「音楽との出逢いかた」の2回目は、ふたたび伊坂幸太郎さんの「アイネナハトムジーク」です。斉藤和義さんの「ベリーベリーストロング」が誕生したいきさつは以前の記事で書きましたが、そこで書ききれなかった斉藤和義”推し”の話です(2023.9.15)
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連作短編集の「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎文庫)の第2話「ライトヘビー」は、こういういきさつで書かれた短編だそうです。
「ライトヘビー」は、『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』がシングルカットされることになり、その初回限定盤の付録用に書き下ろしたものです。せっかくですから、こういった共同作業でしかできないことをやりたいと思い、考えついたのが、斉藤和義さんの過去の曲から歌詞を引用することでした。
(略)
内容についても驚きのあるものにしようと四苦八苦しました。結果的には、今まで書いてきた短編の中でも、かなりお気に入りの一つとなりました。
電話でつながる
「ライトヘビー」の主人公、美奈子は美容師。お店に通う常連の香澄から「弟に美奈子ちゃんの携帯番号、あれ、教えていい?」と訊ねられる。「電話でいいから、相手してあげてよ」
こういう変ないきさつから美奈子は、香澄の弟ーー学と電話で話すようになった。
美奈子はライブハウスで親しくなった友人ふたりからからかわれた。「出会いだなあ、いいなあ」
ひとしきり美奈子の「出会い」で盛り上がった3人は居酒屋を出ると、「斉藤さん」のところへ足を伸ばした。
「斉藤さん 一回百円」
以前は、アクセサリーの露店だったが、斉藤さんはアクセサリーではなく、歌を売っていた。
長机の上にはノートパソコンが置かれ、そこに小さなスピーカーが繋がれている。お金を入れるための貯金箱のようなものがあって、あとは、「斉藤さん 一回百円」と書かれた立札があるだけだった。
お客がいまの気持ちを伝えると、「斉藤さん」が選曲して曲を流す、というしくみだった。
美奈子の友人のひとり、山田寛子が百円を箱に入れた。
「ええと、付き合っていた彼と別れて一ヶ月になります。そんなに落ち込んでないつもりですが、どうも晴れやかではないです」
斉藤さんが曲を選び、スピーカーから歌詞が流れると、
山田寛子は満足げで、目を少し潤ませながらも微笑んで、「うん、大丈夫」とつぶやいた。「わたし、もうバリバリ働こうかな」
「あの人、面白いね」
美奈子が電話で学に「斉藤さん」のことを話すと、学はさっそく出向き、美奈子にそのときの様子を伝えた。
「あの人、面白いね」
「どうだった?」
「俺が今の自分の状況を話したら、ちゃんと再生してくれた」
曲名を聞いても「斉藤さん」が教えてくれなかったため、片っぱしからCDを買って、ようやく見つけたという。
学との電話に触発された美奈子は、深夜にもかかわらず「斉藤さん」のもとへ……。
「今のわたし、恋愛とかそういうのがよく分かんないんですけど、あと、友達の仕事が大変そうなんですけど、わたしは特に何もできなくて、もどかしいんです。そんなわたしに合うものを」
「斉藤さん」が選曲した。
意味はまったく分からないけれど、「ですよねえ」とわたしは答えた。
曲名調べてプレイリストに
「ライトヘビー」には、曲名が一切書かれず、歌詞だけが引用されているので、学はCDを買いあさったそうですが、わたしは歌詞をネット検索して曲名を調べて音楽アプリでプレイリストを作りました。いまもわたしのお気に入りプレイリストのひとつです。
ちなみに、第2話で目を潤ませて「わたし、もうバリバリ働こうかな」と話した山田寛子は、第5話「メイクアップ」でふたたび登場します。
(しみずのぼる)
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