日本のファンタジー史に燦然と輝く荻原規子氏の〈勾玉〉3部作。『空色勾玉』から完結編『薄紅天女』まで、古代から平安へと続く壮大な光と闇の物語であると同時に、極上の〈ガール・ミーツ・ボーイ〉の物語でもあります。その魅力はどこにあるのか、日本神話を大胆に再構築した独特な世界観の基礎知識を含めて徹底解説。シリーズ未読者から熱狂的なファンまで必見の完全ガイドです。 (2026.2.27)
📖〈勾玉〉3部作 各作品の徹底解説
- 【原点を知る】 古代ファンタジーの原点に触れたい方へ 👉 『空色勾玉』感想・徹底解説はこちら
- 【激動の旅へ】 愛と復讐のせつない物語に涙したい方へ 👉 『白鳥異伝』感想・徹底解説はこちら
- 【因縁の終焉】 平安の都で描かれる最高のフィナーレを読みたい方へ 👉 『薄紅天女』感想・徹底解説はこちら
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目次
【刊行順と作品一覧】〈勾玉〉シリーズとは?全3作品+関連本を紹介
荻原規子氏の〈勾玉〉シリーズは、1988年に福武書店から出版された荻原氏のデビュー作でもある『空色勾玉』に始まり、『白鳥異伝』(1991年)を経て、『薄紅天女』(1996年)が完結編となります。徳間書店から文庫化され、文庫は全5冊から成ります。
- | 著者 | 荻原規子 |
- | ジャンル | 古代ファンタジー |
- | 既刊数 | 3作品(全5冊) |
- | 出版社 | 徳間文庫 |
ただ、2010年に徳間書店から出版された『〈勾玉〉の世界 荻原規子読本』では、平安末期を舞台にした笛を吹く少年と舞を舞う少女を主人公に描く『風神秘抄』(2005年、徳間書店=2014年に徳間文庫)について、
『空色勾玉』で登場した鳥彦の末裔が大活躍する〈勾玉三部作〉に続く作品
と紹介しているので、広い意味で関連作品と言えるでしょう。
また『〈勾玉〉の世界』には『空色勾玉』のスピンオフ短編「潮もかなひぬ」も収められています。


【魅力の源泉】時を超えて愛されるヒロインたち…運命を切り拓く「自立」の精神
神話の時代(空色勾玉)から古墳時代(白鳥異伝)、最後は平安時代(薄紅天女)ですから、当然、登場人物はすべてばらばらです。
でも、〈勾玉〉シリーズのヒロインたちの造形は、重なるところが多分にあります。
『空色勾玉』の狭也、『白鳥異伝』の遠子、『薄紅天女』の苑上は、少女ながら、決して「守られるだけの存在」ではありません。彼女たちは過酷な運命や神々の都合に翻弄されながらも、最後に必ず自分の意志で道を選び取ります。
古代の神話という壮大な舞台を借りながらも、そこで描かれるヒロインたちの自立の精神は、現代にも通用し、読む者の共感を生むーーそれこそ、〈勾玉〉シリーズが出版から30年以上経ってもなお、多くの人たちに読み継がれてきた理由ではないでしょうか。
【物語の鍵】光と闇の世界を繋ぐ勾玉…もたらすのは死か、甦りか
ヒロインたちの造形以外に共通するのが、6つの異なる色から成る「勾玉」で、輝(生)と闇(死)の二項対立の世界を繋ぐキーアイテムと言えるものです。
『〈勾玉〉の世界』では、
- 『空色勾玉』:闇に伝わる勾玉の一つ「幽(あお)」が輝の血に入る〈勾玉三部作〉の幕開け、第1巻
- 『白鳥異伝』:四つ集めれば死を、五つ集めれば何者にも甦りをもたらすという勾玉を集める。(中略)暗(くら)・顕(しろ)・生(き)・嬰(みどり)の勾玉がそろう〈勾玉三部作〉第2巻
- 『薄紅天女』:北に隠されていた最後の明(あか)の勾玉は、皇を癒せるのか。平安のあけぼのに終幕を迎える〈勾玉三部作〉の最終巻
というふうに、それぞれの作品で登場する勾玉の色を紹介しています(注:シリーズを通して登場する勾玉は、幽・暗・顕・生・嬰・明の全6色です)
特に『白鳥異伝』は、
- 主人公の遠子が「四つ集めれば死を、五つ集めれば何者にも甦りをもたらす」勾玉を集めることができるか
- 愛と復讐の相手である小碓尊にもたらすのは「死」か、それとも「甦り」なのか
という展開となるので、勾玉が物語の重要なキーアイテムであるのは間違いありません(勾玉が果たす役割はのちほど改めて触れます)
【読む順番】必ずしも『空色勾玉』からでなくて良い!
こう言うと、

