「少女まんが史上に燦然と輝く歴史的超名作」と聞いて誰の作品を思い浮かべますか? なんと大仰な…と思う出版社の売り文句ですが、作品名を聞いて「確かに!」と思う漫画を紹介します。萩尾望都氏の「ポーの一族」です(2025.10.2)
〈PR〉
永遠の時を生きるバンパネラ
若い人だと知らないかもしれないので、最初に「ポーの一族」のあらすじ(小学館文庫の第1巻)をそのまま紹介します。
時を超えて生きるバンパネラ一族の大ロマン
青い霧に閉ざされたバラ咲く村にバンパネラの一族が住んでいる。血とバラのエッセンス、そして愛する人間をひそかに仲間に加えながら、彼らは永遠の時を生きるのだ。その一族にエドガーとメリーベルという兄妹がいた。19世紀のある日、2人はアランという名の少年に出会う…。 時を超えて語り継がれるバンパネラたちの美しき伝説。少女まんが史上に燦然と輝く歴史的超名作。「ポーの一族」1巻(小学館文庫)
わたしに限らず「ポーの一族」に魅了された人は、世界に通用する吸血鬼の物語だと確信していることでしょう。
例えば、小学館文庫の第2巻にエッセイを寄せた宮部みゆきさんは次のように書いています。
永劫の時を放浪し続けるヴァンパイアという存在に真正面から光をあて、「死の存在しないところに本当の生はあるのか」というもの悲しい問いを発しながら織り上げられる『ポーの一族』の物語は、ヴァンパイア・ストーリーの本場であるはずの欧米の諸作品を遥かに飛び越して、もはや古典と言っていい高みにまで到達しています。
この通りだとわたしも思います。「ポーの一族」は「欧米の諸作品を遥かに飛び越して」いる作品です。
アン・ライスより先の作品
その傍証として引き合いによく出されるのが、トム・クルーズとブラッド・ピットが主役を演じたアメリカ映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)とその原作、アン・ライスの小説「夜明けのヴァンパイア」(原題:Interview with the Vampire)です。


吸血鬼小説のアンソロジー「吸血鬼伝説」(原書房、1997年刊)の監修者・仁賀克雄氏は、同書で次のように書いています。
(ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』以降)しばらく空白時代が続いたが、吸血鬼小説が画期的展開を遂げたのは、アメリカ作家アン・ライスの登場である。彼女の処女作『夜明けのヴァンパイア』(一九七六)はアメリカでベストセラーとなり、吸血鬼はそれまでの血を吸うだけの怪物から人間に生まれ変わったのである。もちろんその前駆となる作品はいくつかあったが、ライスの小説の影響力は大きかった。
吸血鬼はそれまでの血を吸うだけの怪物から人間に生まれ変わったーー。
しかし!と声を大にして言いたいのが、わたしを含めて「ポーの一族」に魅了された人たちです。
アン・ライスの原作が本国アメリカで出版されたのは1976年。ウィキペディアによれば執筆は1973年ということですが、萩尾望都氏が『別冊少女コミック』に「ポーの一族」を連載したのは、第1期が1972年から73年、第2期が75~76年ですから、仁賀氏の言う「それまでの血を吸うだけの怪物から人間に生まれ変」えたのは萩尾氏のほうが先でした。
宮部さんは先述のエッセイでこのことに触れています。
日本でも話題になったアン・ライスの『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という作品について見聞きしたとき、「なぁんだ、アメリカじゃ今ごろそんなものが書かれてるのか。日本には『ポーの一族』があるもんね」という感想を抱かれた方は、大勢いたのではありませんか?
まさしく! わたしも、

トム・クルーズ演じたレスタトはエドガー、ブラッド・ピット演じたルイはアラン。人間の頃の記憶に縛られるルイなんて、まさにアランじゃないの…
と思ったものでした…
前置きがだいぶ長くなりました。小学館の「少女まんが史上に燦然と輝く歴史的超名作」という表現が決して大げさではないと言いたいがための前置きと思ってご容赦ください。
アランと出逢うエドガー
1880年ごろ、とある海辺の街をポーツネル男爵一家が訪れた。ロンドンから来たという彼らのことはすぐに市内で評判になった。男爵夫妻とその子供たち、エドガーとメリーベル兄妹の4人は田舎町には似つかわしくない気品をただよわせていたのだ(フラワーコミックス版の1巻あらすじから)
「ポーの一族」1巻(フラワーコミックス版)
貧血で倒れたメリーベルを介抱する医者が男爵夫人に色目を使うのに腹を立てるエドガーに対し、夫人が「感じのいい先生だったわ」「お若いかたはハンサムで…」と言うとーー。
エドガー:お気にいり?じゃさっさとおそって血を吸ったら?
男爵:おそうとはなんだ われわれの一族に迎えいれるのだ!
エドガー:こういったらどう!われわれはバンパネラだ!
男爵:そんな人間どものスキャンダラスなことばはよせ!
エドガー:なにを気どっておいでになる おなじことじゃない 血を吸わなければ生きていけない怪物だ! 村をでて市にやってきたのは新しい血を いけにえを手にいれるため!!
