小野不由美「ゴーストハント」完全ガイド|続編や漫画版も…高純度ホラーミステリーの魅力

小野不由美「ゴーストハント」完全ガイド|続編や漫画版も…高純度ホラーミステリーの魅力

1989年発表の『悪霊がいっぱい!?』から30有余年。小野不由美氏の原点であり、今なお「高純度のホラーミステリー」として色褪せない金字塔ーーそれが「ゴーストハント」シリーズです。少女向けライトノベルの枠を超え、徹底したロジックで怪異を解明するSPR(渋谷サイキックリサーチ)の面々。本作がなぜ、単なる怪異との対峙に留まらない恐怖を放つのか? 続編『悪夢が棲む家』やいなだ詩穂氏の漫画版を含めて、シリーズ全体の魅力を徹底レビューします。(2026.3.9)

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シリーズの変遷:『悪霊がいっぱい!?』から「ゴーストハント」へ

「ゴーストハント」シリーズは過去に2度記事にしています。『ゴーストハント2 人形の檻』と『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』の感想・読書レビューです。 

📖あわせて読みたい:『人形の檻』『鮮血の迷宮』感想・読書レビュー

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でもきょうは「ゴーストハント」シリーズ全体の紹介です。 

「ゴーストハント」シリーズは、小野不由美氏が1989年に出版した『悪霊がいっぱい!?』(講談社X文庫ティーンズハート)から始まる「悪霊」シリーズを改題したものです。 

「悪霊」シリーズは1992年に完結。その2年後の1994年に続編が講談社X文庫ホワイトハートから出版されています。 

タイトルが『悪夢の棲む家 ゴーストハント』ーーここではじめて「ゴーストハント」の文字が登場します。 

『悪夢の棲む家 ゴーストハント』あらすじ
「出ていって、悪いことが起こらないうちに」
これが、念願のマイホームを手に入れてはしゃいでいた母のつぶやきとは思えないーーこのときから、翆の身辺で怪現象が始まる。
なんのためにか、鏡を嵌めこみ、塞いだ窓からは、いつも誰かがのぞいている。家の中には姿なき住人の気配。立ちこめる腐臭…。
調査にのりだした渋谷サイキック・リサーチだが、そこで麻衣が姿見の向こうに見たコソリの正体とは!? 迫真の本格ホラー堂々登場(上巻カバー扉より)

『悪夢の棲む家』(上下巻、講談社X文庫ホワイトハート)

漫画版の真髄:いなだ詩穂氏が描く「原作イメージ」との完全一致

1998年には、いなだ詩穂氏の漫画版が講談社(なかよしコミックス)から出版され、その際も『ゴーストハント』の名で出版されました。 

漫画版『ゴーストハント1巻』(なかよしコミックス)

いなださんが別名義で小野さんの作品を同人誌で発表しているのを知って、小野さんが「悪霊」シリーズの作画担当にいなださんを指名したそうです(ウィキペディアによる) 

そういう経緯もあって、漫画版は原作にとても忠実です。登場人物の作画はいなださんがイメージしたそうですが、小野氏は第1巻に次のように寄せています。 

それぞれのキャラクターが、すごく自分の小説のイメージと一致しているのでとてもうれしいです。 

このように続編や漫画で「ゴーストハント」の名前が出るようになるものの、「悪霊」シリーズそのものは長らく絶版でした。 

再刊されたのは2010年のこと。メディアファクトリーから単行本として出され、その際に小野氏が全面的に手を入れ、シリーズ名も晴れて「ゴーストハント」に改まりました。

わたしの手元にある「ゴーストハント」シリーズ。メディアファクトリー版はいなだ詩穂さんのキャラクターをあしらった装丁です(いなださんの漫画版は電子書籍で全巻所有してます)

2020年には、メディアファクトリー版をもとに角川文庫版が刊行され、今日に至っています。 

全巻リスト:旧題・漫画版との対応表で辿るSPRの事件簿

メディアファクトリー版(のち角川文庫)の「ゴーストハント」シリーズ、旧題の「悪霊」シリーズ、いなだ詩穂さんの漫画版、続編『悪夢の棲む家』を整理すると、「ゴーストハント」シリーズは次のようになります(カッコ内は出版年) 

ゴーストハント1 旧校舎怪談(2010年、文庫=2020年) 

  • 【旧題】悪霊がいっぱい!?(1989年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント1巻(副題:悪霊がいっぱい!?、1998年) 

ゴーストハント2 人形の檻(2011年、文庫=2020年) 

  • 【旧題】悪霊がホントにいっぱい!(1989年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント2巻(副題:人形の家、1999年) 

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(2011年、文庫=2020年) 

  • 【旧題】悪霊がいっぱいで眠れない(1990年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント3巻(副題:放課後の呪者、1999年) 

ゴーストハント4 死霊遊戯(2011年、文庫=2020年) 

  • 【旧題】悪霊はひとりぼっち(1990年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント4・5巻(副題:禁じられた遊び、2000、01年) 

