阿部智里〈八咫烏〉シリーズは何から読むか

阿部智里〈八咫烏〉シリーズは何から読むか

阿部智里氏の傑作和製ファンタジー〈八咫烏〉(やたがらす)シリーズをNHKがアニメ化するそうです。タイトルは「烏(からす)は主(あるじ)を選ばない」。このニュースをみて「なるほどそうきたか」と驚きをもって受け止め、「でも、それが正しいかも…」と納得した八咫烏ファンは少なくないでしょう(2023.10.25)  

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アニメは24年4月スタート

NHKのプレスリリースから紹介しましょう。 

原作は、阿部智里による人気ファンタジー小説「八咫烏(やたがらす)シリーズ」。 

人の姿をした八咫烏の一族が支配する異世界・山内(やまうち)を舞台にした和風大河ファンタジー。 

美しくも風変わりな若宮の側仕えに抜擢された少年・雪哉(ゆきや)。 

陰謀渦巻く宮中でさまざまな事件に遭遇するなかで、若宮と奇妙な主従関係を結んでいきます。 

物語の主人公となる八咫烏の少年・雪哉を描いたティザービジュアルが到着。 

放送は2024年4月から。どうぞお楽しみに! 

なぜ「なるほどそうきたか」と思ったかと言うと、アニメ化される「烏は主を選ばない」は、八咫烏シリーズの第2巻目にあたるからです。 

八咫烏が支配する世界山内では次の統治者金烏となる日嗣の御子の座をめぐり、東西南北の四家の大貴族と后候補の姫たちをも巻き込んだ権力争いが繰り広げられていた。賢い兄宮を差し置いて世継ぎの座に就いたうつけの若宮に、強引に朝廷に引っ張り込まれたぼんくら少年雪哉は陰謀、暗殺者のうごめく朝廷を果たして生き延びられるのか……?(『烏は主を選ばない』文春文庫)

これまでに11冊刊行

未読の方なら、なぜ1巻からでないの?と思うでしょう。 

でも、八咫烏ファンからすると、「まあ、そうだよね」「それが正しいよね」という感想を抱く人がきっと多いはず。というのも、八咫烏シリーズの第1部は、雪哉が事実上の主人公と言ってよい存在だからなのです。 

八咫烏シリーズは、これまでのところ下記の11冊が刊行されています。 

  • 第1部 
  • 第1巻『烏に単(ひとえ)は似合わない』(2012年6月 文藝春秋 / 2014年6月 文春文庫) 
  • 第2巻『烏は主を選ばない』(2013年7月 文藝春秋 / 2015年6月 文春文庫) 
  • 第3巻『黄金(きん)の烏』(2014年7月 文藝春秋 / 2016年7月 文春文庫) 
  • 第4巻『空棺の烏』(2015年7月 文藝春秋 / 2017年6月 文春文庫) 
  • 第5巻『玉依姫』(2016年7月 文藝春秋 / 2018年5月 文春文庫) 
  • 第6巻『弥栄の烏』(2017年7月 文藝春秋 / 2019年5月 文春文庫) 
  • 外伝『烏百花 蛍の章』(2018年5月 文藝春秋 / 2020年9月 文春文庫) 
  • 第2部 
  • 第1巻『楽園の烏』(2020年9月 文藝春秋 / 2022年10月 文春文庫) 
  • 外伝『烏百花 白百合の章』(2021年4月 文藝春秋) 
  • 第2巻『追憶の烏』(2021年8月 文藝春秋) 
  • 第3巻『烏の緑羽』(2022年10月 文藝春秋) 

雪哉は、1巻目の「烏に単は似合わない」にも少しだけ登場しますが、脇役も脇役。2巻を読んで「ああ、あれが雪哉だったのか」と思い出すような出番しかありません。 

第1部の主人公は雪哉

ところが、「烏は主を選ばない」以降は、物語が大きく動き出す「黄金の烏」と「空棺の烏」、そして第1部の最終巻である「弥栄の烏」まで、一貫して雪哉が主人公であり、とにかくかっこいい存在なのです。第1部まで読めば、八咫烏シリーズの登場人物でファン投票をすればぶっちぎりトップは雪哉でしょう。 

