4度も映画化された侵略ものSFの古典的名作「盗まれた街」

4度も映画化された侵略ものSFの古典的名作「盗まれた街」

きょう紹介するのは侵略ものSFの古典的名作、ジャック・フィニイの「盗まれた街」(原題:The Body Snatchers)です。H・G・ウェルズの「宇宙戦争」(1897年)以来、侵略ものSFは数多くありますが、身近な人が偽者では…という不安が徐々に広がる本書の駆り立てる恐怖は相当なもの。だから4度も映画化されているのでしょう(2024.6.28) 

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ジャック・フィニイの異色作

ジャック・フィニイというと、過去への偏愛をテーマにしたファンタジー系の小説が有名です(号泣必至の短編「愛の手紙」は以前に記事にしました) 

ところが、1955年に出版された「盗まれた街」は、フィニイの他の小説と趣がまったく異なり、恐怖とサスペンスに満ち溢れています。 

アメリカ西海岸沿いの小都市サンタ・マイラで、奇妙な現象が蔓延しつつあった。夫が妻を妻でないといい、子が親を、友人が友人を偽物だと思いはじめる。はじめ心理学者は、時おり発生するマス・ヒステリー現象と考えていた。だがある日、開業医のマイルズは友人の家で奇怪な物体を見せられた。それは人間そっくりに変貌しつつある謎の生命体――宇宙からの侵略者の姿だったのだ! 奇才フィニイが放つ侵略テーマSFの名作 

は伯父じゃない

主人公は医師のマイク。ある日、高校で同級生だったベッキィが訪ねてきた。用件は従妹のウィルマのことだった。 

「あんなのをーー妄想ーーっていうのかしら」 

「ウィルマは、いま家にいる伯父はたしかに、アイラ伯父にそっくりに見えるっていうのよ。話しかただって、仕種だってーーなにもかも、アイラ伯父のとおりだって。それでも、たしかに伯父じゃない、それは、間違いない、って、それ一点張りなのよ」 

ベッキィは医者の目でアイラ伯父をみて、ウィルマと話してほしいと頼んだ。ベッキィの頼みをきいてふたりでウィルマの家を訪ねた。マイクの目からみて、アイラ伯父にしか見えなかったが、ウィルマはこう語った。 

「あたしにとっては本当の父親だったわ。だから、あたしの子供の時のことを話すときには、いつも必ず、伯父の目のなかに、一種特別な光が宿ったのよ。あの頃が伯父にとっても、とても素晴らしい時代だったということを思いだすからなのね」
「その目の光がーー目の奥に必ずあったその光がーーなくなったのよ」
「あそこにいるあのアイラ伯父……いえ、誰だろうとかまわないけどーーあの男は、暗記して喋っているのよ。そんな感じがするのよ」

翌日以降、似たような訴えがマイクのもとに寄せられた。「どうしても夫と思えなくなった」「あれはぜんぜんぼくの母さんじゃない」……。 

地下室で見たものは

こんな集団ヒステリー現象もあるのか…と友人の精神病理学医に相談したりもしたが、ある時、作家のジャックが「どうしても今夜、きみに来てもらいたい」と声をかけた。理由を聞いても、なんの先入観も持たせたくないから…としか答えない。 

案内されたのは、ジャックの家の地下室だった。あおむけに横たわっていたのは一人の男の全裸の死体だった。 

「よく見てくれ。もっとよく。何か変わったことに気がつかないか?」「そいつをよおく見てみてくれ」 

マイクはジャックに促されて仔細に見直した。 

「この顔は……」いいさして私は言葉につまった。なんと表現してよいか、言葉がないのだ。「成人の顔じゃないーー正確にいうと、未熟なのだ。骨格は見事に発達して大人の顔の形はしている。しかしその表情だ。表情が……」私は、またいい止めて言葉を探したが、適当な言葉を見つけられないままに、いい足した。「あいまいだ。つまりこれは……」

マイクは死体を見ているうちに気づいた。背格好がジャックと同じであることを……。 

「あれはただの死体じゃない。生きたことのない、無地の死体だ。まだ未完成で、しかも、刻々と、最後の仕上げを待っているんだ……」 

マイクはジャックとその妻シオドラに”実験”を頼んだ。ジャックが眠りについたら、シオドラが死体に変化が生じるかどうか観察するという”実験”だった。いったん家に帰ったマイクは、ジャックたちと別れてから数時間後、ジャックとシオドラが半狂乱になってマイクの家に転がり込んできた。 

寝ている時に何物かに体を乗っ取られるーー。それがサンタ・マイラで起きている出来事だった。真相に気づくと同時に、ベッキィをひとりで家に帰したことを思い出した。「父が父に見えない」と言っていたベッキィを! 

マイクが自動車を飛ばしてベッキィの家でみたものは、 

それは紛うかたない友人の顔かたちだった。懐中電灯のおぼろなオレンジ色の光芒をあびて、ほこりまみれの棚にあおむけになったその物体は、まさにそれだった。それは、現像途中の、未完成のベッキィ……おぼろげで不明瞭なベッキィ・ドリスコルだった。 

いかがです? とても怖いでしょう? 

真相解明のため街に戻るが

いったん街を逃げ出したマイクとベッキィ、ジャックとシオドラは、真相の解明のため、街に戻ります。宇宙から飛来した大きな植物の莢(さや)について記事を読んだことを思い出し、図書館を訪ねる場面です。 

図書館に勤める女性に渡された新聞は、その記事だけ切り抜かれていた。 

「このファイルを持って来てくれる時にね、ミス・ワイアンドット」私は穏やかにいいはじめた。「あなたは、この春ここで発見された種子莢の記事をみんな切り取って来たね?」
(略)
「やめてくれ、ミス・ワイアンドットーーでも誰でもいいが、ぼくに芝居をして見せるにはおよばない」私はぐいと身を乗り出すと、彼女の両眼を真直ぐに凝視しながら声を落とした。「ぼくはお前を知っているぞ。お前の正体を」
それでも一秒ほどのあいだ、彼女は、何が何やら判らないという様子で、ベッキィと私とに、交る交る、情けない視線を投げて立っていたーーそして突然、仮面を脱ぎ棄てたのだった。二十年前、私の生涯に初めてのハックルベリイ・フィンを貸し出してくれた白髪のミス・ワイアンドットーーその彼女の、私を見つめる眼が、みるみる木像のようにこわばり、表情がはげ落ちたかと見るまにーーそれは冷酷無惨な異形のものに変貌したのである。
(略)
それからーーそれは口を開いた。「お前の正体を知っているぞ」と私がいった、いまやそれが答えなのだ。無限に遠い、抑揚のない声が。「知っていたの?」

紹介はこのあたりでとめましょう。未知の生命体ーー種子莢に乗っ取られてしまった街の中で、逃げることもできない状態に陥ったマイクたちは、どうやって危機を脱するのか。それは本書でぜひご確認ください。 

最新の映画化は2007

「盗まれた街」は、出版直後の1956年に『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(Invasion of the Body Snatchers)のタイトルで映画化され、これまでに合計4回も映画になっています。 

4度も映画化された小説というのを、わたしは「盗まれた街」以外に知りません。 

最新の映画化は、2007年に公開された『インベージョン』 (The Invasion)です。予告編をごらんください。 

Warner Bros. – The Invasion – Original Theatrical Trailer

なかなか怖そうです。今度観てみようと思います。 

(しみずのぼる) 

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