時空を超えて求め合うふたつの魂ーー。こう書くとネタバレになってしまうのですが、それでもこう紹介するのを許してください。よしながふみさんのオムニバス漫画「環と周」(集英社刊)を読み、何度も落涙しました(2026.1.23)
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「アイーダ」のラストを思い出す
時空を超えて求め合う愛というストーリーは、実はいろいろあります。ミュージカル好きのわたしがすぐ思いつくのは「アイーダ」です。
時空を超えた究極のラブストーリー
https://www.shiki.jp/applause/aida/
愛し合う恋人たち、そして恋を求めつつ生きる大人たちの心をつかんで離さない究極の愛が、古代エジプトを舞台に描かれる物語—それが、ミュージカル『アイーダ』。
世界中で親しまれてきた世界最古のラブストーリー「アイーダ」。製作スタッフの「ヒット作の舞台化ではなく、何か危険なチャレンジを」という思いから出発した構想は約5年を経て、この物語に様々な要素を加え推敲することで、新感覚のミュージカルを生み出しました。
そうして誕生した本作は、2000年4月にブロードウェイで開幕すると瞬く間に大きな評判を呼び、同年のトニー賞で最優秀音楽・歌詞賞など4部門を獲得、翌年のグラミー賞で最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞し、ヒットミュージカルに名を連ねることとなりました。
作曲はエルトン・ジョンですから名曲揃いですが、わたしが必ず泣くのはラストの「Every Story is a Love Story (reprise)」(劇団四季版の題名は「愛の物語(リプライズ)」)です。
よしながさんの「環と周」を読了して最初に浮かんだのは「Every Story is a Love Story (reprise)」でした。ラストの余韻が心に沁みたのです。
さまざまな”好きのかたち”
「環と周」のあらすじの一部をAmazonから引用します。
家族、恋、友情……さまざまな関係性で綴られる“好きのかたち”。
──現代編 中学生の一人娘が同級生の女の子とキスをしているのを目撃して動揺する妻。実は夫にも、かつて同級生の男の子を好きになったことがあった。
──明治時代編 大切な“お友達”になった女学生の環と周。周の縁談が決まり二人は離れ離れに……。
──70年代編 病気で余命わずかと知った環は、同じアパートに住む少年と出会い交流が始まる。
──戦後編 復員兵の周は元上官の環と再会し、闇市で一緒に店を始めるが、環には秘密があった。
登場人物の名前はいつも「環」と「周」ーー現代編では夫婦ですが、明治時代は女学生同士、70年代は年の離れた大人と子ども、戦後編は復員した元上官と元部下。「関係性」はバラバラで、共通するのは名前と「好き」の気持ちだけ……。でも、

あれ? これは姿かたちを変えているけれど、おなじ魂が惹かれ合って出逢いを重ねているのかな……?
と思うのは第3話ーー「70年代編」あたりでした。
自殺図る元部下と闇市の元上司
どの短編もすこぶるよいのですが、ここでは第4話ーー「戦後編」を紹介します。
この時空の「周」は家で首をくくろうとしていた。そこへ登場する「環」ーー。
こらッ!!
こらこらこらッ!!
何て事をッ!!
やめなさい
やめなさいッ!!!?
これは…!!
白鳥環班長殿でありますか!?鮫島周二等兵
せっかく助かった命だろう!?
馬鹿な事をするもんじゃないよ!!生きていたって仕様がありません…
こんな…こんな女房も子供もいない家に帰ってきたって…!!
周は「近所の人」から聞いた家族のことを語り出した。
娘の和子は疎開先から帰ってきた後チフスで亡くなって
間もなく女房はよその男とどこかに行ったって
環は「自慢にもならんが俺の家族も空襲で一人残らず死んじまったよ それでも俺はこうして生きてるんだぞ!?」と慰め、「俺の仕事をちょいと手伝ってくれないか」と誘った。
環の仕事は新宿の闇市でカストリーー粗悪な密造酒を売ることだった。客はさまざま。売春婦のマチコが周に目をとめた。
あら新入りのお兄ちゃんだ
コンバンワ南方にいた時の部下だよ
鮫島ってんだ
闇市を仕切ってる山田組の根津に絡まれつつも、周は闇市での忙しい日々に徐々に慣れ始めた。
環が唄う貝殻節
環は歌が上手かった。根津に頼まれて鳥取の貝殻節を環が唄うのを聞いて、周は南方の戦地での夜を思い出した。
お前達ともこれでお別れか
田村・鮫島・塚本は明日からラバウルだな
俺みたいないい加減な上官のもとでお前達はよくやったよ
配給の菓子や煙草はちゃんと受け取ったか?いえ!自分の分はどうか班長がお持ちください
自分はもうこのまま内地に帰れないと思います
形見だと思ってどうか!
環は「形見は嫌だから煙草の礼に一曲歌わせてもらうよ」と言った。貝殻節だった。
〽戻る
船路にゃ
艪櫂(ろかい)が勇む
(可哀やのう 可哀やのう)
愛し妻子(つまこ)が待つほどに
愛し妻子が待つほどに俺だけじゃない
貝殻節を聞いた事が無い者も
妻子がいない者も
みなが班長の歌を聞いて泣いていた
妻との再会、環の秘密
周は闇市の日々に慣れ、根津が調達したコーヒー豆で淹れたてのコーヒーをつくり、「照子もきっとどこかで生きてくれてる」「俺もしゃんとして生きていかなきゃ」という言葉が口をついて出るようになった。
そして雨の夜、照子がカストリ酒場に姿を現したーー。
紹介はここまでにしておきましょう。Amazonのあらすじにある「環の秘密」を書くのは無粋も甚だしいので。
心に沁みる「また会ったね」
ひとつひとつの話に泣かされるのですが、どの時代でも同じ名前の環と周が登場します。夫婦として、女学校の同級生として、元上官と元部下としてーー。
それはなぜか。オムニバスを貫く謎は、最終話(Amazonのあらすじで唯一削った部分)で明かされます。
そして、エピローグでふたたび冒頭の第1話(現代編)に戻り、夫婦の環と周がかつて大学生の時、就活中に出逢う場面がラストに紹介されます。
あ…沢渡さん
お疲れさま!立石君もここの説明会来てたんだね!
うん まあ記念受験みたいなもんだからたぶん全然ダメだと思うんだけど
いやいやご謙遜ご謙遜
しかし今日はずいぶん暑いね…
ちょっとお茶でも飲んでいこうかな
立石君は?そうだね 僕も飲もうかな
けどさ
ゼミが一緒だった時も思ったけど
何だか沢渡さんとはたまたま会うよねホントだね!また会ったね!
こんな普通の場面なのに、もう泣いています。「また会ったね」の一言が、こんなにも心に沁みるなんて……。
ネタバレが過ぎると怒られそうですが、
家族、恋、友情……さまざまな関係性で綴られる“好きのかたち”
という一文では「環と周」のよさは絶対伝わらないと思うので、どうかどうかお許しください。
「環と周」が連載された「ココハナ」では、第1話(現代編)のあらすじが読めます。環と周の表情もわかりますので、どうぞ覗いてみてください。
(しみずのぼる)
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