小説家とミュージシャン。異なる表現者が互いに共鳴し、一つの物語を完成させる。伊坂幸太郎氏と斉藤和義氏の出逢いは、まさにファンが夢見た奇跡のコラボレーションでした。斉藤氏の名曲誕生につながる伊坂氏の連作短編集『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)を改めて紹介します(2023.9.15)
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目次
伊坂氏が作詞を断ったから…名曲『ベリーベリーストロング』誕生秘話
小説や漫画を読んでいると、作者の好きな音楽がうかがえて面白いーー。そんな問いかけから「音楽との出逢いかた」というテーマで綴る2回目は、伊坂幸太郎氏の連作短編集『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)を取り上げます。
『アイネクライネ…』所収の第1話「アイネクライネ」が、斉藤和義氏からのオファーがきっかけだったことは以前の記事で紹介しました。該当部分を再掲します。
さて、ここまでで「あれ? この話知ってる」と思った方がいたら、きっと斉藤和義ファンにちがいありません。なぜなら、この2つのエピソードは、斉藤和義氏の『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』の歌詞そのものなのですから。
『アイネクライネ…』のあとがきから引用します。
「アイネクライネ」は、ミュージシャン、斉藤和義さんから、「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」と依頼をもらったのがはじまりです。「作詞はできないので小説を書くことならば」というお返事をし、そうしてできあがったのがこの短編なのです…
最初に小説があって、あの歌詞と曲が生まれたというわけですね。本当に感謝しかありません。斉藤和義さんの歌は名曲ぞろいですが、わたしがいちばん好きなのが『ベリーベリーストロング』です。
出会いと奇跡の物語:伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」
ベリーベリーストロング
それが劇的じゃなくても
ベリーベリーストロング
知りたい絆っていうやつ…
斉藤和義の歌詞を随所にちりばめた「ライトヘビー」
ですが、以前の記事で(紙幅の都合から)紹介し切れなかった伊坂氏と斉藤氏のコラボレーションから生まれた短編が、『アイネクライネナハトムジーク』にはもうひとつ収められています。第2話「ライトヘビー」です。
こちらも『アイネクライネ…』のあとがきから紹介します。
「ライトヘビー」は、『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』がシングルカットされることになり、その初回限定盤の付録用に書き下ろしたものです。せっかくですから、こういった共同作業でしかできないことをやりたいと思い、考えついたのが、斉藤和義さんの過去の曲から歌詞を引用することでした。
(略)
内容についても驚きのあるものにしようと四苦八苦しました。結果的には、今まで書いてきた短編の中でも、かなりお気に入りの一つとなりました。
「電話でいいから、相手してあげてよ」から始まった「出会い」
「ライトヘビー」の主人公、美奈子は美容師。お店に通う常連の香澄から「弟に美奈子ちゃんの携帯番号、あれ、教えていい?」と訊ねられる。「電話でいいから、相手してあげてよ」
こういう変ないきさつから美奈子は、香澄の弟ーー学と電話で話すようになった。
美奈子はライブハウスで親しくなった友人ふたりにからかわれた。「出会いだなあ、いいなあ」
ひとしきり美奈子の「出会い」で盛り上がった3人は居酒屋を出ると、「斉藤さん」のところへ足を伸ばした。
気持ちを伝えると選曲してくれる「斉藤さん 一回百円」
以前は、アクセサリーの露店だったが、斉藤さんはアクセサリーではなく、歌を売っていた。
長机の上にはノートパソコンが置かれ、そこに小さなスピーカーが繋がれている。お金を入れるための貯金箱のようなものがあって、あとは、「斉藤さん 一回百円」と書かれた立札があるだけだった。
お客がいまの気持ちを伝えると、「斉藤さん」が選曲して曲を流す、というしくみだった。
美奈子の友人のひとり、山田寛子が百円を箱に入れた。
どう 君は大丈夫? ねえ 僕は大丈夫?|「引っ越し」から
「ええと、付き合っていた彼と別れて一ヶ月になります。そんなに落ち込んでないつもりですが、どうも晴れやかではないです」
斉藤さんが曲を選び、スピーカーから歌詞が流れた(Spotifyの歌詞は「ライトヘビー」で引用されている歌詞=以下同じ)
まだあれから 僕は知らない
ねぇ 今君はどうしているの?
