再び〈八咫烏〉シリーズは何から読むか

再び〈八咫烏〉シリーズは何から読むか

阿部智里氏の和製ファンタジー〈八咫烏〉シリーズの最新刊「望月の烏」が発売されました。4月からはNHKのアニメ「烏は主を選ばない」がスタートします。〈八咫烏〉シリーズは何から読んだらよいか、改めて書きたいと思います(2024.3.16) 

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3回の過去の文章

〈八咫烏〉シリーズについては、これまでに3回取り上げてきました。 

NHKが24年4月から始めるアニメのタイトルが「烏は主を選ばない」と知ったタイミングで書いた文章です。「烏は主を選ばない」はシリーズの第2作目です。 

あえてシリーズ1作目「烏は単を選ばない」をはずした判断を、わたしも「正しい」と思って書いたものです。この考えは、いまもまったく変わりません。

シリーズ4作目「空棺の烏」を取り上げたのは、ここで一気に登場人物が拡大するからです。 

この物語の主役が(NHKアニメも主人公に据える)雪哉であるとは言え、この壮大な物語世界を描くためにどうしても登場人物たちの拡大が必要で、それが「空棺の烏」でなされています。 

その意味で(途中から読み始めることは決して薦めませんが)〈八咫烏〉シリーズにとって大事な作品であると思って取り上げました。 

今回「望月の烏」を読んで、その思いをいっそう強くしました(くわしくはのちほど書きます) 

これは、〈八咫烏〉シリーズでほぼ唯一と言ってもよい独立した短編だから取り上げました。 

これを読んでしまったために、ほかの大事な作品のネタバレになってしまった…というような不幸な”事故”を起こさずに済みますし、それでいながら、読んでいて泣けて泣けて仕方ない珠玉の作品と思って取り上げました。 

4年前から第二部スタート

〈八咫烏〉シリーズは、これまでに以下の12冊が刊行されています。 

  • 第一部
  • 第一巻『烏に単は似合わない』(2012年6月 文藝春秋 / 2014年6月 文春文庫)
  • 第二巻『烏は主を選ばない』(2013年7月 文藝春秋 / 2015年6月 文春文庫)
  • 第三巻『黄金の烏』(2014年7月 文藝春秋 / 2016年7月 文春文庫)
  • 第四巻『空棺の烏』(2015年7月 文藝春秋 / 2017年6月 文春文庫)
  • 第五巻『玉依姫』(2016年7月 文藝春秋 / 2018年5月 文春文庫)
  • 第六巻『弥栄の烏』(2017年7月 文藝春秋 / 2019年5月 文春文庫)
  • 外伝『烏百花 蛍の章』(2018年5月 文藝春秋 / 2020年9月 文春文庫)
  • 第二部
  • 第一巻『楽園の烏』(2020年9月 文藝春秋 / 2022年10月 文春文庫)
  • 外伝『烏百花 白百合の章』(2021年4月 文藝春秋 / 2023年5月9日 文春文庫)
  • 第二巻『追憶の烏』(2021年8月 文藝春秋 / 2024年2月6日 文春文庫)
  • 第三巻『烏の緑羽』(2022年10月 文藝春秋)
  • 第四巻『望月の烏』(2024年2月22日 文藝春秋)

今回NHKがアニメ化するのは第二巻「烏は主を選ばない」ですが、ユーチューブの公式チャンネルで公開された予告編を見ると、第一巻「烏に単は似合わない」の内容も同時に描かれるようです。 

TVアニメ「烏は主を選ばない」PV第2弾 | オープニングテーマ:Saucy Dog「poi」 | YATAGARASU Official Trailer 2

もともと作者の阿部智里さんは、5巻の「玉依姫」を習作として書きながら、世に問う第一作は「烏に単は似合わない」と「烏は主を選ばない」を一緒にした小説だったそうです。 

編集者の助言で2冊に分けたということなので、今回のアニメが2冊を合体したストーリーとなるのは、もともとの筆者の意向にも沿う形でしょうから、違和感はありません。 

とはいえ、小説で読むなら、どちらかを選ばねばなりません。 

「烏は主を選ばない」の主要登場人物が第二部に大きく関係しているため、読まないという選択肢はあり得ません。 

でも、「烏に単は似合わない」で躓いてしまったら、あまりにもったいないと思ってしまうのです。 

やはり自分は第一部を通じてヒーローのポジションを占める雪哉が登場する「烏は主を選ばない」から読むのが正しいと思います。アニメのタイトルが「烏は主を選ばない」のほうなのも、ゆえあるかなです。 

