「ダ・ヴィンチ・コード」で有名なベストセラー作家、ダン・ブラウンの最新作「シークレット・オブ・シークレッツ」(上下巻、KADOKAWA刊)を読みました。8年ぶりの新作で、主人公はおなじみのロバート・ラングドン教授。今回挑むのは「科学×超常現象」の謎!(2025.11.26)
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「意識と脳」の秘密に迫る
最初に「シークレット・オブ・シークレッツ」の帯ーアイキャッチ画像をごらんください。
科学×超常現象
とあります。別の帯には簡単なあらすじが載っています。
奇妙な夢、消えた原稿、殺人事件、繰り返し現れる暗号ーー主人公ロバート・ラングドンが、世界一ミステリアスな古都プラハを舞台に「意識と脳」の秘密に迫る
ダン・ブラウンですから、これ以上の前情報は見ないようにして読み始めて、久々に読書に没頭しました。
ダン・ブラウンの小説を読んだことがある人なら、わたしと同じように前情報はできるだけ絞って書店に直行することをお勧めします。でも、

「ダ・ヴィンチ・コード」の映画は観たけど、小説は読んだことがない…
という人もいるでしょうから、すこし内容に触れて本書の魅力を紹介したいと思います。
臨死体験…ゴーレム
自分は死んだにちがいない、と女は思った。
プロローグはこんな書き出しで始まります。
女はチェコの神経科学者、ブリギタ・ゲスネル博士。プラハの街を上から見下ろす情景から「いま自分は、医学文献でOBEーー対外離脱体験(アウト・オブ・ボディ・エクスペリエンス)ーーと呼ばれる混乱状態にある。致命傷を負った患者が臨床的に死を迎えたあと、蘇生するときに起こる幻覚」と認識した。
なぜ死にかけているのか。それは土の仮面をかぶった怪物から拷問を受け、訊問されているからだった。
恐怖に襲われたゲスネルは、守ると誓っていた秘密を半狂乱で明かした。怪物の問いに答え、自分と仲間たちがプラハの街の地下深くに造ったものについて、不穏な真実を暴露した。
怪物は宣告した。「おまえたちは地下に恐怖の館を造った」「ひとり残らず、死に値する」。怪物は拷問を再開し、ゲスネルの命は尽きた……。
まず、この隠喩に含んだプロローグから謎に満ちています。
ゲスネル博士らはプラハの街の地下に何を造ったのか? ゴーレム(ユダヤの伝説に登場する土や粘土で作られた人造人間)を名乗る怪物の正体は? そして臨死体験がその後のストーリーにどう絡んでくるのか?
意識を生むのは脳…ではない
宗教象徴学が専門のロバート・ラングドン教授は、恋愛関係にある純粋知性科学者のキャサリン・ソロモン博士が大学講演会に招かれてプラハに同行していた。招いたのはゲスネル博士で、ソロモン博士は講演会で、近く出版する本の内容の一部に触れた。
「人類は長いあいだ意識について思索してきました。しかし、科学が発展した現代でも、意識を定義するのは困難です。それどころか、多くの科学者は、意識について議論することすら恐れます」
出席者とのやりとりから、意識を生むのは脳の活動との言葉を引き出した後、ソロモン博士は
「では、大前提として、この基本事項には同意できますか? 意識は脳がーー頭蓋骨のなかにあって、八百六十億個のニューロンから成る一キロ半の塊がーー生み出すもので、それゆえ意識はわたしたちの頭の中にある、と」
と続けて会場の同意を取り付けたうえで、こう付け加えた。
「問題は……いま主流であるモデルが大まちがいだということです。みなさんの意識はけっして脳が生み出しているのではありません。それどころか、頭のなかにすらないのです」
講演会に触れた上巻ではここまでしか明かしていませんが、ソロモン博士は別の場面(下巻)でラングドン教授になぜ主流のモデルが「大まちがい」なのか、その理由を説明しています。
「人間の脳がそれほど膨大なデータを保存するのは、物理的に不可能なの。世界じゅうのすべての楽曲を一台の携帯電話に詰めこもうとするのと同じ。そんなことはできっこない。ただし……」
「ただし……」以下はネタバレになるので書きませんが、ソロモン博士は、この新著のエッセンスを披露した翌日に行方不明になり、遠く離れたニューヨークでは、ソロモン博士の新著の原稿を格納した出版社のサーバーがハッキングされ、サーバー内の原稿がすべて失われます。
ストーリーが進むうちに、ゴーレムに殺されたゲスネル博士は、CIA(アメリカ中央情報局)がシリコンバレーにつくったベンチャー企業「In-Q-Tel」の協力者で、CIAとIn-Q-Telがひそかにプラハに地下施設を造ったことや、軍事諜報に関する科学研究にソロモン博士が新著で触れた内容が関わっていることが明らかになっていきます。
ソロモン博士の新著は何を書いたものなのか? それがなぜCIAに危険と認定されたのか? そしてCIAはプラハの地下施設で何をしようとしているのか?
ソロモン博士がラングドン教授に新著の内容を訊かれる場面は、上巻のいちばん最後に出てきます。
「理由はどうあれ、これはすべてきみの本をめぐってのことだ。キャサリン」ラングドンは身を乗り出して視線を合わせた。「教えてくれ。あと少ししかふたりきりでいられないなら、何もかも話してもらいたい。原稿には何が書かれている? きみは何を発見したんだ」
(略)
原稿もない……時間もない。
「わかった」そうつぶやいて、キャサリンはラングドンに身を寄せた。「いまから話す」
(下巻につづく)
うーん、なんとうまく引っ張るのでしょうか。
秘密の中の秘密
上巻から臨死体験に関する描写が何度も出てきますし、上巻の半ばには、