ゴーストハント5 鮮血の迷宮(2011年、文庫=2021年) 

  • 【旧題】悪霊になりたくない!(1991年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント6・7巻(副題:血ぬられた迷宮、2001、02年) 

ゴーストハント6 海からくるもの(2011年、文庫=2021年) 

  • 【旧題】悪霊と呼ばないで(1991年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント8・9巻(副題:呪いの家、2003、06年) 

ゴーストハント7 扉を開けて(2011年、文庫=2021年) 

  • 【旧題】悪霊だってヘイキ!(上下、1992年) 
  • 【漫画版】ゴーストハント10~12巻(副題:忘れられた子どもたち、2008、09、10年) 

悪夢の棲む家 ゴーストハント(上下、1994年) 

  • 【漫画版】悪夢の棲む家 ゴーストハント(1~3巻、2013、14、16年) 

漫画版も全巻刊行するまで18年もかかっているんですね。 

ちなみに漫画版は、今年から「愛蔵版」の刊行がスタートしているので、新たに購入するなら愛蔵版をおススメします。愛蔵版は全5巻。最終の第5巻は3月13日発売です。 

SPRメンバー紹介:主人公の麻衣、17歳の所長ナル

登場人物を紹介しましょう(メディアファクトリー版付録から) 

谷山麻衣 都内の私立高校に通う1年生。旧校舎ナルの助手・リンに怪我を負わせてしまい、代わりに調査を手伝うことになる。心霊現象の調査についてはまったくの素人。明朗快活、天真爛漫。怖がりだが、思いやりの深いシリーズの主人公

ナル(渋谷一也) 17歳にして心霊現象の調査事務所「渋谷サイキックリサーチ」の所長を務めるゴーストハンター。頭脳明晰にして容姿端麗。ただし他人には辛辣なナルシスト

「ゴーストハント」シリーズは麻衣の一人称でストーリーが進むので、主人公は間違いなく麻衣ですが、さまざまな心霊現象や怪異の調査にあたるのはナルです。 

ちなみに、SPR所長の渋谷一也が「ナル」と呼ばれるようになるのは、麻衣がそう名付け、ほかのメンバーも使うようになったためです。 

「ところでナルちゃん、今日はあたし、何をすりゃいいんですかね?」
あたしが訊くと、ナルちゃんは少し驚いたようにあたしを振り返った。
「今……何て言った?」
「何が?」
おっとしまった。口が滑っちまったい。ここは笑って誤魔化しちゃえ。
「ちょっとしたミス。お気になさらず」
「どこで聞いた?」
ナルちゃんに問い詰められ、あたしはピンときたね。
「ひょっとして、ナルって言うんだ。ニックネーム」
あたしが手を打つと、ナルちゃんは、えも言われぬ表情をした。
「やっぱねえ。誰でも考えつくんだな。ナルシストのナルちゃん」

(メディアファクトリー版『ゴーストハント1 旧校舎怪談』90ページ) 

SPRメンバー紹介:巫女、元高野山僧侶、霊媒師、エクソシスト

ナルととも心霊現象や怪異と向き合う仲間たちも紹介しましょう。 

松崎綾子 巫女。いつも派手なメイクとファッションに身を包んでいる。推定年齢20代半ば。自信家のうえに意地っぱりで、ぼーさんや真砂子との間では口ゲンカが絶えない。しかし、時には女性らしいこまやかな心遣いを見せるシーンも

滝川法生 通称・ぼーさん。もと高野山の僧侶だが、現在は山を下りている。茶色に染めた(?)長髪がトレードマークの拝み屋。ちゃらちゃらした軽いノリの奥には、熱いハートを隠している。面倒見がよく、麻衣の頼れる兄貴分でもある。

原真砂子 着物姿の美少女霊媒師。口寄せの能力では屈指の存在で、テレビにもよく出演している有名人。霊の存在を見たり感じたりすることができるため、調査ではいつも重要な役割を果たす。麻衣とは恋のライバル(?)でもある

ジョン・ブラウン オーストラリア出身のエクソシスト。どこで覚えたのか、関西弁まじりの奇妙な日本語を話す。ぎすぎすした場を一瞬で和ませる、柔らかな雰囲気を持っている。童顔で幼く見えるが、麻衣より年上の19歳

リン 渋谷サイキックリサーチの助手を務める青年。無口で無愛想。沈着冷静で、黙々と調査を進めてゆく。ナル同様、黒っぽい服装をしていることが多い。その能力や詳しいプロフィールは、いまだ多くの謎に包まれている。

彼らが勢ぞろいするのは『ゴーストハント1 旧校舎怪談』です。心霊現象が相次ぐ旧校舎の調査のため、校長がいろいろと声をかけたせいで、一番乗りしたナルとリンの後、綾子とぼーさんが現れ、次にジョン、最後に真砂子も姿を見せます。 

警告:なぜ「ゴーストハント」は絶対に「1巻から」読むべきなのか?

