「水飴を買う女」「鳥取の布団」…小泉八雲を”再発見”する「ばけばけ」

「水飴を買う女」「鳥取の布団」…小泉八雲を”再発見”する「ばけばけ」

NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」はいつも楽しく観ています。朝から何度泣かされたことか…という名演技・名場面の連続ですが、小泉八雲の怪談で知らない話が多いのにも驚きました(2025.1.15) 

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知らない怪談話ばかり

「ばけばけ」は、「怪談」で有名な小泉八雲ーーラフカディオ・ハーンの妻・小泉セツを主人公にした現在放送中の朝ドラです。セツをモデルにした松野トキを演じる高石あかりさんの演技、特にセリフがなく表情だけで表現する場面場面が素晴らしく、いま一番楽しみなテレビドラマです。 

小泉八雲の「怪談」は、「耳無し芳一」や「雪女」「むじな」など、誰もが「あ~、あの怪談ね」とストーリーを思い出すことができるほど有名な話が揃っています。 

茶わんのなか」という不思議な話も、いろいろなアンソロジーに登場します。謎が謎のままで終わるストーリーばかり集めた紀田順一郎氏の「謎の物語」(ちくま文庫)にも収められています。 

最初の気づき(ヒント)を教えます

「謎の物語」についてはこちらをごらんください 
紀田順一郎編「謎の物語」から:怖ろしい「謎のカード」 

ところが、「ばけばけ」の第12週「カイダン、ネガイマス。」(昨年12月8~12日)で語られる怪談話は、恥ずかしながら、どれも知らないものばかりでした。 

ヘブン(トミー・バストウ)は金縛りに悩まされていた。ヘブンはトキ(髙石あかり)にお祓いをすすめる。錦織(吉沢亮)の代わりに、生徒の正木(日高由起刀)がヘブンの通訳として着いていくことになり、トキも帯同する。訪れた大雄寺で、ヘブンは住職(伊武雅刀)から怪談を聞かせてもらい、すっかり怪談の虜に。自分の作品のラストピースに怪談をまとめたい!もっと聞きたい!と興奮するヘブンに、トキは怪談に詳しいと告げる(下記URLから公式ページに飛ぶと、あらすじの動画を視聴できます) 

https://www.nhk.jp/g/ts/662ZX5J3WG/blog/bl/pqpAE92lAa/bp/p0P1Oa46dv/

住職が語る「水飴(あめ)を買う女」、トキがヘブンに夜な夜な語る「鳥取の布団の話」「子捨ての話」「小豆磨(と)ぎ橋」……。 

これは読んでみたいと思うじゃないですか。 

「新編 日本の怪談」に収録

小泉八雲の「怪談」は数多くの出版社から販売されているので、ひとつひとつ収録作を調べて、ようやく見つけました。 

角川ソフィア文庫の「新編 日本の怪談」(池田雅之=編訳)に入っていました。 

アニミズム的な妖精譚の「ちんちん小袴」、永遠の愛を語る「帰ってきた死者」、オノマトペを凝らした「幽霊滝の伝説」、ハーンの心理的外傷の表象ともいえる「むじな」……。ユーモラスで哀切に満ちた小話から恐ろしい怪談まで、傑作42編を叙情あふれる新訳で紹介。江戸時代の狂歌をハーンが解説した貴重なエッセイ「妖怪のうた」も直筆の挿絵とともに収載する。朗読や読み聞かせにも最適、ハーンの再話文学世界を味わう決定版。 

池田雅之編訳「新編 日本の怪談」(角川ソフィア文庫)

水飴を買う女

水飴を買う女」から抜粋します。

中原町に飴屋があり、水飴を売っていました。昔は、乳が手に入らないと、かわりに水飴を赤ん坊にやったものでした。
毎夜、ずいぶんと夜も更けてから、その飴屋に飴を買いにやってくる女がいました。たいそうやせた顔色の青白い女で、いつも白い着物を着て、毎日一厘、水飴を買っていきました。女があんまりやせて顔色が悪いので、飴屋の主人は気にかかり、どこかおかげんが悪いのではありませんかと尋ねてみました。けれども、女は何も答えませんでしsた。
(略)
次の晩、女はまた店にやってきました。でも、その日は水飴は買わず、一緒に来るようにと飴屋を手招きするのです。飴屋は友人と一緒に女について行くと、墓地にたどり着きました。女はある墓の前に近づいたかと思うと、ふっと姿を消してしまいました。
すると、墓の下から赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。墓を開けてみると、そこには毎晩飴を買いにやってきた女の亡骸が横たわっており、傍らに赤ん坊がいました。

「水飴を買う女」 「新編 日本の怪談」より 

鳥取の布団の話

鳥取の布団の話」も抜粋しましょう。 

客は、うとうととしかけたところで、部屋の中で聞こえる子どもの声で目が覚めました。その声は、何度も同じことを尋ね合っているようでした。
「あにさん、寒かろう」
「おまえ、寒かろう」
部屋に知らない子どもが入って来るとはなんとも迷惑なことだと思いながらも、客は別に驚きませんでした。というのも、日本の宿屋の部屋には鍵のかかる戸はなく、部屋と部屋は襖で仕切られているだけだからです。ですから、客は、暗やみの中で子どもたちが部屋を間違えて入って来たのだろう、と思ったのです。
客は優しく子どもたちに注意しました。すると、少しの間、静かになりました。やがてまた、幼く、かぼそい声が、もの悲し気に尋ねました。
「あにさん、寒かろう」
別の幼い声が優しく答えました。
「おまえ、寒かろう」

