AI時代のブートレグに思う:マイルス・デイビス1981年来日CD

AI時代のブートレグに思う:マイルス・デイビス1981年来日CD

ここ数日、同じCDばかり聴いています。いわゆるブートレグ(海賊盤)なのですが、以前のものより格段に音がよくなっているので驚きです。販売サイトの文章を読むと、AIでヒスノイズを可能な限り取り除いたそうです(2024.2.20)

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マイルスの81年来日演奏

わたしがブートレグをいちばん持っているのはマイルス・デイビスで、冒頭に書いた「同じCDばかり聴いている」のも、マイルスが奇跡のカムバックで1981年に来日した際のものです。 

この時の来日公演は公式盤もありますが、わたしが今聴いているのは公式盤の前日、81年11月3日に新宿西口広場で行ったライブ演奏を収録したものです。 

以前に購入したブートレグ(アイキャッチ画像の左側)よりも格段に音がよくなっていて、素直に 

AIでヒスノイズを除去したのか。ブートレグはどんどんよくなっていくなあ

と嬉しく思いました。 

30年前の「マイルスを聴け!!」

そんなことを思い、以前の記事で紹介した故・中山康樹氏の「マイルスに聴け!!」の記念すべき初版本を引っ張り出してきました。

出版社は径書房で、奥付をみると、1992年5月1日第1刷発行とあります。 

もう30年以上前の本かあ 

と感慨深いものがありましたが、それ以上に驚いたのがブートレグの少なさです。 

ブートレグの少なさに驚く

わたしが好きなのはマイルスが”電化”した1969年以降ですが、収録されているブートレグを数えてみると、

  • 1969年 1枚 
  • 1971年 2枚 
  • 1982年 1枚 
  • 1983年 1枚 
  • 1988年 1枚 

しかありません。 

「マイルスに聴け!」の第8版(双葉文庫、2008年発行)をみると、1969年は280ページから始まり、亡くなる直前の1991年8月25日のページまで811ページあります。 

1枚のアルバムを2ページで紹介(たまに4ページ)するので、半分にしても400枚前後のアルバムが収録されています。公式盤を差し引いたとしても、400枚近いブートレグが収録されているわけですから、この30年で飛躍的に増えたことがわかります。 

1992年発行の初版当時は1枚もなかった1973年や1981年の来日時のライブは、いまやブートレグのおかげで各公演を聴くことができます。1975年の来日も、公式盤(「アガルタ」「パンゲア」)以外の公演を聴くことができます。1983年、85年、87年、88年、90年の来日公演も同様です。 

その場にいたかった。でも当時は仕事が忙しくて、とてもいけなかった… 

そんなマイルスの来日公演がブートレグで聴けるのは、素直に嬉しいことなのです。 

音質も劣悪モコモコ

しかも、初版本に収録されたブートレグには、音質がかなり劣るものも含まれています。例えば、「Miles Davis in Sweden 1971」というブートレグの記述を見てみましょう。 

最初に言っておくが、音は悪いわ、バランスは良くないわで、あくまでもコレクター用である。それに、LPしか出ていない。ま、考えてみれば、CDに出世できるような音質ではないわな。 

「マイルスを聴け!」の第5版(双葉文庫、2001年発行)もこういう記述です。

アナログです。LPレコードです。ジャケットはまあいいけど、音のバランス、悪いです。ボリューム上げても、もともとレベルが低いので、よく聞こえません。曲目クレジットも、でたらめです。 

こういう記述をみると、昔の海賊版を思い出します。ほんとうに音がモコモコでした(以前にすこしだけ記事で紹介したキング・クリムゾン「ケイデンス・アンド・キャスケイド」という海賊盤もひどかったです) 

話をマイルスの「Miles Davis in Sweden 1971」に戻すと、次の第6版(双葉文庫、2004年発行)から内容がガラリと変わります。 

このレコードだけはNASAの最新技術をもってしても不可能といわれていた。 

ところがあなた、そのNASAでさえもてあましていた音源についに着手、しかも高音質化に挑戦して見事成功を収めたブートレガーがいたのだ。うーん、これをエライといわずしてなにをエライといおう。 

(略) 

これだけ音質に差があると、とても同じものとは思えない。ここまでのレベルになると、もはや完全な別音源といったほうがいい。 

デジタル化で加速度的に向上

こうやって振り返ると、2000年代に入ってから、デジタル技術のおかげでブートレグの音質向上が図られるようになり、その流れが加速度的に増しているのだと言えましょう。 

そして、わたしが今聴いている1981年来日時のブートレグのように、AI技術でさらに音質に磨きがかかってくるとなると、近い将来、公式盤並みの音質のブートレグが登場するかもしれません。 

以前にビートルズの赤盤・青盤のことを紹介した際、ライナー・ノーツにある「デミックス・リミックス」という単語を紹介しました。いま一度引用しましょう。 

ここに収められた曲にはすべて、ザ・ビートルズのプロデューサーの息子、そして現在では彼らの音楽の多くに関わるジャイルズ・マーティンの手で”デミックス・リミックス”が施されている。新たな機械学習テクノロジーのおかげで、4トラック機材のテープに収められたーーそれゆえ、分離することのできなかったーー個々の要素が解きほぐされ、ジャイルズはオリジナルのレコーディングをよりクリアな音で、よりパワフルに再現することが可能になった。  

わたしは、ジョン・レノンのデモ音源をAI技術を駆使してビートルズの新曲として売り出すことには、あまり心惹かれません。ビートルズはあくまで「アビー・ロード」と「レット・イット・ビー」で閉じられた存在だと思っているからでしょう。 

でも、新しい技術で音が生まれ変わるのは素直に歓迎します。ましてや、音がモコモコで聞き取るのも大変だったブートレグが聞きやすくなるのは大歓迎です。 

AI時代に入って、ディープフェイクなど負の側面も目立ち始めてはいますが、期待するところも少なくありません。ブートレグの音質向上から、そんな感想を抱くこの頃です。 

(しみずのぼる) 

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