3人の名監督がホラーを競ったオムニバス映画「世にも怪奇な物語」(1967年)が4Kリマスターされたそうです。いまもカルト的な熱い人気を誇る証拠ですが、その中の「悪魔の首飾り」は、わたしにとって忘れがたいトラウマ級の映画体験でした(2024.3.16)
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4Kリマスター版が発売
「世にも怪奇な物語」(フランス語原題: Histoires extraordinaires)は、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、そしてフェデリコ・フェリーニというフランス、イタリアの巨匠たちが監督を務めたホラー・オムニバス映画です。出演する俳優陣も、アラン・ドロン、ブリジッド・バルドー、ジェーン・フォンダら当時人気の絶頂だった俳優が起用されています。
といっても、半世紀以上前の映画ですから、どうして日本でだけ4Kリマスターされてお皿が発売されるのか不思議です(本国フランスでも2019年にブルーレイは発売されてはいましたがHDリマスターどまりです)
この映画を偏愛する人が、日本には一定数いるということなのでしょう。

孤高の文豪エドガー・アラン・ポーの怪奇幻想小説をフランス、イタリアを代表する3人の名匠、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニがそれぞれユニークな個性とスタイルを存分に発揮し、贅沢に映像化した傑作オムニバスホラー。第1話「黒馬の哭く館」は、ヴァディム監督が当時の妻だったジェーン・フォンダをヒロインに起用し、実弟ピーター・フォンダとの共演も話題となった。ルイ・マル監督作、第2話「影を殺した男」では瓜二つの男の存在に悩まされる士官をアラン・ドロンが一人二役で演じ、その神経質な演技で観る者をざわつかせる。共演はブリジット・バルドー。最終話、第3話「悪魔の首飾り」はフェデリコ・フェリーニ監督が落ち目になり酒に溺れる英国人俳優が異国の地で少女の幻影と対峙する姿を鋭いタッチで描き、圧巻の世界観に引き込まれる。

「悪魔の首飾り」が最怖
でも、正直に言えば、1話目のロジェ・ヴァディムの「黒馬の哭く館」はつまらないですし、2話目のルイ・マルの「影を殺した男」も怖くないですし、ホラーという印象はありません。
ですから、日本でこんなに「世にも怪奇な物語」が偏愛されているのは、ひとえに3話目、フェデリコ・フェリーニ監督の「悪魔の首飾り」に理由があるのだと確信します。
ここで個人的な話をはさませてください。わたしは中学生の時、テレビで「世にも怪奇な物語」を観ました。 ウィキペディアによると、1972年に「月曜ロードショー」で放映されたとあるので、時期的にもこれを観たに違いありません。
夜9時から始まり、「黒馬の哭く館」がつまらなく、父も母も寝室に引き上げてしまい、居間のテレビでひとりで観続けました。2話の「影を殺した男」は、それなりに面白かったですが、怖いとは思いませんでした。そして3話目が始まり、空港に主人公が降り立ち、ひとりエスカレーターで上がると、やおら主人公がパントマイムを始める。
白い少女の笑みに絶叫
変な映画…と思って見続けていると、先ほどのパントマイムはほかの人たちに見えない何かが主人公にだけ見えていたということで、それまでの軽快な音楽からかわって無気味なピアノの音に変わりました。
そして、エスカレーターをスローモーションで白い毬がはねあがってきて、その白い毬を追うように白いワンピースの少女が画面にあらわれ、毬を拾ってニコッと笑ったとたん、「ギャーッ」
叫んだのは自分自身でした。あまりの怖さに叫び声をあげ、テレビのスイッチを慌てて切るや、布団に潜り込んでブルブル震えてました。白い少女の笑みはトラウマ級の恐怖でした。
怖くて映画を観るのを途中で放棄したのは、後にも先にも「世にも怪奇な物語」だけです。
中学生にもなっていたのにお恥ずかしい。「エクソシスト」の原作は怖くても読み終えることができたのに、ほんとうに赤面ものです。でも、それほど白い少女の笑みは怖かった……。
数年後、今度は深夜帯に「世にも怪奇な物語」が放映されました。深夜ですから最初からひとりでテレビの前に張り付いて、このときは最後まで観終えました。
白い少女の笑みも目をつむらずに観続けることができましたし、「自分もすこし成長したんだ」と胸をなでおろしましたが、それでも、あの笑みの気味悪さは何とも形容しがたいものがありました。
ブルーレイ(HDリマスター版)の画像の右上をごらんください。

白い毬を手にもつ少女が写っていますが、こんなかわいい顔ではありません。あの笑顔をお皿のパッケージにするわけにいかず、(映画本編ではまったく出てこない)愛らしい表情のカットを使用したのでしょう。
悪魔に首を賭けるな
だいぶ本筋と離れてしまいました。「悪魔の首飾り」(原題:Toby Dammit)のあらすじを紹介します。

第3話「悪魔の首飾り」(監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ/出演:テレンス・スタンプ、サルヴォ・ランドーネ)
俳優のダミット(テレンス・スタンプ)は、かつて華やかな世界で名声と賞賛をほしいままにしてきた。しかし、アルコール中毒によって落ち目の時期だった。そんな彼にイタリアから新車のフェラーリを報酬に映画出演の話が来るが、悪魔の化身というべき少女の幻影に取りつかれてしまう
エドガー・アラン・ポーの「悪魔に首を賭けるな」という短編をモチーフにしているので「悪魔の首飾り」という、意味不明なタイトルです(英語版のタイトルは「Never Bet Your Head」なので、原作のタイトルに忠実です)が、とにかくこの映画は少女の笑み、それだけで語られ続けている映画です(「世にも怪奇な物語」や「悪魔の首飾り」で検索してみればわかります)
テレンス・スタンプ演じる主人公のトビー・ダミットは、劇中のインタビューで「神は信じないが、悪魔は信じる」と答えます。
ーー悪魔を見たことがありますか
ええ、見た
ーーどんな姿ですか。ヤギとかコウモリ、黒猫?
違う。私はイギリス人でカトリックじゃない。
私にとって悪魔は、かわいくて、陽気だ。少女のように
この1作だけで記憶に残る
白い少女を演じたのは、マリーナ・ヤール(Marina Yaru)という方です。映画データベースをみても「世にも怪奇な物語」以外に出演した記録はありません。ただひたすら、この笑みだけで多くの人たちに記憶され続けるのでしょう。
音楽を担当したのはニノ・ロータ。なんと「悪魔の首飾り」はオリジナル・サウンド・トラック盤が出ていました。

あ~、何ともネタバレのようなジャケットですが、タイトルも「悪魔の首飾り」ですし、原作も「悪魔に首を賭けるな」だから、まあよいのでしょう。
サントラがあるということは、スポティファイもあるのかな?と探したら、なんとありました!
白い少女の登場シーンで流れる(ピアノがとても印象的な)曲をつけておきます。
映像もユーチューブで見ることができますが、これは権利処理がされてなさそうなので、ここで掲載はみあわせます(でもユーチューブで「世にも怪奇な物語」や「悪魔の首飾り」で検索すれば必ずヒットします)
気になる方はぜひ探してみてください。
(しみずのぼる)