男爵が「胸にクイをうちこまれたくなかったら つねに人間であるふりを忘れるな!」「よけいな手をだすんじゃないぞ!」と釘を刺す中で、エドガーは学校に通い始める。森の中で遭遇した美少年アラン・トワイライトに近づくためにーー。
どんなに孤独か知らない
男爵が「いそぎすぎるとたいていのことは失敗する われわれが生きていくためにはいっさいが静かであらねばー おまえにもそれはわかっているのだろうな!」と諫めるが、エドガーはアランへの接近をやめない。
ぼくがどんなに孤独かあなたがたにはわかるまい
時が通りすぎていく
十年たってもおなじ朝を迎え…
アランも貴族の嫡男ながら、財産目当ての叔父にいいように母親を支配され、家の中に居場所がない。
そんな孤独なエドガーとアランは、男爵夫人が若い医者からバンパネラと見破られ、男爵も最愛の妹メリーベルも命を落とし、ふたりで永遠の時を生きることを選ぶーー。
ひとりではさびしすぎる
メリーベルはもういないよ
知ってる? きみは人が生まれるまえにどこからくるか
アランが「知らない」と答えると…
ぼくも知らない だからメリーベルがどこへいったかわからない
ぼくはいくけど…
きみはどうする? …くるかい?
おいでよ
きみもおいでよ
ひとりではさびしすぎる……
こんなもの悲しい吸血鬼の物語が「ポーの一族」以前にあったでしょうか。宮部さんの言うとおり、「もはや古典と言っていい高みにまで到達して」います。
最終話の「エディス」
表題作「ポーの一族」を紹介しましたが、1972年から73年に雑誌連載された第1期は、「ポーの一族」を含めた長編3作、短編3作からなります。
そして第1期最後の長編「小鳥の巣」から1年半ぶりに雑誌連載が再開した第7作「エヴァンズの遺書」に始まり、76年6月に連載を終える「エディス」までの9作品が第2期となります(下記のあらすじはウィキペディアより)
1959年、3月もそろそろ終わろうとする頃、西ドイツのガブリエル・スイス・ギムナジウムにエドガー・ポーツネルとアラン・トワイライトがイギリスから転校してきた。2人が「バンパネラ」(吸血鬼)であることを知らず、教師や生徒たちは彼らを受け入れる(「小鳥の巣」)
1820年1月、エドガー・ポーツネルは妹のメリーベルと養父母のポーツネル男爵夫妻と合流すべく、嵐の中、馬車を走らせていたが、崖から馬車ごと転落してしまい、村人たちが救出したときには既に息絶えていた。遺体が領主ヘンリー・エヴァンズ伯爵の館に運ばれたところ、エドガーは蘇生したが、自分の名を「エドガー」と答えた他はほとんど口も利けず記憶もない状態であった。ヘンリーは、エドガーという名前から彼の祖父オズワルド・オー・エヴァンズの遺書を思い出し、弟のロジャーと友人のドクトル・ドドにその内容を紹介する。遺書には「エドガーおよびメリーベルと名のるものがエヴァンズ家の子孫のまえに現われた場合は、彼らの身分・国籍・年齢いっさいにかかわらず、エヴァンズ家の資産すべてを付与すべし」と記され、40年も前の1780年に書かれたもので既に効力はなかったが、ヘンリーは祖父の心に沿いエドガーに誠心誠意尽くそうとする。数日後、ヘンリーの亡き妻の甥と姪のアーネストとリンダが、友人としてメリーベル・ポーツネル男爵令嬢を連れて訪れる(「エヴァンズの遺書」)
1976年ロンドンで、エドガーとアランはエドガーにそっくりなエディス・エヴァンズに出会う。彼女は10年前にクエントン館で焼死したシャーロッテの妹であった。シャーロッテの死に負い目を感じるアランはエディスを気にかけ、やがて付き合い始める。彼女がアランから「花の中のランプトン」の絵をもらったことを知ったジョン・オービンは、そのうちエドガーが現れると確信して彼女を見張り始める(「エディス」)
…帰ろう…遠い過去へ
シリーズ15作目で最終話となる「エディス」のラストを紹介します(ウィキペディアより)
ガス爆発によりエディスの家に火災が発生する。1人家に取り残されたエディスを助けようとした際、アランが誤って炎の海と化した階下に落下して消滅し、エドガーはエディスを救出後、消息不明となる。
アランが階下に落下する大時計に足をとられるシーンは、泣けて泣けて仕方ありませんでした。 その場面を呆然と見つめるエドガーのモノローグが始まります。
…帰ろう
帰ろう
遠い過去へ…
もう明日へは行かない
昔の昔の幸せ
メリーベルや男爵夫人、アランの追想が織り交ぜられ…
帰ろう
帰ろう
時を飛んで
このラストから、誰もが「ポーの一族」はここで閉じられたのだと思ったことでしょう。
ところが!!!
「エディス」から40年たった2016年7月、ついに「ポーの一族」の続編がスタートしたのです!!!
(続編のことは次回改めて書きます)
(しみずのぼる)
〈PR〉
〈PR〉Amazon&楽天



