『骨を喰む真珠』の真相に迫る!女性記者の潜入取材が暴く恐怖

『骨を喰む真珠』の真相に迫る!女性記者の潜入取材が暴く恐怖

北沢陶氏の『骨を喰む真珠』は、大正時代を舞台にした極上のホラーミステリーです。傑作『をんごく』で注目を集めた著者が描く本作は、新聞の身上相談欄に寄せられた不穏な投書から物語が始まります。女性記者が偽名を使って怪しげな集落へ潜入取材を試みることで、真珠を巡る恐るべき真相が徐々に暴かれていきます。本記事では、読者を待ち受ける緻密な恐怖の仕掛けと作品の魅力を詳しく解説します。(2025.3.6) 

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『をんごく』で注目の著者・北沢陶

最初に北沢陶氏のデビュー作『をんごく』(KADOKAWA刊)のことを簡単に紹介しておきましょう。『をんごく』は2023年に第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉を史上初めてトリプル受賞した小説です。 

大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受けるーー。 

北沢陶『をんごく』(KADOKAWA刊)

『をんごく』はいずれ別の機会に紹介したいので、あらすじもこの程度でとどめますが、このあらすじをみてもホラー小説であるのは間違いありません。 

でも、巻末に掲載された選考委員の選評を読むと、綾辻行人氏は次のように書いています。 

『をんごく』は優れた怪談小説であると同時に優れた「謎物語」にもなっていて、この塩梅がまた良い。終盤で明かされる「真相」には思わず「おおっ」と声が出た。 

わたしも「おおっ」と声が出たひとりなので、ホラーであると同時に、怪異がなぜ起きているのかーーという謎が次第に明るみになる点をみれば、ミステリーサスペンスとしても秀逸な小説と思いました。 

ネタバレなしで楽しむ極上の恐怖

わたしはまた北沢陶氏の短編「お家(え)さん」(『慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー』角川ホラー文庫)も非常に面白く読んだので、『骨を喰む真珠』は〈北沢陶氏の新刊〉という情報だけで、それ以外の宣伝文句やあらすじは一切読まないようにして読みました。 

読後の感想は、 

おもしろかった~ イッキ読みだった~ 

というものでした。 

読書は本来こうあるべきで、あまり事前の情報がないで読むのが正しい…と常々思います。とはいえ、ハズレを引くこともあるので、タイパを考えればある程度、帯や宣伝文句を参照するのはやむを得ません。 

なので、わたしも『骨を喰む真珠』の紹介は、帯の宣伝文句やあらすじの範囲内にとどめようと思います。 

大正怪異ホラーミステリーとしての圧倒的魅力

なお、帯には「をんごくの著者が放つ、極上のホラー!」と書いてありますが、本書はホラーではなく、ジャンルで言えばミステリーだと思います。 

わたしが考えるホラーとミステリーの分岐点は、例えば一見怪異と思える現象が出てきても、それが理屈で説明できるなら(その理屈が超常現象を前提にしていても)、それはホラーテイストのミステリーだろうと思っています。 

また「人でないもの」が出てくるからと言って、ホラーというわけではありません。ディズニーなら「リトルマーメイド」、ジブリなら「平成狸合戦ぽんぽこ」あたりをホラーとは言わないですよね? 

ですので『骨を喰む真珠』は、帯が「極上のホラー!」とうたっていますが、わたしの中ではホラーテイストのミステリーサスペンスと受け止めました。 

身上相談欄に寄せられた3通の投書

大正十四年、大阪。病弱だが勝ち気な女性記者・苑子は、担当する身上相談欄への奇妙な投書を受け取る(あらすじから引用) 

