新NISA 特定口座からお金を移すべきか

新NISA 特定口座からお金を移すべきか

新NISAを始めるにあたり、今まで特定口座で運用していた国内株や投資信託は移管したほうがよいかどうかーー。時期的にも関心の高いテーマですし、知人ともよく話題になります。でも、結局はケースバイケース。仕組みをきちんと理解して、自分にあった方法を自ら選択するしかありません(2023.11.25) 

〈PR〉

登録は簡単、3ステップのみ!無料会員登録はこちら

一発でわかる早見表

こんなことを思うのは、最近、AERA(アエラ)Moneyの配信記事を読んだためです。 

記事の見出しは「新NISA「特定口座からお金を移すべきか」が一発でわかる早見表」というもの。そんな一発でわかる早見表があるなら、ぜひ参考にさせてもらおうと思って読みましたが……。よくわかりませんでした。 

記事はこんな書き出しです。 

新NISAの投資上限「1800万円」を一刻も早く埋めたい。でもそこまでの投資資金は、ない。 

ならば、すでに保有している投資信託や株式をNISA口座に移せばよいのでは――。 

(略)  

ネット上では、「特定口座の金融商品をいったん売却して利益に対する税金を払う(売却時に税金が引かれる)→現金化したらすぐに新NISAで同じ金融商品を買い直す。こうしたほうが、絶対に有利」という論が優勢だ。本当だろうか? 

参考URL:https://dot.asahi.com/articles/-/203532?page=1

わたしも、記事にあるような「特定口座の国内株を売却して、新NISAの成長投資枠で同じ銘柄を購入する」のと、「特定口座で配当利回りの低い国内株を売却して、新NISAの成長投資枠で配当利回りの高い国内株を購入する」の組み合わせで考えていますが、この記事は「本当にそうだろうか?」と疑問を投げかけています。 

記事は最初に楽天証券のマネージャーのコメントを紹介しています。 

松﨑さんは、「結局は新NISAに移したあとの相場動向により結果が変わってしまうので、『こうしましょう!』とは断言できないです」とも語った。 

その通り。でも、その後のコメントは???です。 

「新NISAは制度自体が恒久化されているため、急ぐ必要はありません。 

 特定口座分をいったん売却して、新NISAで買い直すのは意外に面倒かと。 

 特定口座はそのままにして、新NISAで新しく投資をはじめるほうが素直かな、と個人的には思います」 

これは、その人の年代や資産状況でまったく異なってくるのではないでしょうか。

そういうことをすべて捨象して、「新NISAで新しく投資をはじめるほうが素直」と言い切るのは、ちょっと乱暴です(というより、マネージャーさんご本人はもう少し丁寧に説明したのではないでしょうか。記者さんのまとめ方が乱暴だった疑いがあるような気がします) 

「わからない」が結論

このあとニッセイ基礎研究所の方にお願いして作ってもらったという「早見表」が出てきますが、興味がある方はAERA Moneyの記事を読んでください。おそらく表を見てもよくわからないと思いますが、記事の結論部分を引用しておきます。 

まとめ。新NISAで買い直したあと、損しそうなら特定口座のままがいい(そもそも「損しそう」と思ってNISAをはじめる人は少ないだろうが)。 

儲かりそうなら移したほうがいい。そして、損するか儲かるか、現時点ではわからない。この材料をもとに検討してほしい。

これが結論なら、見出しで釣った記事(読ませることで広告費を稼ぐ)と大差ないように思うのですが……。 

ただ、記事の着眼点自体は正しく、いま知人と話していても、特定口座の国内株を移すべきかどうかが話題にのぼるのは確かです。 

メリット/デメリットを整理

結局はケースバイケースと割り切るしかないと思うのですが、それでは身もふたもないので、わたしが考える新NISAの利用方法をケース別に考えてみたいと思います。 

まず、考える前提として、新NISAと特定口座のメリット・デメリットを整理します。 

新NISA
メリット:譲渡益も配当金も非課税 
デメリット:損益通算できない 

特定口座 
メリット:損益通算できる(3年以内の繰り越しが可能) 
デメリット:譲渡益も配当金も課税される 

同じ銘柄を特定口座で持ち続けるより、新NISA口座に移せば、移してからは配当金が非課税になります。現在の税率は20.315%ですから、毎年20%の利益が上乗せされます。 

以下、わかりやすいように20%の税率で例示しますが、配当金が100円の銘柄なら、特定口座に置いたままなら、毎年受け取る配当金は80円、80円、80円……と続きます。それを新NISAに移せば、100円、100円、100円……となりますから、通算で受け取る配当の差額は20円、40円、60円……と、年を重ねるにつれて広がります。ですから、早めに移したほうが有利なのは明白です。 

この差は配当金額が大きくなるほど広がります。配当金が200円の銘柄なら、その差は40円、80円、120円……。400円の銘柄なら、80円、160円、240円……となります。つまり、配当利回りの高い銘柄ほど、新NISAの非課税メリットを享受できることになります。 

では、次に評価益・評価損を考えます。 

特定口座で保有する銘柄に10万円の評価益があった場合はどうでしょうか。特定口座から新NISA口座に移した時点で、受け取る譲渡益は8万円で、2万円が税金で引かれます。 