ようやく第二部が動き出す

第一部の終わり(「弥栄の烏」)から、第二部の始まり(「楽園の烏」)まで、20年の歳月の隔たりがあります。 

少年だった雪哉は、「楽天の烏」では中年の雪斎となって登場し、権力の絶頂ーー「望月」に例えられるほどの天下人になっています。 

『楽園の烏』
新宿の片隅でたばこ屋を営む青年・安原はじめ。7年前に失踪した父から「山」を相続した途端、「山を売ってほしい」という依頼が次々と舞い込み始める。そこへ現れたのは、“幽霊”を名乗る美しい女。山の秘密を知るという美女に導かれ、はじめはその山の“中”へと案内される。
その場所こそは、山内と呼ばれる異界。人の形に変じることのできる八咫烏の一族が統治する世界だった――

猿との大戦(『弥栄の烏』)より20年の時を経て、物語は現代の風景から始まる。
舞台は次第に「山内」へと移り、動乱の時代を生き抜いた八咫烏たちの今、
そして新たなる世代の台頭が描かれる。

20年の間に何があったのかーー。 

この空白の歳月を埋める巻が「追憶の烏」「烏の緑羽」「望月の烏」の3冊です。 

『追憶の烏』
猿との大戦後、正式に即位した金烏・奈月彦。山内の存続のため、大貴族四家に協力を請いつつ、娘の紫苑の宮を自らの跡継ぎとするべく動き始める。
下界への留学を控えた雪哉は、美しい夜桜の下で紫苑の宮としばしの別れを惜しむのだった。
滅びゆく山内の、新しい時代が始まろうとしていた――外界で忙しい日々を送る雪哉にある日、信じがたい一報が。
『楽園の烏』に至る20年間になにがあったのか? 戦慄の真実がいま明かされる。
シリーズ最大の衝撃作!

#八咫烏シリーズ 戦慄の最新刊。#阿部智里 『追憶の烏』

わたしは今回「望月の烏」を読了した後、「烏の緑羽」を読み直し、「追憶の烏」のラストを読み直し、さらに「楽園の烏」を1ページ目から(途中はしょりながら)ラストまで再読しました。 

ようやく! 「楽園の烏」のラストまで物語が追いつきました。第二部は、いよいよこれから物語が動き出します。 

そのようなタイミングで思うのは、やはり「烏は主を選ばない」から読むのが正しいと思うことと、「空棺の烏」は重要な作品だったのだなあ、という何とも言えない感慨です。 

ネタバレは避けますが、「烏は主を選ばない」に物騒な男として登場する路近(ろこん)、「空棺の烏」で賢者然として登場する隻腕の清賢(せいけん)、そして雪哉の敵役として登場する翠寛(すいかん)ーー彼らはこれまで脇役だったり敵役だったわけですが、おそらく第二部ーー「楽園の烏」のラストから始まる新たな物語世界の主要人物となって再登場してくるはずです。 

『烏の緑羽』
「なぜ、私の配下になった?」 生まれながらに山内を守ることを宿命づけられた皇子。葛藤と成長、彼らのその先には−。奈月彦の兄・長束と、長束の近衛・路近の物語

この三人の関係を描いた「烏の緑羽」を読んだ時、おもしろいとは思ったものの、ややスピンアウト的な巻のように思っていましたが、「望月の烏」を読んでようやく合点がいきました。 

権力の絶頂ーー「望月」の雪斎(雪哉)に立ち向かう、「楽園の烏」の主人公たちーー安原はじめ(人間)と”幽霊”の美女ーーの脇を固めるのが、翠寛であり、路近であり、清賢なのだろう…と想像を膨らませています。 

『望月の烏』
絶対権力者・博陸侯の後ろ盾のもとで、
新たに異世界〈山内〉を統べる金烏代となった凪彦。
その后選びのため、南北東西の大貴族の家から選ばれた、
四人の姫君たちが、宮中での〈登殿の儀〉へと臨む。
しかし下級官吏として働く、絶世の美姫の存在が周囲を――。

敵役も決して敵役ではなかったんだ…… 

そんなことも頭の片隅に置きながら、〈八咫烏〉シリーズの物語世界に没入していって欲しいと思います。 

(しみずのぼる) 

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