ジャズ・ジャイアント「青の時代」を聴く~その2

ジャズ・ジャイアント「青の時代」を聴く~その2

神舘和典氏の「ジャズ・ジャイアントたちの20代録音「青の時代」の音を聴く」(星海社新書)を紹介する2回目のきょうは、マイルス・デイビスの門下生から、マーカス・ミラーマイク・スターンジョン・スコフィールドです(2024.1.24) 

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6年ぶりの復活

マイルス・デイビスは1975年に音楽活動を停止し、長期の空白期間に入ります。もう再起不能かとさえ危ぶまれましたが、1981年に復活。1991年に亡くなるまで若手ミュージシャンと活動を続けます。 

神舘氏の著書には、1981年に復活した際のメンバーであるベーシストのマーカス・ミラー、ギタリストのマイク・スターン、82~85年に在籍したギタリストのジョン・スコフィールドのインタビューが載っています。 

マーカス・ミラーは「若い時代の僕については、マイルスからの影響抜きには話せない」と言って、こう続けます。 

彼は演奏中、音楽に自分のすべてを注いでいたよ。 

停電に気づかず演奏

ギグの途中で停電になっても、マイルスは気にせず演奏を続けていたそうです。

やがてマイルスのパートが終わり、マーカスがソロを引き継いだ。 

「僕のソロはエレクトリック・ベースの予定だったけれど、停電が続いていたので、テナー・サックスに持ち替えて演奏した」 

気づくと、目の前にマイルスが鬼の形相で立っている。 

「なんでサックスを吹くんだ!」 

大変な剣幕でマーカスを怒鳴った。 

「だって、停電中ですよ」 

慌てて返答するマーカス。 

「なに!?」 

そのときはじめてマイルスは停電に気づいたという。 

マイク・スターンも81年の復活マイルス・グループのメンバーです。 

「バンド・メンバーを集めるとき、たいがいは全体のアンサンブルを考えてミュージシャンを集める。ところがマイルスは、自分の感覚を信じて気に入ったメンバーを集める。あとは曲の方向性だけを示し、自分の感覚を信じて自由に演奏させる。そこに新しい音楽が生まれた」 

1981年10月に来日した際の演奏から「ジャン・ピエール」です。 

世代の離れた演奏に興味

ジョン・スコフィールドは、マイルスが次々と若手ミュージシャンを起用したことについて、神舘氏のインタビューに「キャリアを重ねた今の僕ならばマイルスが若手を起用した理由がよくわかる。おそらく、若いミュージシャンのパッションがほしかったんだ」と答えています。 

「マイルスは、世代の離れた演奏に、明らかに興味を持っていた。1980年代、僕はギターソロのときにあえて無調性なサウンドを取り入れていた。当時のアバンギャルドの音楽シーンでは珍しくない奏法だけれど、ジャズ・シーンではあまりなかったと思う。そこにマイルスは反応した」 

ジョンにとって、忘れられないギグがある。 

「確かデトロイトだった。僕がソロを弾き、マイルスが引き継いだ。そのとき、彼は明らかに意識的に、僕のフレーズをなぞったんだ。ソロを終えると、後ろにいる僕のほうを向いてにやりとした。たぶん、お前のプレイをやってみたぞ、という意味を込めて」 

ジョン・スコフィールドの演奏は、ひきつるような独特なスタイル(神舘氏は「うねうねしたサウンド」と表現)で、1985年来日時の演奏はユーチューブでも視聴できます(ブートレグのCD/DVDもあります) 

ジョン・スコフィールドのサンプル音源はこちらもお聴きください
夜に聞くと心地良いカーラ・ブレイ

神舘氏はジョン・スコフィールドの「青の時代」を知るアルバムとして「スター・ピープル」(1983年)を挙げて「火を噴くようなギター」と形容していますが、聴きやすいアルバムかと言えばそうでもないので、あとの文章との関係で「タイム・アフター・タイム」を紹介します。アルバム「ユア・アンダー・アレスト」(1984年)に入っています。 

わたしが特に好きなのが88年~91年のマイルスグループで、その頃のライブ演奏を編集した「ライブ・アラウンド・ザ・ワールド」から、「タイム・アフター・タイム」をお聞きください。これは1989年6月、シカゴでのライブです。 

これを聴かずしてなにが…

中山康樹氏の「マイルスを聴け!」(双葉文庫)から、「タイム・アフター・タイム」のくだりを紹介しましょう。 

シンディ・ローパーのヒット曲であり、本作(=ユア・アンダー・アレスト)のハイライト。 

(略) 

このイントロ、ク~ッたまらんの百連発。マイルスのためにあるような曲ではないか。シンディ・ローパーのオリジナル・ヴァージョンもそうとういいが、マイルスが吹くと、もっと切実なものとして胸に迫ってくる。これを聴かずしてなにが《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》だ、なにが《枯葉》だ。この優しさこそ、マイルスの神秘のベールの奥に隠されているものである。本音でバラードを吹くマイルスに涙はとまらない。 

「タイム・アフター・タイム」は、スタジオ版と2つのライブ演奏のユーチューブ動画をつけておきます。サンプル音源が気に入ったら、ぜひ聴いてみてください。

ちなみに2番目のライブ演奏は、91年6月のウィーンでのライブ。マイルスはこの2か月後、ライブ演奏の後に斃れて同年9月に亡くなりました。

(しみずのぼる) 

ジャズ・ジャイアント「青の時代」を聴く
その1:キース・ジャレット/チック・コリア/ハービー・ハンコック
その2:マーカス・ミラー/マイク・スターン/ジョン・スコフィールド
その3:ジャコ・パストリアス/パット・メセニー

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