でも、税金を引かれるのは1度きりで、新NISA口座に移してからは、配当金の20%アップの恩恵を享受できます。 

逆に10万円の評価損があった場合はどうでしょうか。特定口座から新NISA口座に移しても譲渡益は発生しません。配当金の20%アップの恩恵だけ享受できます。 

加えて、特定口座の評価損は損益通算できます。Aという銘柄を新NISAに移して10万円の譲渡益が出ても、Bという銘柄を移して評価損が10万円あれば損益通算で税金はゼロになるし、評価損のほうが多ければ、3年は繰り延べできるので翌年、翌々年の譲渡益と通算できます。 

そう考えると、 

  • 配当所得の20%アップという恩恵を享受したいなら、少しでも早く配当利回りの高い高配当株から順繰りに新NISA口座に移したほうがよい
  • 特定口座で譲渡益が発生する場合は、配当利回りが低く、かつ評価損を抱えている銘柄を損切りして損益通算すると一石二鳥ではないか

と、わたしは考えるわけです。

若ければ複利効果を狙う

しかし、最初に書いたとおり、これは年代や資産状況によって”最適解”は自ずと変わってきます。 そこで、いくつかケース別で考えてみましょう。 

  • ケース1:20歳代前半。会社員になったばかり。給料はあまり高くない。特定口座は持っているけどほとんど使ったことがない 

この場合は、AERA Moneyに登場するマネージャーさんの言うとおり、「新NISAで新しく投資をはじめるほうが素直」なケースです。 

「給料があまり高くない」ということは投資に回せる余剰資金が少ないことを意味します。 

つみたて投資枠で米国株か全世界株のインデックス型投資信託を毎月コツコツと積み立てていけばよいですし、いずれ昇給するなどして投資に回せる余剰資金が増えれば、成長投資枠でもインデックス投信を積み立てればよいでしょう。 

20代なら長期に運用できますし、住宅資金や子育て・教育資金がかかってくるのはもう少しあとでしょうから、複利効果が最大限生かせる積立投資信託を、つみたて投資枠・成長投資枠両方でやればいいでしょう。 

複利効果についてはこちら
ラテマネーを運用すればいくらになるか

夫婦なら非課税枠が最大2倍

  • ケース2:30歳代後半。会社員。結婚して子供2人。給料は低くはないが、住宅ローンを抱えている。ただし特定口座で国内株やETFを保有 

この場合、住宅ローンがありますし、子育て・教育にもお金がかかる年代ですから、給料から投資に回せる原資に限界があります。つみたて投資枠で月額10万円の積立投資信託を行なうのがせいぜい、という場合が考えられます。 

そうすると、特定口座より配当所得が20%もアップする成長投資枠を遊ばせておくのはもったいないでしょう。配当利回りの高い銘柄から毎年240万円の範囲で新NISA口座に移していけばよいでしょう。 

なお、非課税枠が最大2倍になるので、ご夫婦でNISA口座を使い切るのがベストです。

夫婦でNISA口座を行うメリットと注意点はこちら
新NISAは夫婦そろってやるのがお得

資金潤沢なら特定口座はそのまま

  • ケース3:50歳代前半・会社役員。役員報酬はかなりあるほう。特定口座に国内株やETFを大量保有

この場合、役員報酬から投資に回せる資金が潤沢あると考えられます。つみたて投資枠で毎月10万円ずつ積立投資信託を行うだけでなく、成長投資枠で年間240万円の国内株・ETF・REIT等を購入できるだけの余剰資金があると考えられます。 

それなら、特定口座の商品はそのまま手をつけなくても、手元に潤沢にある資金を原資にして、成長投資枠で新たに銘柄を増やせばいいでしょう。長期保有を前提に高配当株(あるいは配当利回りの高いREITなど)を買っていけばよいでしょう。 

つみたて投資枠で「自分年金

  • ケース4:60歳代後半・無職。特定口座に国内株やETFを保有し、年金+配当所得で生活 

この場合、これまでの資産を使って新NISA用の資金を捻出する必要があります。配当利回りの低い銘柄から売却して、新NISAの成長投資枠で配当利回りの高い銘柄を買っていけば、配当所得を増やすことができます。 

つみたて投資枠を使わないのはもったいないので、特定口座で売却して得た資金の一部を回して積立投資信託を行い、例えば10年たってから少しずつ取り崩して「自分年金」的な使い方をすることも可能です。 

”最適解”は自分で探そう

いかがでしょうか。この4つ以外のケースも当然あるでしょうが、要は投資に回せる余剰資金が潤沢にあるなら特定口座はそのままにして、新NISAでひたすら金融商品を増やしていけばよいし、潤沢でないなら「特定口座で売却×新NISAで購入」という形で資金を捻出する…ということなのだろうと思います。 

「一発でわかる早見表」なんて存在しません。そんな”青い鳥”を探そうとするよりも、本や雑誌を読んで仕組みをきちんと理解して、自分ならこれが一番あてはまるだろう…と試行錯誤しながら取り組むべきものでしょう。だって自分の大切な財産なんですから。 

(いしばしわたる) 

〈PR〉

オリジナルコンテンツ数No1!【ABEMAプレミアム】