トランプ政権vsアンソロピックで注目のAI軍事利用|小説『暗殺者の矜持』が描く恐怖の現実

トランプ政権vsアンソロピックで注目のAI軍事利用|小説『暗殺者の矜持』が描く恐怖の現実

2026年3月、トランプ政権とAI開発企業アンソロピック社の対立が激化し、AIの軍事利用をめぐるニュースが世界を揺らしています。「自律型致死兵器」(LAWS)の是非が問われる今、その恐るべき未来を予見していたかのような小説を“改めて”紹介します。マーク・グリーニーの〈グレイマン〉シリーズ第13作『暗殺者の矜持』。現実のニュースの裏側にある「技術と倫理の暴走」を、本書はホラーよりも恐ろしく描き出しています(※本記事は2026年3月1日時点のニュースに基づいたレビューです)(2026.3.1)

〈PR〉

最新コミックも600円分無料で読める<U-NEXT>

AIの軍事利用を題材にした〈グレイマン〉シリーズ13作目

『暗殺者の矜持』は、わたしが何度も紹介してきた〈グレイマン〉シリーズの一冊です。 

〈グレイマン〉シリーズは、「人目につかない男」という異名で知られる米CIAの元工作員コート・ジェントリーを主人公とする国際サスペンス小説の一大シリーズものです。

最初のうちはコートに殺害指令を出したCIAとの戦いが描かれていましたが、その後、シリーズ6冊目『暗殺者の飛躍』(上下巻、ハヤカワ文庫 原題:Gunmetal Gray=2017年)から元ロシアSVR(対外情報庁)工作員のゾーヤが登場し、コートとゾーヤが世界各地で起こる戦争や謀略、テロと対峙する展開となります。 

📖〈グレイマン〉シリーズの過去記事はこちら

新刊が待ち遠しいマーク・グリーニー〈グレイマン〉シリーズ 
新刊が発売されるのを心待ちにしているーー。そんな経験は読書好きの方なら誰しもお持ちでしょう。きょう紹介するのは、わたしが新刊の発売を待ち遠しく思っているシリーズ…
hintnomori.com
グレイマン最新刊!待ちに待ったゾーヤの登場です
マーク・グリーニーの〈グレイマン〉シリーズの第12作目「暗殺者の屈辱」(原題:Burner)が23年12月25日に発売されました。ウクライナ戦争を背景にした骨太…
hintnomori.com

第1作『暗殺者グレイマン』(原題:The Grey Man)が出版されたのは2009年。最新作は昨年12月に発売された14作目の『暗殺者の奪還』(上下巻、ハヤカワ文庫 原題:Midnight Black)です。

『暗殺者グレイマン』から第4作『暗殺者の復讐』(原題:Dead Eye=2013年)までは1作品1冊でしたが、第5作『暗殺者の反撃』(原題:Back Blast =2016年)からは上下2冊のパターンで、これまでのところ冊数で数えて24冊(!) にもなります。

〈グレイマン〉シリーズは、わたしのKindleで一画面に収まらないほどの冊数です

しかも、これは早川書房さんの痛恨のミスだと思いますが、タイトルがすべて『暗殺者の~』で始まるため、どれが次の巻なのかが全然わかりません! 

きょう改めて紹介する『暗殺者の矜持』(原題:The Chaos Agent)はシリーズ13作目で、邦訳版は2024年12月に早川書房から発売されました。もちろん上下巻2冊です。 

トランプ政権とアンソロピック|AI軍事利用めぐる対立の理由

「改めて紹介」と書いているとおり、本書はすでに紹介しています。その際の記事のタイトルは 

AIの軍事利用の行き着く先は…ホラーよりも怖い〈グレイマン〉最新作 

というもの。同じ本を紹介するなんて!と思うかもしれませんが、このテーマはまさに今!とてもホットな話題なのです。 

今朝(3月1日)の日本経済新聞の記事「トランプ氏、アンソロピックのAI「連邦政府全体で使用停止」」から引用します。 

【シリコンバレー=山田遼太郎、ワシントン=飛田臨太郎】トランプ米大統領は27日、米人工知能(AI)開発企業アンソロピックの技術の使用を取りやめるよう全ての連邦政府機関に指示した。アンソロピックはAIの軍事利用を巡り、米国防総省と対立が深まっていた。 