やっぱり第1作目の『空色勾玉』から読まないとダメかしら?
と思う人もいるかもしれませんが、個人的な意見は

そんなことはまったくありません! 平安時代に興味があって『薄紅天女』から入るもよし、ヤマトタケル伝説への興味から『白鳥異伝』を手に取るのも全然OK!
だと思います。
3部作のいずれも、主人公の少女が運命の少年と出逢う〈ガール・ミーツ・ボーイ〉ものです。底流に流れる日本神話をベースにした世界観(後述)はひとまず脇に置いて、主人公の少女の気持ちに寄り添って物語世界にどっぷりと浸ればいい…とわたしは思います。
【厳選エピソード解説】3部作の見どころとおすすめのポイント
3部作の見どころを簡単に紹介しましょう。
① すべての始まり。日本神話を再構築した不朽の金字塔
『空色勾玉』(徳間文庫) 第1作『空色勾玉』(神代編)
こんな人におすすめ:王道ファンタジーが好きな方、運命に抗う強いヒロインに惹かれる方。
見どころ:闇の巫女姫「水の乙女」の生まれ変わり・狭也。大蛇の剣と一つになる輝の御子・雅羽矢。敵対する陣営に属する二人が、神々の争いを超えて手を取り合う姿は、まさに和製ファンタジーの原点。光と闇、生と死の意味を問う深いテーマが胸を打ちます。
② 復讐の果てに何を見るか。シリーズ屈指の熱き悲劇
『白鳥異伝』(上下巻、徳間文庫) 第2作『白鳥異伝』(古墳時代編)
こんな人におすすめ:ヤマトタケル伝説に興味がある方、切なくも激しい愛と復讐の物語を読みたい方。
見どころ:ヤマトタケル伝説(小碓尊)を大胆にアレンジ。村を焼かれた少女・遠子が各地に散った勾玉を集めるために旅をする物語です。孤独な皇子・小碓尊との魂の共鳴、そして愛と復讐の果てに迎える二人の運命はいかに…。遠子のせつない冒険は涙なしに読めません。
③ 完結。平安の都で「人」が「神話」を終わらせる物語
『薄紅天女』(上下巻、徳間文庫) 第3作『薄紅天女』(平安時代編)
こんな人におすすめ:平安時代の歴史が好きな方、爽やかな読後感を求める方。
見どころ:舞台は平安初期。坂東武者の少年・阿高は蝦夷の地に伝わる最後の勾玉の持ち主となり、怨霊が跋扈する都で皇女・苑上と出逢う。数千年にわたる「輝」と「闇」の対立に終止符を打つ、清冽なガール・ミーツ・ボーイものの傑作です。
こうやって要約すると、やはり3部作を貫く世界観は簡単に紹介しておいたほうがいいかもしれませんね。重要キーワードは次の3つです。
1,輝(かぐ)
輝は天照大御神を頂点とする、天上の「輝の宮」に住まう神々の一族です。 彼らは常に若く美しく、不老不死です。しかし、不滅であるがゆえに「死」を極端に忌み嫌い、穢れを遠ざけようとします。その圧倒的な光の力は、時に地上の人間を焼き尽くすほどの破壊力となります。
2,闇(くら)
闇は須佐之男命の流れを汲み、地上(出雲など)を拠点とする一族です。彼らは輝の神とは対照的に「死」を受け入れる存在です。老い、死に、土に還ることで、次の世代へ命を繋いでいく――。その力は、作物を育て、傷ついた者を癒やす力を持ちます。勾玉を依り代として各地に潜伏し、土地の霊力を守り続ける民として描かれます。
3.勾玉
輝の神と闇の神という、本来は決して相容れない二つの勢力の均衡を保つ鍵となるのが勾玉です。闇の氏族の姫が勾玉をその身に帯びることで、輝の神の圧倒的な光を和らげ、勾玉に宿る力が数千年におよぶ輝と闇の争いを終焉に導きます。
【まとめ】小難しい理屈は不要!極上の〈ガール・ミーツ・ボーイ〉を楽しもう
でも、繰り返して恐縮ですが、小難しいことは考えずに、ヒロインの少女たちが運命の少年と出逢う〈ガール・ミーツ・ボーイ〉ものとして、ひたすら物語世界を楽しめばよい…とわたしは本当に思います(荻原先生すみません!)
それほど登場人物が魅力を放つ〈勾玉〉シリーズです。このまとめ記事を機に「手に取ってみよう」と思う人がひとりでも多く増えたら、これに勝る喜びはありません。
最後に蛇足ですが、〈勾玉〉3部作を読み終えたら、その時はぜひ関連作品でもある『風神秘抄』(上下巻、徳間文庫)に手を伸ばしてみてください。こちらは少年が主人公なので〈ボーイ・ミーツ・ガール〉ものですが、『白鳥異伝』に匹敵するせつなさ溢れる傑作です。
(しみずのぼる)
📖〈勾玉〉3部作 各作品の徹底解説
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