読まれるなら、第1作目『悪霊がいっぱい!?』からがよいでしょう。現在の題名は『ゴーストハント1 旧校舎怪談』。角川文庫で読むことができます。 

(しみずのぼる) 

📖あわせて読みたい:小野不由美『鮮血の迷宮』解説|ゴーストハント史上「最怖」と呼ばれる理由

小野不由美『鮮血の迷宮』解説|ゴーストハント史上「最怖」と呼ばれる理由
小野不由美氏「ゴーストハント」シリーズの『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』(角川文庫)を紹介します。奇妙な洋館に招かれた麻衣たちが目撃したのは、過去の怨念が呼び寄…
hintnomori.com

小野不由美『人形の檻』|子供を支配し、霊をも従える人形の正体とは!?
きょうは小野不由美氏の「ゴーストハント」シリーズの一冊『ゴーストハント2 人形の檻』(角川文庫)を紹介します。子どもの玩具と思いきや、実は子どもを心理的に支配し…
hintnomori.com
山岸凉子「わたしの人形は良い人形」|死者と共に葬られなかった人形がもたらすトラウマ級の怪異
日本のホラー漫画界に燦然と輝く、伝説の一作があります。山岸凉子氏の「わたしの人形は良い人形」。タイトルは童謡の一節ですが、死者とともに葬られなかった市松人形は、…
hintnomori.com
三津田信三「ついてくるもの」|持ち帰った雛人形が次々と家族にもたらす怪異
本来、子供の身代わりとして厄を引き受けるはずの雛人形。しかし、ホラー作家三津田信三氏の手にかかれば、それは禍々しい依り代へと変貌します。短編集『ついてくるもの』…
hintnomori.com

〈PR〉

楽天ブックスは品揃え200万点以上!