「鳥取の布団の話」 「新編 日本の怪談」より 

オーソドックスな「雪女」

同書には、もちろん「耳無し芳一」「雪女」「むじな」「茶わんのなか」なども入っています。「雪女」を読み直すと、そうそう、こういう話!と思い出します。 

「こうして縫い物をしているおまえの顔が、明かりに照らされているのを見ていると、十八の時分に起こった不思議な出来事を思い出すんだ。あのとき、今のおまえのように美しく、色白の女を見たんだ。本当におまえによく似ていた……」
お雪は、縫い物に目を落としたまま、答えました。
「その女(ひと)のことを話してくださいな。どこでお会いになったのですか」

「雪女」 「新編 日本の怪談」より 

円城塔版「怪談」もお勧め

「新編 日本の怪談」は小泉八雲の怪談ストーリーを”再発見”する格好な手引書と思いますが、もう一冊、円城塔版「怪談」(角川文庫)もおすすめです。 

八雲が世界に紹介した驚異の書「KWAIDAN」の真の姿が、明らかに!
「聞いていただこう、ホーイチ・ジ・イヤーレスの物語を──」円城塔
作家・円城塔が、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの名著「KWAIDAN」を直訳!
ダン・ノ・ウラの戦いの物語を──最も悲哀の深いくだりであるから(「ミミ・ナシ・ホーイチの物語」)
オ・ジョチューは振り返り、そうして袖を下ろすと手で顔を撫でてみせ──(「ムジナ」)
スライド式のスクリーンを開け、そうして彼は見たのだったが、ランタンの光に照らし出された五人の寝姿には──首がなかった!(「ロクロ・クビ」)

円城塔訳「怪談」(角川文庫)

円城塔氏はあとがきで本書の狙いをこう述べています。 

日本という未知の国の物語を、英語読者に向けて語るハーンの流儀を再現すると、日本の言葉はただのアルファベットの連なりで得体のしれない音となり、読み手の前に呪文のように放り出され、全てが説明されるわけでもない。当然これは、英語読者にとって「読みやすい物語」ではなく「驚異の書」として受け止められたことだろう。 

なるほど~と思います。

円城塔版の「ユキ・オンナ」

たとえば「ユキ・オンナ」から、「今はまだ手を出さないでおいてやろう」と雪女に殺されずに済んだ蓑吉が家路に向かう途中で若い少女・お雪と会う場面を抜粋しましょう。 

彼は彼女に婚約者がいるのかと訊ね、彼女は笑って、独り身だと答えた。そうして今度は彼女の方から、ミノキチは結婚しているのか、約束があるかと訊ね、彼は彼女に、面倒を見なければいけない寡婦の母親があるだけで、「立派な義理の娘」については話にのぼったこともなく、彼はまだ結婚には早いのだと答えた……。こうして打ち明け話をしたあとで、二人はずいぶんと長い間何も言わずに歩いていたが、諺がいうように、キ・ガ・アレバ・メ・モ・クチ・ホド・ニ・モノ・ヲ・イウ、というのは、「気持ちがあれば、目が口に劣らず語る」ものである。村に着く頃には、互いに打ち解け合っており、ミノキチはオ・ユキに、家で少し休んでいかないかと申し出た。 

知っている話が違って映る感じがして、円城塔版は発見の連続です。 

「ばけばけ」で小泉八雲とセツ夫妻に興味を抱いたら、「新編 日本の怪談」も円城塔版「怪談」もぜひ手に取ってほしい作品です。 

俳優たちの朗読番組も必見

ところで、小泉八雲の怪談は、セツが日本各地に伝わる伝説や伝承を八雲に語り聞かせたものがもととなっているので、語り口調で書かれています。 

ということは、朗読に適しているわけで、「ばけばけ」に出演する俳優が朗読する番組もあります。 

ドラマで登場した怪談や、ドラマでは登場しない代表作など7つの話をピックアップ!それぞれ5分の物語にまとめたミニ番組です。朗読するのは「ばけばけ」出演中の俳優3人。音の文学と言われる小泉八雲の世界をたっぷりとご堪能ください! 

https://www.nhk.or.jp/osaka/info/articles/310/028/60/

NHKプラスでけさ(1月15日)確認したら、佐野史郎さんが朗読する「小豆とぎ橋/水飴を買う女」と濱正悟さんが朗読する「むじな」はまだ視聴できました(「小豆とぎ橋/水飴を買う女」は17日まで、「むじな」は16日まで配信) 

円井わんさんの「鳥取の布団」の視聴を逃したのが残念でなりません。 いつかNHKオンデマンドあたりで配信されると思うので、その時は全話視聴するつもりです。

朝ドラ「ばけばけ」はもちろんのこと、八雲の著作やスピンオフの朗読番組など「ばけばけ」の世界にしばし浸ってみてはいかがでしょうか。 

(しみずのぼる) 

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