SPRの面々は、巻を追うごとに親密になり、連帯して怪異に立ち向かうようになるとはいえ、 

ふーん、登場人物はいつもこの人たちなのね。だったら、面白そうな巻から読んでもいいんじゃない? 

と思う方がいるかもしれません。 

確かに、ホラーの度合いは『ゴーストハント2 人形の檻』から格段にアップします。 

以前に記事で紹介した『ゴーストハント2 人形の檻』と『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』以外の巻も、メディアファクトリー版の帯から紹介すると、 

狐憑き、幽霊、スプーン曲げ。そのクラスには呪われた席がある……『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ』

どのくらいの数の霊が、さまよっていると思う? ヲリキリさまなら怖くない、絶対に安全『ゴーストハント4 死霊遊戯』

おこぶさま、十八塚……古い信仰の残る土地に暮らす呪われた一族『ゴーストハント6 海からくるもの』

というように、どの巻もとても怖そうです(実際すごく怖い…)

怖いもの好きが『旧校舎怪談』よりも他の巻を先に読みたくなる気持ちは、よ~くわかります。 

でも、この「ゴーストハント」シリーズは、絶対に1巻から読まないとダメです。 

なぜなら、最終巻『ゴーストハント7 扉を開けて』で、シリーズ全体を貫く大きな謎が明かされるからです。最終巻の帯はこういう内容です。 

やっと、見つけた…………
能登からの帰り道に立ち寄った湖。そこにナルが探し求めていた何かがあった。シリーズ第1作からの謎が、ついに明かされる!

ということですので、どうか第1巻『ゴーストハント1 旧校舎怪談』から順番にお読みください。 

科学と怪異の狭間:ナルが突き詰める「霊現象」の正体

「ゴーストハント」シリーズの魅力はどこにあるでしょうか。 

麻衣やナルたち、登場人物の魅力ももちろんありますが、わたしがもっとも惹かれるのは、怪異に対して真摯に解明しようとする態度です。 

悪夢の棲む家』に、怪異をまったく信じずにナルたちの詐欺を疑う地検事務官の広田が登場します。それでも目の前で怪異が相次ぐため、広田がナルに疑問をぶつけます。 

「幽霊ってのは、いったい何なんだ?」
「さあ、ーーそれがわかったらこんなところにいませんよ。帰って論文を書いてます」
「まったくわからないわけでは、ないんだろう?」
「まったくのほうが近いでしょうね」
「なぜ? それだけ現象が少ないってことなのか?」
「霊は電気計測器と折り合いが悪いから、かな。連中が動き始めると、すぐに機械が止まるので、有効なデータを記録できない」
「だが、こんなことをしていたら、いろいろと経験はあるだろう?」
「人の経験談なんて、屑ですよ。証拠として残るデータが取れなければ意味がない」

それでも広田が食い下がると、ナルは「情報」と答える。 

「人の頭の中身などというものは、しょせんは電気的な情報の集まりです」 

「同じ霊を見ても、見た者によって証言が食い違っていたりね。外国人の霊の言葉が理解される、古い霊の言葉が理解される。こういった現象は、頭の中で解読されているんだと考えなければ、説明がつかない」 

ナルはこう説明して、次のように締めくくる。 

「……ときどき否定派になれたら、どれだけすっきりするだろうかと思うことがある」 

怪異とは何かーー。ナルが突き詰めて考える場面は、どの巻にも出てきます。それはおそらく、小野不由美氏がそのように突き詰めて考えているから…ということなのでしょう。 

まとめ:令和の今こそ触れたい、知性と恐怖が同居する傑作

コックリさんの亜種「ヲリキリさま」をめぐる怪異を扱った『ゴーストハント4 死霊遊戯』からも引用しましょう。 

「人間はある姿勢を保持したまま完全に静止することはできない。たとえば指を突いた場合、意識はされてないが、手そのもの、腕そのものに重みがある。当然のことながら重力によって絶えず下方に引っ張られているわけだが、それに逆らって当初の位置を保持するためには筋力で常に微調整を行わなければならないんだ。もちろんこれは当人には意識されてないが、意識したところで止めることもできない。コインに指を載せれば、この震えが影響してコインが動く。大勢が指を載せていれば、互いの震えが影響し合ってコインはあちこちに動くことになる。狐狗狸さんやウィジャ盤やーーそんなものの原理はみんな同じだ。動かしていないつもりでも動かしている」 

こんなふうに怪異の謎を解き明かしながら、それを上回る怪異が立ち現れるーーというのがお決まりの展開なのですが、おおよその怪異と思える現象は説明がつく…というのも確かでしょう。 

「ゴーストハント」シリーズを「高純度のホラーミステリー」と表現したのは、こういう真面目な考察が随所にちりばめられているからです。 

いまでは角川文庫で簡単に手に入りますし、原作に忠実な漫画版のほうは「愛蔵版」が出版されたばかりです。

ぜひ多くの人に、知性と恐怖が同居する傑作シリーズ「ゴーストハント」を手に取ってほしいと願っています。 

(しみずのぼる) 

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