きょうは「ガラスの仮面」で有名な美内すずえさんの少女ホラー漫画「白い影法師」を紹介します。50年前の1975年に書かれた漫画ですが、トラウマ級の”最恐”シーンがあることで今なお話題にのぼる作品です(2025.2.12)
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「黒百合の系図」「妖鬼妃伝」
美内すずえさんもホラー漫画はたくさん発表しています。例えば、角川ホラー文庫「人形の墓」(品切れ)の巻頭を飾る「黒百合の系図」(雑誌発表は1977年)

謎に満ちた母の突然の死ーー。葬儀の日、悲しみに沈む安希子に、母の20数年来の知人が問いかける。「黒百合の花が咲いたのですか……?」『黒百合』をキーワードに知らざる母の過去を求め、黒姫谷へ向かう安希子。そこには、母の先祖・飛竜家にまつわる恐るべき血の伝統が待っていた!! 想像を絶するおどろどろした怨霊の世界に引きずり込む、美内すずえ怪奇傑作(白泉社文庫「黒百合の系図」あらすじ)
「黒百合の系図」に並ぶ美内すずえさんの真正ホラー漫画は、ほかに「妖鬼妃伝」(1981年)があります。

ほんの偶然から降りたった地下鉄角宮駅。その駅の出入り口をもつ帝国堂デパートへ忘れものをとりにいったまま戻らず、怪死体となって発見された親友。秋本つばさは謎を解明しようと閉店後のデパートへ潜入する。そこで彼女が見たものはーー?! 霊能力者の九曜久秀の協力も得て、おそるべき謎の正体がしだいに明らかになるがーー。千年もの長い時を生き続ける”妖鬼妃”とは!?(白泉社文庫「妖鬼妃伝」あらすじ)