1通目は次のような文面だった。 

私は溺れております
青い家の中で朽ちていきます
いずれ
私は

名前は丹邨幸太郎とあった。しばらくして2通目が届いた。 

がなり立てる黄金の電話
錆びない時計の針
熟眠を知らぬ影
牢の鍵は手にあれど
足をもがれ唇を縫われ

3通目は文字が乱れていた。 

踏み絵を見ろ
踏み絵を見ろ
踏み絵を見ろ
歯のこまかな影だけは見るな

女性記者が挑む危険な潜入取材の罠

受け取った大阪実法新聞の女性記者、苑子は、同僚の操が以前に丹邨製薬の社長夫人を取材したことを思い出した。 

「あんたはん、丹邨家の訪問記を書いたことあるやろ。二年くらい前……ほら、丹邨製薬の」 

「丹邨製薬の社長宅ね。ええ書いたわ。あんまりいやな目に遭ったから無理に忘れてたのに、あなたのせいで思い出してしまったじゃない」 

いやな思いとは、取材した社長夫人があまりに若さを自慢したからだった。「『あなたはお若くても、気を緩めているとすぐに老けてしまうわよ、私はそんなことはないけれど』なんて言われて、腹を立てない女がいるかしら。私よっぽどそれを書いてしまおうかと思ったわよ」 

記者の取材手法は当時、「訪問記」と「化け込み」があった。訪問記は正規に取材を申し込みインタビューして記事を構成する。化け込みは身分を偽って潜入取材する、という手法だった。 

苑子は届いた投書が入っていた封書を観察した。「封筒の底が何か鋭利なもので開けられ、また閉じられた跡がある」 

盗み読み、という言葉が脳裏をよぎる。あるいは、検閲。
こんなことをできるのは誰だろうか。幸太郎に投函を頼まれた人間ーー女中か、あるいは家族。

苑子は編集長に「化け込み記事を書いて、よろしおますか」と掛け合った。 

「丹邨家には、なんぞ良うないことが起こってる気がしますのやがな。こんな事情は、訪問記で正面から訊いて分かるもんやおまへん。化け込みで、家の中に入り込まんと……。丹邨製薬の社長一家の問題、記事にしたらおもしろいんと違いますやろか」 

美しくも不気味な「真珠の丸薬」

調査を進めるうち、その異様さが明らかになっていく。苑子を苦しめていた咳をただちに止める、真珠のような丸薬(あらすじから引用) 

苑子は丹邨一家の娘、礼以(れい)に日本画を教える家庭教師として化け込むことに成功する。中学生の幸太郎とも接触を果たした。 

「ここに化け込んで分かりました。丹邨家には、おかしいとこがある。幸太郎さん、一昨日無理に食事を食べさせられてましたやろ。あれはいつものことなんと違いますか。ほかにも何か、ひどいことを……」
「やめとくなはれ」
苑子は身を退いた。幸太郎の身体も、声も震え、腕を神経質そうに何度もさすっている。
「僕はもう、手遅れなんです。手遅れにさせられた。この家から逃げられへん身にさせられてしもうた」

そう言って幸太郎は続けた。 

「そやけど、あんたはんは違う。まだ間に合います」 

何が手遅れなのか、なぜ、苑子はまだ間に合うのかーー。 

真実に気付いた瞬間に始まる地獄

幸太郎と同じように咳がとまらない持病に苦しむ苑子は、礼以から貰った「咳をただちに止める、真珠のような丸薬」を怪しみ、薬の成分分析を漢方医に依頼した。 

返ってきた結果には、漢方医も知らない「骨」が含まれていた――。
もう逃げられない。気付いてからが、本当の地獄の始まりだった
(あらすじより)

いかがですか。ここまででも十分惹きつけられませんか?

でも読めばわかりますが、ここからが「本当の地獄の始まり」です。 

幸太郎が3つの投書で暗示した丹邨家の謎はなにか。咳をたちどころに止める「真珠のような丸薬」に含まれるものはなにか。丹邨一家を支配する礼以はいったい何ものなのか。苑子が化け込み取材で得た、これらの謎に対する答えとはーー。 

ぜひ「骨を喰む真珠」を手に取ってお確かめいただきたいのですが、ここまででも物語の半分です。後半はさらに加速してページをめくるのがもどかしくなること請け合いです。 

(しみずのぼる) 

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