母親の愛を描くホラー映画「永遠のこどもたち」 

母親の愛を描くホラー映画「永遠のこどもたち」 

前回の「ぼくのエリ」に続いて今回も哀しく切ないホラー映画をご紹介します。スペイン・メキシコ合作映画で2007年に製作された「永遠のこどもたち」(原題:El Orfanato)です。脚本家が「母親の視点からみたピーターパン」と表現していましたが、異界に紛れ込んだ最愛の息子を探す母親の気持ちに胸がわしづかみにされますし、最後に迎える結末に嗚咽します。いい映画です(2023.9.13)

【追記】YouTubeの公式(認証済み)チャンネルに関連動画がありましたので加筆修正しました(2024.5.5)

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孤児院とこどもたちの霊

DVDのパッケージからあらすじを紹介します。 

海辺の孤児院で育ったラウラは、障害を持つ子供のためのホームにしたいとその孤児院を買い取り、夫と7歳の息子シモンと移り住む。間もなくシモンは屋敷の中で空想上の友達を作って遊び始めた。そしてある日、シモンがこつ然と姿を消してしまう。ラウラは必死になって息子の姿を探すが……。 

映画の冒頭、かつてラウラが孤児院にいたころの場面から始まります。孤児院のともだちと日本で言う「だるまさんが転んだ」をして遊んでいる場面です(スペインでは「1・2・3・壁」と言うようです) 

この映画では、いろいろな遊びが出てきます。シモンが3つのお題を与えてラウラが物語を話して聞かせたり、宝物捜しのゲームだったり、そして冒頭の「1・2・3・壁」だったり……。それがすべて伏線となっていきます。 

ラウラたちが海辺の洞窟に遊びに行くと、シモンがそこで会ったともだちを家に招いていい?とラウラに訊ねる。家まで迷わずに来られるように貝殻を置いて歩くシモン。翌朝、ラウラが玄関を開けると、そこには貝殻がいっぱい……。 

そのうち、シモンが描く絵には6人のともだちが描かれ、そのうちの1人はボロ頭巾をかぶっている。そして、障害を持つ子供やその家族を招いてパーティーを行ったその日、シモンが「トマスの部屋に行きたい」と言い出す。 

パーティーのゲストへの対応に忙しいラウラはシモンの頼みを断ると、シモンが激しく駄々をこね、ラウラはおもわず頬を叩いてしまう。シモンを置いて廊下に出ると、廊下の先にはボロ頭巾をかぶったこどもがひとり。そのこどもにバスルームに閉じ込められ、なんとか出てみると、シモンの姿がみあたらない……。 

以上がDVDのあらすじに書いてあるところまでですが、これだけでもゾクゾクと怖さが感じられませんか。家にこどもたちの霊がいる。海岸からこどもの霊を招き入れてしまった。子どもたちの霊は6人……。まさにホラーストーリーです。 

ミステリーの要素も

この間にラウラは、ひとりのお年寄りの女性の訪問を受けます。この孤児院を改装して住むのはやめたほうがいいとにおわす女性は、その夜、離れの小屋に忍び込もうとします。この女性は何者か? そんなミステリーの要素も加わって、ストーリーが展開していきます。 

警察も加わって大規模な捜査が始まるが、シモンの行方はまったくわからない。ボロ頭巾をかぶったこどもをみた人も、ラウラ以外にひとりもいない。訪ねて来た女性もつかまらない。 

そんな八方ふさがりの中、ラウラは偶然街中で女性をみつけるが、不運にも女性はバスにひかれて死んでしまう。 

女性の遺品から、その女性が孤児院の従業員だったこと。その女性にはトマスという名の息子がいたが、顔が醜くボロ頭巾をかぶって過ごし、ほかのこどもたちの悪戯で海辺の洞窟で溺死したこと、その復讐のため女性が子どもたちを殺害したことーーが明るみに出る。 

シモンは、トマスや孤児院のこどもたちの霊と一緒にいるーーそう信じたラウラは霊媒師の力を借り、こどもたちの霊がいまなおさまよっていることが明らかになる。 

ラウラはひとり孤児院に残り、こどもたちの霊と接触を試み、シモンの居場所をつきとめようとする……。 

切なく美しい選択

ここまでの説明でもかなり内容に踏み込んでしまっていますが、ここから先はさすがに控えます。ただ、DVDのあらすじに、 

彼女が選択した余りにも切なく美しい結末が、観るものの胸を締めつける。 

という一文のとおりです。ゆえに明らかにホラー映画であるのに、切なく、哀しく、嗚咽がとまらないのです。 

監督は、J・A・バヨナ「怪物はささやく」の監督による初長編映画です。 

Rotten Tomatoes Classic Trailers – The Orphanage (2007) Trailer #1 | Movieclips Classic Trailers

母親の視点に変えた

メイキングをみると、第一稿は純粋なホラー映画だったそうですが、監督と脚本担当のセルビオ・G・サンチェスで相談して全面的に改めたそうです。脚本担当はこう説明しています。 

母親の視点から語られるピーターパンの世界。こどもが異世界に行ってしまう話を母親の視点で書いた。 

視点を母親からに変えたことが、この映画の成功のカギであるのは間違いありません。とてもいい映画ですので、ぜひご覧になってください。 

(しみずのぼる) 

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