死んだらどうなるのか。
この疑問こそ、他を圧倒する、生にまつわる最大の謎ーーだれも知りたくてたまらない秘密だ。皮肉なことに、とらえどころのないこの疑問の答は、結局はひとりひとりに明かされることになるが、それをもどって伝える術はない。
というくだりも出てきます。
ですから、本書の題名である「秘密の中の秘密」が、死に関することであることは、早い時点で想像がつきます。
それでも、死の謎を解いたソロモン博士の新著の内容やCIAが何としても出版を阻止したい部分はどこなのか、そしてチェコの地下施設は死の謎にどうかかわっているのか、といった要素はすべて下巻に持ち越されます。
いかがですか? こう紹介されたら、ぜひとも読んでみたくなりませんか?
巻頭に必ずある「事実」
さて、「シークレット・オブ・シークレッツ」のあらすじにかかわる紹介はここまでにして、ダン・ブラウンの小説の最大の特徴である「事実に基づく」小説であることに触れておきましょう。
ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズは、8年ぶりの新刊となった「シークレット・オブ・シークレッツ」が6作目となります。出版順に記すと、
- 「天使と悪魔」(2000年)★
- 「ダ・ヴィンチ・コード」(2003年)★
- 「ロスト・シンボル」(2009年)
- 「インフェルノ」(2013年)★
- 「オリジン」(2017年)
- 「シークレット・オブ・シークレッツ」(2025年)
★をつけた3作は映画化され、ラングドン教授をトム・ハンクスが演じています。どれも話題になった映画ですから、ごらんになった方も多いでしょう。
この6作のうち「ダ・ヴィンチ・コード」以降の5作は必ず、巻頭に「事実」という一文がついています。第1作「天使と悪魔」も巻頭に「著者注記」があり、「すべて事実に基づく」と書いています。
つまり、想像力を膨らませて構築されたストーリーでありながら、その素材となっているものは「事実に基づく」と著者は言っているのです。
「シークレット・オブ・シークレッツ」の巻頭は次のような文章です。
事実
この小説に登場する芸術作品、遺物、象徴、文書はすべて現実のものである。
実験、テクノロジー、科学的成果はすべて事実に即している。
この小説に登場する組織はすべて実在する。
In-Q-Tel…エシュロン
例えば、In-Q-Telは確かに実在の組織でした。読後に検索したら下記の記事がヒットしました。
さて、米国の諜報機関 CIA がVC、ベンチャーキャピタルを運営していることをご存知でしょうか?
週刊アスキー – 日本人の知らないシリコンバレー:CIAが運営するVC「In-Q-Tel」
CIA直下で$170Mの資金を運用している「In-Q-Tel(以下、IQT)」は、対外諜報活動を通して世界中から集まる膨大な情報を解析するためには優れた技術が必要、ということで1999年に設立されました。「In-Q-Tel」という名前は、幅広い起業家に興味を持ってもらうために、Intel (Intelligenceの略)の間に、映画「007」の中に出てくるフィクションの英国諜報機関のR&D担当の名前「Q」を挟んだ、ということのようです。なかなかチャーミングですね。ちなみに、最初のCEOは、Gilman Louieというソビエトの技術者からテトリスのライセンスを最初に受けたことで知られるゲームのデベロッパーです。
エシュロン(米英豪カナダ・ニュージーランドの5カ国が運用する通信傍受システム)のことも出てきます。
女の画像を大使館の国際顔認証データベースにアップロードした。世界のどこであれ、この女に犯罪歴があれば、三十秒で正体がわかる。犯罪歴がなかったら、パスポートや運転免許証や大手メディアから集めた顔写真の膨大な国際データベースで調べよう。
もしそれでわからなければ、最終手段として使うのは、世界で最も新しく、最も充実したデーベースーーインスタグラム、フェイスブック、リンクトイン、スナップチャットなどのSNSには、何十億、何百億枚もの無邪気な自撮り写真が載っている。
ソーシャルメディアは、カトリック教会が告解を考案して以来、最も貴重な情報集手段だ
(略)
データベースを検索して該当なしの結果が返ってきたことなど、これまでただの一度もない。いまの世界でどこにもデジタルフットプリントを残さずにいるのは物理的に不可能だ。
このエシュロンのデータベースの外にとどまろうと思ったら、採りうる手立てはただひとつ、デジタルの記録を”漂白”するしかない。このネットワークを所有・運営しているのはアメリカ合衆国だ。つまり、合衆国政府は追跡させたくない顔を検索結果から除外するように制限をかけるだけで、”透明人間”を生み出すことができる。この方法は、政府の高官、ビジネス界の大物、軍や諜報機関のスパイなどの個人情報や身の安全を守るためによく用いられる。
「シークレット・オブ・シークレッツ」はすべて「事実に基づく」小説です。米国だけでなくロシアや中国など大国がしのぎを削る科学と軍事の最前線を垣間見る一助になるーーそんな内容の小説と言っていいでしょう。

マーク・グリーニーの〈グレイマン〉シリーズを読むと暗澹たる気持ちになるけど、ラングドン教授シリーズもAIを描いた前作「オリジン」しかり、徐々にそういう色彩を帯びてきたなあ…

〈グレイマン〉シリーズはこちらをごらんください
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