萩尾望都「金曜の夜の集会」|ブラッドベリを彷彿とさせる魅力

萩尾望都「金曜の夜の集会」|ブラッドベリを彷彿とさせる魅力

萩尾望都氏の初期SF少女漫画を代表する短編「金曜の夜の集会」。どこかレイ・ブラッドベリの小説を思わせるノスタルジックでせつない世界観は、掲載から形を変え現代の『SFマガジン』に再録されるほど根強い支持を得ています。本記事では、本作のあらすじを紹介し、少年たちの心理や物語に隠された切ない伏線を詳しく考察します。(2025.4.14) 

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SFマガジンへの再録とファンの反響

現在発売中の『SFマガジン』25年4月号の特集は「SF少女マンガ特集」というもの。監修者の長山靖生氏が巻頭でこう書いています。 

日本SF史に燦然と輝き、他ジャンルにも影響を与えた、SF少女マンガに焦点を当てる特集。70~80年代のジャンル黄金期に発表された、萩尾望都、大島弓子、坂田靖子の名作SF短編を雑誌掲載時の質感をそのままに再録(以下略) 

https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000722504/

その「名作SF短編」のひとつとして25年ぶりの再録となったのが「金曜の夜の集会」なのです(初出は「SFマガジン」1980年11月増刊号) 

ほうき星の天体観測に集う少年たち

ジンジャーのかおりで目覚めた
雨は止んで西空は明るい
今夜こそはほうき星をつかまえられそうだ

こんな書き出しで始まる「金曜の夜の集会」の主人公は、マーモという名の少年です。 

8月最後の金曜日。姉のソーフィアに「きょうはマーモは何をするの?」と訊かれたマーモは元気いっぱいに答える。 

天文クラブだよ!
でかいほうき星が北上してるの
知ってる?
ローエル・ポーエル彗星っていうんだ
光度が5度もあるんだって!

ところが学校に行ってみると、顧問の先生から夜の天体観測は中止と聞かされた。「すまんすまん 今夜は急用があるんだ」 

不満たらたらのマーモは、親友のダッグが持っている望遠鏡で、山の城跡まで出かけて自分たちだけで天体観測することを計画する。 

セイラと来週に交わした映画の約束

山へ下調べに向かう途中、クラスメートの女子と遭遇した。ひとりはのっぽのセイラ。マーモがひそかに好きな女の子だ。 

山から帰る途中、ダッグの望遠鏡を手に持つマーモは、セイラとふたりきりになった。 

今夜ほうき星がみえるかもしれないんだ
それで見るの?
そう 晴れてたらね
それで雨なら映画にいくっていってたのね
きみ今夜映画に…いくの?

セイラは「ううん 今夜は両親が町内会に行くんで わたしるすばんなの」と答え、頬を赤らめながらこう続けた。 

でも 来週の金曜 新しい映画が来るから それ見にいかない? 

マーモは顔を輝かせて「それいいよ…いいね」と答えた。 

すごい!すごいや!
セイラとデートの約束した!
来週の金曜だ!すごい!

もしもぼくが将来天文学者になって
新しいほうき星をみつけたら
ぼくは自分の名はつけないんだ
セイラの名をつけるんだ

外出を禁じる母親の言葉に隠された謎

しかし、家に帰ると両親はこれから出かけるという。「今夜は家から出ちゃいけないよ」 

パパとママはいまから出かけるんだ
どこへ?
町内会だ こみいった話だしおそくなる

大人たちはみな集まるようだ。子どもたちだけが家に残され……。そもそも今夜の天体観測が中止になったのも理由がわからない… 

今夜何が起こるのか? マーモはダッグを誘って大人たちを捜しに出かけたーー。 

大人たちはなぜ8月最後の金曜夜に集まるのか、その驚くべき理由とは。そして真相を知ったマーモがとる行動とは……。

明かすのはここまでにしましょう。せつなさ溢れる名篇です。 

ブラッドベリ作品を彷彿とさせる詩情

「金曜の夜の集会」は、わたしは10数年前に少女マンガの傑作を集めたアンソロジー『99万粒の涙』(小学館文庫)で読みました。はじめて読んだ時、 

これは『ウは宇宙船のウ』に収録されてるのかな? 

と思いました。レイ・ブラッドベリの原作を萩尾さんが漫画にしたんだ…とすっかり勘違いしてしまったのです。 

ぼくたちはロケットが大好きだった。土曜日の朝の宇宙空港、爆音とともに大空へ消えゆく光点。いつかあのロケットで星の海を渡っていくことを、ぼくたちはずっと夢みていたのだった…。少年たちの宇宙への憧れに満ちた表題作をはじめ、深海の闇にまどろむ恐竜を100万年の時を越えてよびさます「霧笛」、万聖説の宵は妖魔たちの饗宴「集会」など、レイ・ブラッドベリの傑作短編を萩尾望都が描く、珠玉のSFポエジー全8編。(『ウは宇宙船のウ』小学館文庫) 

ところが、萩尾本を捜してみたらまったくのわたしの勘違いで、「金曜の夜の集会」は萩尾さんのオリジナル短編を一冊にまとめた『半神』に収められていました。 

双子の姉妹ユージーとユーシー。神のいたずらで結びついた2人の身体。知性は姉のユージーに、美貌は妹のユーシーに。13歳のある日、ユージーは生きるためにユーシーを切り離す手術を決意した……。異色短編「半神」、コンピューターが紡ぎだす恋の歌と夢「ラーギニー」、植物惑星オーベロンでも男女4人の一幕劇「真夏の夜の惑星」など香気あふれる傑作ストーリー全10編。 (『半神』小学館文庫)

『ウは宇宙船のウ』(小学館文庫)
『半神』(小学館文庫)

萩尾さんのオリジナルと知って大変驚きましたが、『SFマガジン』25年4月号を読むと、萩尾さん自身がこう書いています。 

私はブラッドベリが大好きで、「金曜の夜の集会」はそんな風なイメージのアメリカの少年少女の作品です。 

やっぱり~ 当たらずと雖(いえど)も遠からず、かな… 

SFマガジン25年4月号

傑作揃いな萩尾SF少女漫画の魅力

萩尾望都さんのSF少女マンガで、わたしが特に好きなのは『11人いる!』スター・レッド』、そして光瀬龍氏の原作を漫画化した『百億の昼と千億の夜』です。 

「11人いる!」(小学館文庫)
「スター・レッド」(小学館文庫)
「百億の昼と千億の夜 完全版」(河出書房新社)

特に『SFマガジン』の作品ガイド特集で「SF少女マンガの金字塔」とうたう『11人いる!』はぜひ読んでほしい…。 

宇宙大学受験会場、最終テストは外部との接触を絶たれた宇宙船白号で53日間生きのびること。1チームは10人。だが、宇宙船には11人いた! さまざまな星系からそれぞれの文化を背負ってやってきた受験生をあいつぐトラブルが襲う。疑心暗鬼のなかでの反目と友情。11人は果たして合格できるのか? 萩尾望都のSF代表作。 (『11人いる!』小学館文庫)

そんな傑作揃いの萩尾望都さんのSF少女マンガですが、最初のとっかかりにも「金曜の夜の集会」は最適と言えるでしょう。 

(しみずのぼる) 

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