日本経済新聞 – トランプ氏、アンソロピックのAI「連邦政府全体で使用停止」 

最近「SaaSの死」()で話題となったClaude(クロード)の開発企業アンソロピック(Anthropic)社は、 

  1. 敵を攻撃する自律兵器 
  2. 米国民の監視 

の2つの目的には自社のAIを使わせないーーという独自の倫理基準を設けています。 

これが国防総省との対立を生み、今回のトランプ政権との対決となったのでした。2日前(2月27日)の日経記事ーー「アンソロピック、米国防総省の要求を拒否 AI軍事利用巡り」から引用します。 

【シリコンバレー=山田遼太郎】人工知能(AI)開発の米有力企業アンソロピックは26日、AIの軍事利用をめぐり、米軍のあらゆる合法活動に同社のAI「クロード」の使用を認めるように迫った米国防総省の要求を拒否すると発表した。 

ダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は声明文で「良心に従い、要求を受け入れることはできない」と述べた。①敵を攻撃する自律兵器②米国民の監視――の2つの目的にAIを使わないとする自社の原則を維持したうえで、国防総省への協力を続けることを望むと説明した。 

 
日本経済新聞 – アンソロピック、米国防総省の要求を拒否 AI軍事利用巡り 

この「敵を攻撃する自律兵器」を扱った小説が、グリーニーの〈グレイマン〉シリーズの第13作目『暗殺者の矜持』なのです! わたしが「改めて紹介」したくなる理由、わかっていただけますよね? 

SaaSの死:生成AIの急速な進化により、人間がソフトウェア・ツール(SaaS=Software as a Service 発音は「サース」)を操作して業務をこなす従来のビジネスモデルを凌駕し、生成AIが業務そのものを代替する時代にシフトすることを表した表現。アンソロピック社が2026年1月にAIエージェント「Claude Cowork」をリリースしたのを契機に、マイクロソフト、オラクルなどSaaS関連企業の株価が急落するなどしている。

「核兵器もしのぐ革命」とは?国防総省が警戒する超絶知能AGSIの脅威

紹介のエッセンスは以前の記事から再掲します。国防総省で「自律型致死兵器システム」(LAWS)の開発に携わっていた人間が暗殺され、調査に乗り出したCIAの担当者が「自律型致死兵器システム」の説明をするくだりです。 

「被害者とその専門から判断して、人工知能を使う兵器化された運搬体(プラットフォーム)のたぐいでしょう。LAWS(自律型致死兵器システム)です」 

質問が出る前に、ペイスはいった。「LAWS、つまり自律型致死兵器システムとは、人間の干渉を受けずに、ターゲットを捜し、交戦するかどうかを決定して、交戦する兵器のことです」 

暗殺された国防総省の役人が、中国による開発を強く警戒していたのが「人工汎用超絶知能」(AGSI)です。 

「リックは、中国が西側から奪ったあらゆることについて心配していた。中国の取得に一定のパターンがあるのに気づいていた。そのパターンとは、機械が自習してみずからコードを書き、超絶知能と論理的思考レベルに達するのに、既存のテクノロジーを利用するというものだった。AGSIがやがて登場するし、わたしたちはそれに対する準備ができていないと、リックは確信していた」 

次のような国防総省の人間の言葉も先の記事で紹介しました。 

「人工知能は、つぎの軍事テクノロジーの革命になる。銃器、機関銃、飛行機の発明よりも大きく……核兵器の発明よりも大きい」 

いかがですか? 核兵器の発明をもしのぐ、AIがもたらす軍事革命ーーその驚くべき世界が描かれているのが『暗殺者の矜持』なのです! 

