叙述トリックが効いたホラー・ミステリー「ポルターガイストの囚人」 

叙述トリックが効いたホラー・ミステリー「ポルターガイストの囚人」 

先日紹介した上條一輝氏「深淵のテレパス」ーー〈あしや超常現象調査〉シリーズの第2弾となる「ポルターガイストの囚人」(東京創元社刊)を読みました。おなじみの顔ぶれがポルターガイスト現象の謎に挑むストーリーで、叙述トリックも効かせた秀作です(2025.9.5) 

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〈あしや超常現象調査〉第2弾

最初にあらすじを紹介しましょう。 

「あしや超常現象調査」の芦屋晴子と越野草太は、古い一軒家でポルターガイストに悩まされる人物の依頼を受ける。世界で起こったポルターガイスト現象から法則性を導き出し、独自の対策を編み出して超常現象に立ち向かう二人。やがて現象は収束した……と思った矢先に、依頼人が失踪してしまう。さらに晴子と越野の周囲までもが奇怪な現象に蝕まれ始め──。「ベストホラー2024」(国内部門)、『このホラーがすごい! 2025年版』(国内編)で1位に輝いた『深淵のテレパス』に続く、〈あしや超常現象調査〉シリーズ第2弾! 

ポルターガイスト現象とは何か。本文から引用します。 

ポルターガイストという言葉自体は聞いたことがあった。たしかドイツ語で「騒がしい幽霊」という意味で、物体が浮遊したり、謎の物音が鳴ったりといった現象が頻発することを指す語句のはずだ。 

これに関連してRSPKという単語も登場します。 

「RSPKってのは、日本語では『反復性偶発的PK』なんて風に訳される。PK(サイコキネシス)能力者がポルターガイスト現象の中心にいて、無意識に何度もPKを発動してしまっているために、物が動いたり音が鳴ったりするっていう仮説だ。だいたい中心にいる人物は、家庭環境に問題を抱える未成年か、若い女だとされてる」 

鏡の中の

そんなポルターガイスト現象に悩まされているのは、やや落ち目の俳優、東城彰吾。父親が施設に入って空き家となった実家に住み始めたが、誰もいない部屋で音がしたり、姿見が動いたりしている。 

脳卒中の後遺症が残る父親におかしなところがなかったか訊ねてみると、「鏡の中の女」の話をしだした。 

「おんなが……いる……」
「女がいる、って言った? どこに?」
「ほう……ちょう……もって……おんなが」
包丁、と言っただろうか。心臓の鼓動が速まる。
「父さん、どういうことだよ。包丁を持った女がいるのか? どこに?」

これ以上はわからなかった。マネージャーに勧められて「あしや超常現象調査」の晴子・越野のコンビに調査を依頼することにした。 

断捨離をしましょう

ポルターガイスト現象を目の当たりにした晴子は東城にひとつの推論を口にした。 

「半田さんと工務店の鶴見さんが見た、洗面所の人影。東城さんのお父さんが言っていたという『鏡の中の女』。そんな話は、先行研究ではまるで聞いたことがない。ポルターガイストの対策としてはたいてい、中心人物が抱える心理的問題の解決が目指されているんですが、今回のケースではその解決策は取りようがありません」 

こう前置きをしたうえで、 

「先行研究が当てにならないなら、自己流でやるしかありません」
「自己流、と言うと?」
「断捨離をしましょう」

と提案した。 

「いいですか? 動かせる物があるから、物が動くんですよ。(略)では、物がなかったら?」 

「この家では、なぜか顔にまつわる物がよく動いています。姿見は少し性質が違うように思いますが、顔を映す鏡、と考えれば傾向に一致します」 

「家の中から、今まで動いた物や顔を想起させる物を全部撤去してみましょう」 

晴子の提案が功を奏してポルターガイスト現象は収束したかに見えた。ところが、今度は東城彰吾本人が行方不明になったーー。 

読者を惑わす叙述トリック

「ポスターガイストの囚人」は、実は東城彰吾の行方不明になってからが本番なのです。 

晴子と越野が「深淵のテレパス」でも登場した協力者ーー探偵の倉元、ESP能力を持つ犬井、そして「深淵の…」で重要な役どころを演じた女子大生・桐山楓も加わって東城彰吾について調べる章と、東城が主語で描かれる監禁場所から脱出を試みる章が交互に展開します。 

ん?監禁されてるの?なら、ホラーじゃないわけ? 

そんなふうに読者を惑わす叙述トリックも見事ですし、今回も伏線の貼り方が巧妙で、徐々に怪異の真相が明るみに出る後半はページをめくるのももどかしくなります。 

闘争か、逃走

「ポルターガイストの囚人」でも越野が活躍します。カギとなるキーワードは「闘争か、逃走か」ーー。 

この言葉が最初に出てくる場面を引用します。東城のマネージャーに「背筋が冷える」理由を晴子が説明します。 

「恐怖を感じたり緊張を強いられたりすると、闘争・逃走反応と呼ばれる身体的変化が現れます。恐怖の対象に対して、戦うか、逃げるかできるように心拍数が上がって、筋肉に優先して血液を回すんです。そのとき副次的に体の震えが生じるのを、『寒い』と体が勘違いすることがあるんですよ」 

本筋と関係ないような場面ですから見落としてしまいそうですが、最終盤で怪異の大本に晴子と越野が立ち向かうところで、このキーワードがふたたび登場します(ネタバレにならないよう一部伏字にしました) 

「越野!」
我に返って顔を上げると、晴子さんが包丁を突きつけられてじりじりと後退しているのが見えた。まずい、と立ち上がるが、今の一撃ですっかり腰が引けてしまった。震える足を鼓舞して、何とか●●●●の背中に向かって一歩を踏み出す。
闘争か、逃走か。
戦わなければ、晴子さんが危ないのだ。
●●●●が、晴子さんに向かって出刃包丁を振りかぶった。そのタイミングに合わせて、姿勢を低くして背後から●●●●に思いっきりぶつかる。●●●●が、うめき声を上げて体勢を崩した。

越野がなかなかカッコいいですし、晴子は相変わらず颯爽としています。 

10か月ペース…第3弾は来春?

「ポルターガイストの囚人」では、晴子がなぜ「あしや超常現象調査」を始めたのか、その理由も明かされます。倉元や犬山、そして桐山楓が活躍する場面も織り込まれていて、シリーズものの体裁が整ってきた印象を受けます。 

「深淵のテレバス」は2024年8月刊、「ポルターガイストの囚人」は2025年6月刊。10か月ペースということは、第3弾は来年春あたりかな? 

などと、今から次回作に期待を膨らませています。 

(しみずのぼる) 

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きょう紹介するのは上條一輝氏のホラー・ミステリー小説「深淵のテレパス」(東京創元社刊)です。「ばしゃり」という水の音が徐々に近づいてくる怪異。その謎を解く主人公…
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