大きな街の風が吹くけど
どう 君は大丈夫?
ねえ 僕は大丈夫?
山田寛子は満足げで、目を少し潤ませながらも微笑んで、「うん、大丈夫」とつぶやいた。「わたし、もうバリバリ働こうかな」
オーノー! その次はジャンプだろ!|「グッドモーニングサニーデイ」から
美奈子が電話で学に「斉藤さん」のことを話すと、学はさっそく出向き、美奈子にそのときの様子を伝えた。
「あの人、面白いね」
「どうだった?」
「俺が今の自分の状況を話したら、ちゃんと再生してくれた」
曲名を聞いても「斉藤さん」が教えてくれなかったため、片っぱしからCDを買って、ようやく見つけたという。
もう、準備ならできている
ホップ ステップ ウォームアップ
オーノー! その次はジャンプだろ!
「変わらないで」なんて
新しいことを望まぬ人よ
さようなら
そしてあなたは何処へ行く?|「何処へ行こう」から
学との電話に触発された美奈子は、深夜にもかかわらず「斉藤さん」のもとへ……。
「今のわたし、恋愛とかそういうのがよく分かんないんですけど、あと、友達の仕事が大変そうなんですけど、わたしは特に何もできなくて、もどかしいんです。そんなわたしに合うものを」
「斉藤さん」が選曲した。
勝った負けたで忙しい
誰かが涙流したら
僕も泣いてる振りをする
そのうち忘れてしまうさ
忘れちゃいけないことまで
誰かが何とかするだろう
そしてあなたは何処へ行く?
意味はまったく分からないけれど、「ですよねえ」とわたしは答えた。
電話だけで繋がるだけの美奈子と学だったが、学から仕事が忙しくなると言われて縁遠くなる。
美奈子の淡い恋心が「そしてあなたは何処へ行く?」という状態になったある日、学の姉の香澄から家に誘われた……。
斉藤和義をBGMにページをめくる極上のひとときを
「ライトヘビー」は、伊坂氏が「今まで書いてきた短編の中でも、かなりお気に入りの一つとなりました」と言うだけある、伊坂氏がお得意の伏線回収がとても秀逸な短編です。
ちなみに「斉藤さん」が学に選曲した『グッドモーニングサニーデイ』の一節ーー「オーノー! その次はジャンプだろ!」も伏線のひとつなのですが、続きはぜひ『アイネクライネ…』でお確かめください。
「ライトヘビー」には、曲名が一切書かれず、歌詞の一部が引用されるだけです。
学はCDを買いあさったそうですが、わたしは歌詞をネット検索して曲名を調べて音楽アプリでプレイリストを作りました(いまもわたしのお気に入りプレイリストのひとつです)
ちなみに、第2話で目を潤ませて「わたし、もうバリバリ働こうかな」と話した山田寛子は第5話「メイクアップ」で、まさにバリバリ働くカッコイイ女性上司として再登場しますし、美奈子と学も第6話「ナハトムジーク」で再登場します。
伊坂氏のあとがきから再び引用します。
「アイネクライネ」「ライトヘビー」から膨らんできた話をいくつか書き溜め、できあがったのがこの本です。
まさに伊坂幸太郎氏と斉藤和義氏の奇跡のコラボレーションが生んだ連作短編集です。斉藤さんの名曲をBGMにかけながら『アイネクライネ…』のページをめくって、極上のひとときをお過ごしください。
(しみずのぼる)
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📖伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』紹介はこちら
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