世界中のAI研究者が次々に暗殺!日本人博士も標的となる『暗殺者の矜持』の緊迫感

前の記事を改めて引用するだけでは、あまりに芸がありませんね。 

ですから(28日にアメリカとともにイランを軍事攻撃した)イスラエルのAI軍事利用の開発担当者ーー軍用ロボット工学のソフトウェア開発を専門とし、「武装ドローンから自律セントリーガン(感知装置が発見したターゲットに向けて自動的に射撃を行う兵器)に至るまで、あらゆる種類の軍の装備に用いられるAI関連のプログラム」の開発にあたっているーーが出てくる場面を紹介しましょう。 

「リチャード・ワットが、けさアメリカで死んだ。殺された」
バッシュは、ワイングラスをキッチンのアイランドに置いた。「リックが? なんということだ。だれに殺されたんだ?」
「不明だ。ゴルフコースでスナイパーに殺られた。犯人は逃げた」
トメール・バッシュは首をかしげた。ワットのことは知っているが、親しかったわけではないので、自分にどう関係があるのか、わからなかった。「それで、きみは……なにを考えているんだ?」
「コトネ・イシカワ博士が、六時間前に大阪で殺された。母親がいる介護施設を出たあと、駐車場で車に轢かれた。目撃者は事故ではなかったといっている」
「恐ろしいことだな」
「イーサン・エドガーの車が、けさシドニーで道路から飛び出し、モントリー・チュラトがバンコクの自宅で撃ち殺された。この十二時間に四人が死んだことになる」
バッシュは事情を悟った。コトネ・イシカワは、トメール・バッシュとおなじように、兵器化されたAIの専門家の世界トップ二十数人のひとりだった。

「わたしの身も危険かもしれないというんだな?」

「トメール、何者がやっているのか、突き止める必要はない。わかっているからだ。明らかに中国だ。中国はAI兵器競争に勝つための活動を強化してきた。これはその第二段階かもしれない。競争相手を殺すのが」

このイスラエルのAI兵器ソフトウェアの開発者も、数ページ後に爆殺されます。

謎の存在[サイラス]の正体は?中国の陰謀か、それとも…

殺害を命じた側の様子を引用します。 

シンガポールの作戦センター・ガマでは、ハイファの道路の上空を飛んでいた偵察ドローンが送ってくる動画を、壁の大型モニターでずっと見ていた。
サブディレクターのアメリカ人の女が、周囲に聞こえるような大声でいった。「確実に殺害」

ディレクターは、大講堂の奥にあるガラスのパーティションに囲まれた自分のワークステーションへ行って、[サイラス]というタイトルのチャットウィンドウをあけた。
キーボードを打ち込みはじめた。[こちらガマ・リーダー。ターゲット・ガマ5の抹殺を確認した]
一秒とたたないうちに応答のウィンドウがひらき、その数秒後に応答が表示された。[メッセージをサイラスは応答した。素晴らしい報せだ。残りのターゲット十三件を遂行するのに、四十五時間ある]
ノルウェー人は笑みを浮かべて打ち込んだ。[命令を完遂する。ご心配なく]
[心配していない。きょうはいい仕事だった。サイラス、通信終わり]

国防総省の人間を暗殺しただけでなく、日本人やイスラエル人を含めて軍事AI研究に携わる人間を次々に殺害していく。そして、シンガポールのセンターで暗殺の指揮を執るノルウェー人のディレクターに対して「残りのターゲット十三件」の殺害遂行を指示する[サイラス]とは? ほんとうにCIAやイスラエルが疑う中国の仕業なのか? 

そのあたりは『暗殺者の矜持』をお読みいただくとして、アンソロピック社とトランプ政権の激しい対立の背景にあるものの一端をうかがい知ることができる小説であるのは間違いないでしょう。 

「ホラーよりも怖い」現実の足音|アンソロピック騒動の背景を知るための一冊

ほんとうなら〈グレイマン〉シリーズの1作目から読むのがいいに決まっているのですが、時間があまりに惜しい!ぜひ『暗殺者の矜持』をお読みください。 

わたしが前の記事で「ホラーよりも怖い」と書いた、[サイラス]の正体を含めた真相に震え慄くこと間違いなしです。 

その最初の手掛かりとして、わたしの前の記事もぜひお読みください。 

📖あわせて読みたい:AI兵器の衝撃的な正体をネタバレなしで解説

AIの軍事利用の行き着く先は…ホラーよりも怖い〈グレイマン〉最新作
きょう紹介するのはマーク・グリーニーの〈グレイマン〉シリーズ最新作「暗殺者の矜持」(原題:The Chaos Agent)です。人工知能(AI)の軍事利用の行き…
hintnomori.com

(しみずのぼる)

〈PR〉

楽天ブックスは品揃え200万点以上!

〈PR〉Amazon&楽天