きょうは、いくえみ綾さんの「スカイォーカー」を紹介します。「アイネクライネナハトムジーク」でいくえみさんを知った正真正銘の初心者ですが、次々と読んでハマってしまいました。でも、その中からおすすめを選ぶのはとても難しく、いくえみ綾さんらしさが感じられる短編ということで「スカイォーカー」を選びました。奥田民生氏にインスパイアされた短編集です(2023.9.2)
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奥田民生の曲が表題
「スカイウォーカー」(小学館)に収められているのは、「MANY」「スカイウォーカー」「無限の風」「マシマロ」の4作品。どれも表題は奥田民生氏の曲で、最初の1ページはその曲の歌詞が載っています。
ただ、漫画を読んでから歌詞を見直すと、「えっと、この部分が関係するのかな?」と思う程度で、歌詞を漫画化したものではありません。歌詞に「インスパイアされた」という表現が適切なのでしょう。
一緒に山を登った女子は誰
個人的にいちばん好きなのは「無限の風」です。
元野球部の吉田遥が重い荷物を背負って山に向かう。そのとき、知らない女子に声をかけられる。
ね~ね~
ヘンな帽子かぶって
どこ行くの~~
山~~~
ヒヤッホ~~~♡
アタシも行ってい~~~?
駄菓子屋で買ったという納豆味の「うめえ棒」を持ったおかっぱ頭の女子。無視してもついてきて、一方的にしゃべりまくる。結局、一緒に山を登るはめになった。
山には野球道具を埋めに行くことが目的だった。練習で倒れて、診断の結果、心臓に負担がかかる運動はあきらめざるを得ないと通告されたためだった。
スコップを借りて穴を掘って野球道具一式を捨てた遥。陽気な女子が遥に向かってエールを贈ると、翼が見えた。
男・吉田遥の
新しい人生
齢14にして
第二の人生
すばらしい!
遥、
飛べるよ!
気付いたら、山にひとり倒れていた。あの女子は何ものだ?
奥田民生氏の「無限の風」に
遥かに手を伸ばして 空に叫ぶのさ
という一節がありますが、もしかしてコレでしょうか。
「いい感じ」ってわかる?
次に好きなのが「スカイウォーカー」です。
主人公は川浪将一、15歳。「ウドの大木」「電柱」と陰口をたたかれる無口の中学生。ひそかに漫画家を志し、授業中も漫画を描いている。
クラスに「オギ」と呼ばれる同級生がいる。クラスメートにいじめられているオギが、川浪が書き損じた漫画を拾い、翌朝、川浪に声をかけた。漫画をほめたオギは、自分は「うたをうたう」のが好きだと言った。
ふたりで並んで歩く時、川浪の漫画についてオギは言った。
あれさ、
あの絵
見てるとさ。
なんかオレ、
いい感じなんだ。「いい感じ」って
わかる?想像や、
今まであったことや、
これからの未来や、
いいことも
悪いことも、
頭ん中でいっぱいに
なるからそしたら出してやるんだ
言葉と、
音で。
ふたりのぎこちない友情が「いい感じ」の漫画です。
これは奥田民生氏の「スカイウォーカー」の歌詞がピッタリ合う印象です。
二人で歩いたら 頭はからっぽで 悩みは消えてしまったんだ
大きい空から 雲がむかえに来て 空飛んでる気分だったんだ
奥田民生ファンなら、きっと楽しめる作品集だと思います。
ファンの輪が広がっていく…
熱烈な奥田民生ファンであるいくえみ綾さんは、あとがきで次のように書いています。
漫画描いてて よかったーー
「アイネクライネナハトムジーク」の漫画化をいくえみさんに頼んだ伊坂幸太郎氏も、
小説を書いてて良かった
と喜びを表現していました。
伊坂作品が好きでいくえみさんに、いくえみ作品が好きで奥田さんに……と、ファンの輪が広がっていく感じがしてうれしいです。
長編もおすすめばかり
なお、今回は、短編なら「バラ色の明日」か「スカイウォーカー」か、と悩んだ末のセレクトでしたが、長編ももちろんいいです(「おやすみカラスまた来てね」もおもしろかったし、「トーチソング・エコロジー」もよかったです。「太陽が見ている(かもしれないから)」「I LOVE HER」も。いまは「1日2回」の新刊を楽しみに待っています)
ちょっと「いい感じ」になりたい気分なら、いくえみ綾作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。
(しみずのぼる)
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