夜に聞くと心地良いプログレ・バラード

夜に聞くと心地良いプログレ・バラード

以前にピーター・ガブリエルの21年ぶりの新アルバム発売に合わせて、プログレ(プログレッシブ・ロック)についてほんの少しだけ書きましたが、プログレにも夜聞くと心地良いバラード曲がいろいろあります。「プログレなんて…」と言わずに聴いてみてください(2023.12.31)

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「好き」と言うと気恥ずかしさが…

プログレが好きだったと言うのは、フュージョンを好きだったと言うのと同じくらい、ちょっと気恥ずかしくなります。

そう言うだけで年代がばれるというか、その年代に青春時代だった人に限って「大好き」な音楽ジャンルなのでしょう。 フージョンの全盛期が80年代なら、プログレの全盛期は間違いなく70年代です。つまり、70年代に多感な青春時代だった人たちには、はしかにかかったようにプログレにはまった人たちが少なくないのです。 

例えば、馬庭教二氏の「1970年代のプログレ」(ワニブックス)という新書があります。書き出しにこんなくだりがあります。 

プログレをこのように決めつける人がいる。 

それは、ロックの大きな流れのなかで本流を占めるものではなく、イギリス発祥の個性的な一分野、傍流にすぎない、反権威や不良性といったロックの持つ思想やシンプルな「ノリ」に欠ける傾向があり、結果、政治、文化、ファッションの面などで現実社会に大きな影響を与えることはなかった。プログレファンの多くは、その演奏技術が比較的高いことや観念的な歌詞、アート志向のジャケットなどからプログレを知的な音楽として他を一段下に見る嫌味な連中で、つまりはプログレとはごくごく一部の好事家だけが嗜好する狭く閉じられた世界なのだーーと。 

著者の馬庭氏はもちろんプログレの熱いファンで、同書でプログレをはじめて聞いた時の感動を熱く語っていきます(わたしも似たような経験があります) 

それでも書き出しでここまで”卑下”しないといけないほど、プログレが好きだったと言うのは気恥ずかしいことなのかもしれません。 

でも、ピーター・ガブリエルのバラードを紹介しながら、難しいことは考えずに、ただ心地良いメロディの曲だってプログレはいろいろあるよなあ…と思いました。 

わたしはこれまで書いてきたように、ビートルズが好きですし、ビートルズの系譜に連なるロックも好きです(例えばオアシス)。でも一番CDを持っているのはジャズ(特にマイルス・デイビス)ですし、最近は妻に感化されて韓ドラのOSTも聴きますし、カラオケにいけばJ-POPだって唄います。 

ただ共通するのは「特にバラード系の曲が好き」というだけで、心地よいメロディに「ジャンルなんて関係ないのではないか」と思っているのです。 

ですから、うんちくのたぐいは最小限にして、わたしが好きなバラード曲(ただしプログレ)をいくつか紹介しようと思います。 

O’Caroline

1曲目は、マッチング・モウルのファーストアルバム「マッチング・モウル」(1971年)から「O’Caroline」です。 

歌っているのはロバート・ワイアットソフト・マシーンのオリジナルメンバー(ドラムス兼ボーカル)で、脱退後にマッチング・モウルを結成しますが、事故で下半身不随となり、その後はボーカルとしてソロ活動。「ロック・ボトム」(1974年)など多くのアルバムを発表しています。 

ロバート・ワイアットの歌声は「世界一悲しい声」と称されています(ウソだと思うなら「世界一悲しい声」で検索してみてください) 

Candence and Cascade

2曲目は、キング・クリムゾンのセカンド・アルバム「ポセイドンのめざめ」(1970年)から「Candence and Cascade」です。

キング・クリムゾンは、おそらくプログレが好きな人ではまっていない人はいないと思うほど有名なバンドですが、ここで熱く語るのは控えましょう。 

この曲で特に好きなのはピアノです。弾いているのはキース・ティペット。フリー・ジャズの世界の人で、ソフト・マシーンに在籍したエルトン・ディーンと並んで、イギリスのジャズシーンを牽引した人です。

Carpet Crawlers

3曲目は、ジェネシスの「眩惑のブロードウェイ」(1975年)から、「Carpet Crawlers」。歌っているのは若きピーター・ガブリエルです。 

彼はこのアルバムを最後に脱退して、わたしはものすごくファンだったので本当に驚きました(自分にとってジェネシスは「眩惑のブロードウェイ」までで、そういう人は意外と少なくないように思います) 

Minstrel’s Song

4曲目は、ムーディー・ブルースの「クエスチョン・オブ・バランス」(1970年)から、「Minstrel’s Song」です。

ムーディー・ブルースならほかにも有名なアルバムは多いですし、ヒットナンバーもほかに数多くあるにもかかわらず、わたしがいちばん繰り返し聴くのがこの曲です。バラードではありませんが、何とも懐かしい旋律です。

Rainbow’s End

5曲目は、キャメルの「ブレスレス」(1978年)から「Rainbow’s End」です。 

わたしはプログレでもソフト・マシーンが好きで、高校生の頃にはエルトン・ディーンや(クリムゾン在籍の)キース・ティペットからジャズ好きになっていったため、キャメルの活動中は聴いたことはありませんでした。「Rainbow’s End」はずいぶんと後になってから、何かの拍子に聴いて「いいメロディだなあ~」と思い、今でもお気に入りリストに残っている曲のひとつです。 

Aisle of Plenty

最後はふたたびジェネシス。「Selling England by the Pound」(邦題「月影の騎士」、1973年)から「Aisle of Plenty」です。 

このメロディは1曲目の「Dancing with the Moonlit Knight」をそのまま使い、アルバムのエンディングに流れるのが「Aisle of Plenty」です。ピーター・ガブリエルの声はほんとうに好きです。 

「月影の騎士」について、冒頭紹介した馬庭氏の新書にこう出てきます。 

本作は、前2作で培われたインストの演奏力とガブリエルのボーカルが最高レベルで合体、花開いたものだ。 

(略) 

私は、寓話的な趣のある淡いグリーンの素敵なジャケットのこのアルバムが、「月影の騎士」というロマンティックなタイトルだったゆえに迷わずにすぐ買ったのである。そんな人がいっぱいいたと思う。 

わたしもその「いっぱいいた」ひとりです。「前2作」(「怪奇骨董音楽箱」「フォックストロット」)を含めて、このころのジェネシスは今もよく聴いています。 

「プログレなんて…」と先入観で嫌いにならず、ぜひ「いいメロディだな~」と思って聴いていただけたらと思います。 

(しみずのぼる) 

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