”最恐”…みんなのトラウマ
でも、「黒百合の系図」と「妖鬼妃伝」も相当怖いストーリーにもかかわらず、美内すずえホラーで”最怖”のホラー漫画は何?と聞かれたら、多くの人が挙げるのが「白い影法師」でしょう。
例えば、このマンガがすごい!WEBに「美内ホラー史上”最恐”。みんなのトラウマ「白い影法師」が復活!!」というタイトルの記事が載っています。
かれこれ30年以上前のマンガにもかかわらず、いまだに最恐トラウマとして少女漫画ファン以外にもその名を轟かす、オカルトホラーの金字塔的作品だ。
この記事は2018年に書かれたものですが、わたしも初めて読んだ時の背筋が凍るような思いは忘れません。「トラウマ」級の怖さだとわたしも思います。
窓ぎわ4列目の空席
「白い影法師」の内容を紹介しましょう。
父の転勤で女子高に転入した長谷部涼子は、いちばん後ろの席に座るよう担任教師に言われた。窓ぎわの前から4列目に空いている席があるにもかかわらず……。
あの席の人は今日は、欠席しているのかしら……?
ところが妙なことに翌日以降も空席のままだった。視力が悪い涼子は、その席に移ってもよいか担任に訊ねた。すると、クラスメートは一様に凍りついた表情になった。
休憩時間にクラスの女子が近づいてきた。
「長谷部さん あまり長くその席にいないほうがいいわよ」
「なぜ? それにどうしてみんなこの席にこだわるの?」
「いっても信じてもらえないわ 少なくともお昼休みをすぎたら席をたつのね」
お昼休みを終えた5時間目。涼子は悪寒を感じ、具合が悪くなってきた。我慢して6時間目を迎えたが、急に悪寒が強まったその時、白い影法師が背中にもたれかかってくる感覚に襲われた。慌てて立ち上がり、気分が悪いことを理由に保健室に駆け込んだ。
人の気配……
背中に氷水をあびせられたように
あれはいったいなに……?
席を移るように忠告してくれた女子を捕まえて事情をただすと、躊躇った末にようやく教えてくれた。
なんでも数年前……2年E組にいた少女がなにかのことでこの学級で死んで それ以来ときたまみょうなことがおきるらしいの
窓ぎわの前から4列めのあの席もそう 6時間めが近づくと気分がわるくなり やがてだれかに肩や足をさわられたり髪をひっぱられたりうすきみわるいことがおきてすわっていられなくなるの……
だからあの席はあたしたちがこの学校に入学する以前からずっと空席のままなのよ
と・も・た・ち…ほ・し・い
教えてくれた女子ーー中村さんが、A組に霊感のある女子がいると教えてくれた。霊感少女ーー丹羽さんも交えて、放課後、E組に残ってコックリさんをやることになった。
名前を訊ねると、コックリさんの10円玉が文字盤上を動いた。
こ・も・り・さ・よ・こ
その直後から、10円玉は勝手に動き始めた。
さ・ひ・し・い
さ・ひ・し・い
と・も・た・ち
と・も・た・ち
死んだ場所を訊ねると「こ・こ・て」と動いた。「ここで」ーー涼子たちが息をのむと、10円玉が動いた。
は・せ・へ・す・す・こ
と・も・た・ち
部屋にラップ音が鳴る中、10円玉がさらに動いた。
ほ・し・い
涼子たちは卒業生名簿を調べて、5年前に小森小夜子が教室で亡くなったことを突き止め、当時の卒業生に話を聞いて回った。
家庭に恵まれず、友人もいなくて教室で孤立していた小夜子。転校生と親しくなるが、転校生がクラスになじむにつれて避けられるようになり、10月6日、病弱にもかかわらず5時間目の体育の授業に出て、6時間目に自席で亡くなった…。そして、転校生もしばらくして交通事故で死亡していた…。
このままではとり殺される
そのうちに涼子の身辺で事故が頻発するようになった。証拠として集めた心霊写真が燃え、涼子の頭上にコンクリートブロックが落ちてきて、あわやのところで下敷きを免れた。
だめだ!このままではとり殺される!
霊感少女の丹羽さんの勧めで頼った霊能力者は「いかんな……死霊がとりついておる」と言って、「とり殺されないただ一つの方法がある」と続けた。
10月6日にあなたは窓ぎわの空席にもう一度すわるんだ
そしてあなた自身小森小夜子の霊とたたかってもらう
とり殺そうとする念に対してあなたは生きたい! と強く念じるんじゃ
死んでたまるかと念じ霊のつけいるスキをあたえないことじゃ
もしわずかでもその信念がくずれたら恐怖に打ち勝つことができなければあなたは死ぬぞ
足が動かない!体が動かない!
こうして10月6日、涼子はふたたび担任に頼んで、窓ぎわ4列目の席に座った。
その日も やはり4時間めまではなにごともなく
昼休みをすぎ5時間めにはいったころからまた首すじに氷水をあびせられるような悪寒がはじまったのです生きたい!生きたい!生きたい!
死にたくない!小森小夜子!私はこの世に生きてやりたいことがいっぱいあるの!
そして6時間め。「もうすぐおわる…もうすぐ6時間めが…」と思ったとたん、
声が出ない!足が!足が動かない!体が動かない!金しばり!
唯一うごく視線を机の下に向けると、涼子のスカートの上を這い上がる両手がーー。
不意に飛び込む「例のシーン」
ここで次のページをめくると、有名なトラウマ級の恐怖のページになります。
前述の「美内ホラー史上”最恐”。みんなのトラウマ「白い影法師」が復活!!」の記事をふたたび引用しましょう。
クライマックス、不意に目に飛びこんでくる「例のシーン」の衝撃はもはやマンガという枠を超えた、日本のエンタテイメントの至宝。ぜひ後世に受け継がれてほしい(&外国語版、出してほしい!)と本気で願わずにいられません!
やはり「例のシーン」は有名なんですねぇ…
なお、この記事はきちんと許諾をとっているようで、記事中に「例のシーン」の画像を載せています。
下記記事からごらんいただけますが、未読の方は記事を読まずに「白い影法師」を実際に読まれることをおすすめします。

「白い影法師」は、白泉社文庫の「美内すずえ傑作選」1巻「妖鬼妃伝」に入っています。ぜひトラウマ級の恐怖を味わってください。
(しみずのぼる)
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