NHKは、今回のアニメを「烏は主を選ばない」だけでなく、雪哉を主人公に据えて「黄金の烏」以降も続けてアニメ化するつもりではないでしょうか。 

というのも、「烏は主を選ばない」すらも、登場人物の人間関係を明らかにするには必要ですが、この物語が動き出すのは「黄金の烏」だからです。 

物語は世継ぎの若宮と、郷長のぼんくら(とされる)次男坊が、危険な薬〈仙人蓋〉の探索にでかけるところからはじまる。不穏な気配を漂わせた旅先で、何と彼らが出会ったのは、人を喰らう大猿だった! 壊滅した村の中でたったひとり残されたのは、謎の少女・小梅。――いったい僕らの故郷で、なにが起こっているのだろう?
山内の危機に際し、若き主従は自らの危険を顧みず、事件のヒントを持つと思われる暗黒街の支配者のもとに出向く。そこで雪哉に課されたのは、未知の隧道の先にある物を持ち運ぶことだった。深い暗闇の底での冒険の末、雪哉が見たものとは?(『黄金の烏』文春文庫)

「単は似合わない」も必読

ところが、第1巻の「烏に単は似合わない」は、読まなくていいわけでは決してありません。遅くとも、第2部の2巻目にあたる「追憶の烏」を読む前までには、かならず読んでおく必要があります。 

人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」では、世継ぎである若宮の后選びが今まさに始まろうとしていた。朝廷での権力争いに激しくしのぎを削る四家の大貴族から差し遣わされた四人の姫君。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれの魅力を誇る四人は、世継ぎの座を巡る陰謀から若君への恋心まで様々な思惑を胸に后の座を競い合うが、肝心の若宮が一向に現れないまま、次々と事件が起こる。侍女の失踪、謎の手紙、後宮への侵入者……。峻嶮な岩山に贅を尽くして建てられた館、馬ならぬ大烏に曳かれて車は空を飛び、四季折々の花鳥風月よりなお美しい衣裳をまとう。そんな美しく華やかな宮廷生活の水面下で若宮の来訪を妨害し、后選びの行方を不穏なものにしようと企んでいるのは果たして四人の姫君のうち誰なのか? 若宮に選ばれるのはいったい誰なのか? あふれだすイマジネーションと意外な結末(『烏に単は似合わない』文春文庫)

わたしは幸いなことに「烏に単は似合わない」が2012年に出版された直後に読み、シリーズが出るたびに読みましたので深く悩まなくて済みました。

けれども、例えば友人から「八咫烏シリーズって、そんなにおもしろいの? 試しに読んでみようかなあ」と相談されたら、わたしも「うーん、じゃあ『烏は主を選ばない』を最初に読むといいかも」と答えてしまうでしょう(「烏は主を選ばない」以降は順番通りに読むことを強く勧めます) 

もし「烏に単は似合わない」を読んで「それほどおもしろくなかった」と思われてしまったら、すごくもったいない!と思うからです。 

「十二国記」も同じ悩み

似たような逡巡は、小野不由美さんの「十二国記」シリーズにもあてはまります。「魔性の子」から勧めるか、陽子の物語(「月の影 影の海」)から勧めるか……。 

どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が……。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章(『魔性の子』新潮文庫)

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作(『月の影 影の海』新潮文庫)

「十二国記」シリーズで「魔性の子」はエピソード0という位置づけで、エピソード1は「月の影 影の海」です。

しかし、八咫烏シリーズの場合、「烏に単は似合わない」がエピソード0という位置づけでもない(第2部の物語の展開に大きく関係している)ため、相当悩みます。 

傑作にうれしい脚光

NHKアニメ化のニュースを見て取りとめもなく書いてしまいましたが、今回のアニメ化を機に、ますます八咫烏シリーズは注目を集めるでしょう。 

わたしは新刊が出るたびに遡って前の方の巻を読み直してから満を持して新刊を読むスタイルで、第1部が完結するまでは「黄金の烏」あるいは「玉依姫」から何度も再読しました。第2部が始まってからは、必ず「楽園の烏」から読み直しています。

高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か? ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる(『玉依姫』文春文庫)

新宿の片隅でたばこ屋を営む青年・安原はじめ。7年前に失踪した父から「山」を相続した途端、「山を売ってほしい」という依頼が次々と舞い込み始める。そこへ現れたのは、“幽霊”を名乗る美しい女。山の秘密を知るという美女に導かれ、はじめはその山の“中”へと案内される。
その場所こそは、山内と呼ばれる異界。人の形に変じることのできる八咫烏の一族が統治する世界だった――(『楽園の烏』文春文庫)

八咫烏シリーズは物語世界に深く没入できる傑作です。 アニメ化を機に八咫烏ファンが増えることを願っています。 

【追記】〈八咫烏〉シリーズの最新刊「望月の烏」が発売され、「再び〈八咫烏〉シリーズは何から読むか」を書きました。併せてお読みください(2024.3.16 )

(しみずのぼる) 

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