映画から劇中流れる音楽に惹かれる経験は誰しもあるはず。洋画の場合は特に映画が入口となって洋楽の好みが拡がるケースも……。そんな基準でいくつか洋画&洋楽を紹介します(2024.9.8)
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音楽は世界共通語
実はこの種のテーマは過去にも何度か書いているのですが、先日「小さな恋のメロディ」について書いた際、プロデューサーのデヴィッド・パットナムが、劇中でビー・ジーズやCSN&Yの曲を使ったのは「音楽は世界共通語だから」と言っていました。

ビー・ジーズもCSN&Yも「小さな恋のメロディ」で好きになり、サントラ盤を買ったり、彼らのアルバムを買ったりした身としては、

そうだよなあ。映画から音楽に導かれるケースってあるよな…
と思うと同時に、「ほかにも映画から好きになった曲ってあるよな」と思い、いくつかの映画&音楽をまとめて記事にしようと思った次第です(3回にわけて書きます)
サウンド・オブ・サイレンス
1曲目は、「小さな恋のメロディ」と同じく映画と音楽が分かちがたく結びついている「卒業」(原題:The Graduate)から、サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」(The Sound of Silence)です。
「卒業」は1967年製作で、その年のアカデミー賞と監督賞を受賞したアメリカン・ニュー・シネマの代表作です。

優秀な成績で大学を卒業したベンジャミンは、両親の友人、ロビンソン夫人に誘惑され、関係を重ねる。虚無感をつのらせるベンジャミンの様子を心配した両親は、何も知らずに夫人の娘エレーンとデートするよう勧める…。新鮮なタッチで新たな人間像を描き、ハリウッド映画に新風を吹き込んだアメリカン・ニュー・シネマの代表作! ダスティン・ホフマンは本作でスターとなり、共演のキャサリン・ロスも人気女優となった。「サウンド・オブ・サイレンス」等、この映画で使われたサイモン&ガーファンクルの名曲も、世界的にヒットした。
わたしが「卒業」をはじめて観たのは、公開から数年後のリバイバル上映でした。当時小学4年生でしたが、同級生たちの間でS&Gは流行っていて、リバイバル上映すると知って同級生と行くことを計画。親同伴でないとダメとなって、母親に頼んで連れて行ってもらいました。
考えてみれば、中年女性に誘惑されてセックス三昧の男が主人公ですから、どこまでわかって観ていたのか怪しいものです(母親はきっと困ったでしょう)
それでも、とにかくS&Gのメロディは最高でしたし、ダスティン・ホフマンが教会で「エレーン エレーン エレーン」と何度も叫び、キャサリン・ロスが「ベーーン!」と叫びかえす場面は、鮮烈な記憶として脳裏に焼き付きました(ちなみに、大学生になってから読んだチャールズ・ウェッブの原作では「ベーーン!」と叫びかえさないと知って驚きました)
S&Gの代表作である「サウンド・オブ・サイレンス」は、映画の冒頭とエンドロールで流れますが、ベンとエレーンがバスに乗ってぎこちない笑顔を見せるラストから流れ始める「サウンド・オブ・サイレンス(リプライズ)」のほうが好きです。
ギターだけをバックに歌うS&Gの歌声がとてもはかなげで、”宴のあと”のようなさみしい余韻が沁みる曲です。S&Gのベスト盤でも、このバージョンは採用されないので、サントラ盤でしか聴けません。
Suicide Is Painless
2曲目は、ベトナム戦争まっただ中の1970年に公開されたアメリカ映画「M★A★S★H マッシュ」(原題:M★A★S★H)から、「Suicide Is Painless」(ジョニー・マンデル&The M★A★S★H)です。

朝鮮戦争下の移動米軍外科病院(Mobil Army Surgical Hospital)に3人の軍医が配属された。腕はピカイチの名医だが、揃いも揃って突拍子もない横紙破り。血の海の中で朝から晩まで手足を切ったり縫い合わる仕事が終わると、寸暇を惜しんでは猥雑極まりないイタズラに精を出す。軍規を無視してやりたい放題をし、お固い女性将校をからかうのに夢中になる……。彼女のベッドシーンを軍放送で流してみたり、彼女がシャワーを浴びている小屋の壁と屋根を壊したり……。人間が造りだした“戦争”という愚かなゲームに対抗してハメをはずす人々を描いた痛烈な戦争コメディ。

「M★A★S★H マッシュ」は父親に連れられて劇場公開時に映画館で観ました。ブラックコメディですから、おふざけシーンは小学生でも笑えるのですが、わたしの印象に強く残ったのが、冒頭、軍用ヘリが野戦病院に到着するまで流れる「Suicide Is Painless」でした。
歌詞の意味もわからず、ただ「いい曲だなあ」と思ってレコード店でシングル盤を見つけて購入。タイトルは「もしも、あの世にゆけたら」でした(もう手元に残ってません。残念)
Through early morning fog I see 朝早くの霧ごしに僕は見た
Visions of the things to be 物事のあるべき姿を
The pains that are withheld for me 僕の中で抑えられていた苦痛を
I realize and I can see 僕は認識し、理解できるThat suicide is painless 自殺は苦しくない
It brings on many changes いろいろな変化を及ぼしてくれる
And I can take or leave it if I please やるかやらないかは僕次第
大学生になって、1950年代にアメリカで猛威を振るった赤狩りの本を読み、議会に設置された非米活動委員会で宣誓拒否してハリウッドを追放された「ハリウッド・テン」のことを知り、追放されたひとりが「M★A★S★H マッシュ」の脚本家(リング・ラードナー・ジュニア)だったと知って「強烈な反戦映画だったんだな」と思ったものでした。メロディに惹かれて好きになった曲ですが、「Suicide Is Painless」も反戦ソングということです。
Nobody Knows
3曲目は、1971年製作の「バニシング・ポイント」(原題:Vaning Point)から、「Nobody Knows」です。この映画もアメリカン・ニュー・シネマのひとつで、カルト的人気を誇る映画です。

デンバー~シスコ間を15時間で走る賭けをした陸送屋。白バイを蹴散らし、パトカーをひっくり返し、限られた時間の中時速200キロでとばしていくが、行く手にはバリケードが……! 映画史に刻まれる、カーチェイス映画の傑作。運命に逆らい、社会に逆らい、スピードの中に何かを見つけようと走り続ける男の姿は、現代の車に乗った孤独なカウボーイのように映し出される。アメリカン・ニュー・シネマ特有のテーマと壮絶なカーチェイスの娯楽性が見事に融合した作品。

こちらも小学生の時に父親と映画館で観ました(父親が映画好きだったんですね。いま振り返ると、いろいろ映画館に連れて行ってもらったことに感謝です)
映画ももちろんよかったですが、最後に流れる曲がものすごく好きで、でも誰の何という曲かもわからず、ずっと悶々としていました。英語が聞き取れるようになって「Nobody Knows」という曲名だろうとあたりをつけてからも見つからず…。いまのように検索で探せる時代になって本当によかったです。
Nobody knows Nobody sees 誰も知らない 誰も見ていない
Till the light of life comes burnin’ 命の光が燃え盛るまで
Till another soul goes free. 別の魂が解放されるまで
歌っているのはKim&Dave。「Kim」は、のちに「ベティ・デイビスの瞳」という曲で大ヒットしたキム・カーンズです。
次回は80年代以降の青春映画からセレクトします。
(しみずのぼる)


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