衝動買いやムダ遣いの「心理」を行動経済学から考えよう

衝動買いやムダ遣いの「心理」を行動経済学から考えよう

行動経済学という学問をご存じでしょうか。人間は知らず知らずにバイアスがかかって非合理な行動を取ることがあります。実際の消費者の行動から、人間の持つ非合理な側面に着目した学問が行動経済学です。これを意識すれば、お金の無駄遣いを減らせるかもしれません(2023.7.17)

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コンビニとサブスク

少し卑近な例を紹介しましょう。わたしの娘との会話です。 

娘 「お金がたまらないよ」 
私 「それはそうでしょ。コンビニをしょっちゅう使ってるじゃないの。あんな無駄遣いないと思うけど」 
娘 「だって便利なんだもん」 
私 「そういえば、家計簿アプリやってたよね?」 
娘 「銀行口座もクレカも全部連携してるよ。これで収支管理はバッチリ!」 
私 「でもさ、それってサブスクでしょ。お金がたまらないって嘆くならサブスクを見直したら?」 
娘 「だって便利なんだもん」 
私 「???」

支出管理アプリは、無駄な支出を「可視化」するためのツールです。

でも、娘の場合は、銀行口座やクレカをすべて連携して満足してしまい、冗費の洗い出しという本来の目的をすっかり忘れているようです(そういえば小学生の頃、机に向かって勉強しているのかと思えば、5色マーカーをフルに使って学習ノートを清書して「どう、きれいでしょ!」と見せびらかしていたな、と思い出しました) 

行動経済学から考えると...

実はコンビニもサブスクも、行動経済学が考えるヒントになります。 

コンビニ通いは、「利用可能性ヒューリスティック」(なじみのあるものを選択する意思決定プロセスのこと)や、接触回数が多いほど好意を抱きやすくなる「ザイオンス効果」で説明がつきそうです。 

サブスクがやめられないのは、「現状維持バイアス」(変化よりも現状を維持することを望む傾向のこと)や、「サンクコスト効果」(すでに投入して回収できない費用を無駄にしたくないという心理が働くこと)でしょうか。娘の場合、せっかく口座やクレカを連携したのに…という意識が働いていそうです。 

阿部誠・東大教授監修の「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」(新星出版社)から引用しましょう。

私たちの日々の生活は、意思決定の連続です。特に、お金に関する意思決定は、誰もが大切なものだととらえているでしょう。 

しかし、お金が関係する場面において私たちは常に、将来のことも考えた合理的な選択ができているといえるでしょうか。つい衝動買いしたり、よく考えて行動したつもりでも投資やギャンブルでお金を失ったりして、後悔してしまうことがあるはずです。 

後悔する機会をできるだけ減らすためにはまず、人間の意志決定のくせを知っておく必要があります。 

マーケティングに活用

そのうえで阿部氏は「行動経済学を知って得られる3つのポイント」を挙げています。

マーケティング:意思決定のくせを知ることで、消費者が商品を買いたくなる心理を理解することができます。そうすれば、消費者心理に寄り添った、広告や販促の手段がおのずと見えてくるのです。 

マネジメント:同僚や部下を上手にマネジメントするのにも、行動経済学の理論が役立ちます。たとえば仕事を手伝ってもらう場合も、承諾を得やすい方法を知っていれば、引き受けてもらえる可能性が高くなります。 

自己実現:もちろん、自分の行動を変えることもできます。目指すべき目標があるのに、つい目先の誘惑にとらわれてなかなかゴールにたどり着かないような人でも、なぜ誘惑に負けるのかを知ることで対策を講じることができます。 

阿部氏が「マーケティング」のところで書いているとおり、企業の広告や販促は行動経済学をフルに使って商品を買わせようとします。  

だとすれば、わたしたちは行動経済学を知っていれば、無意識に広告や販促に踊らされるのではなく、本当に自分が欲しいものにお金を払えるようになるはずです。当然、冗費を削るという「自己実現」にも近づけるはずです。 

あらゆる消費行動に潜む

頼藤太希氏と高山一恵氏の「定年前後のお金の教科書」(宝島社)にも、「行動経済学からムダ遣いの理由を探る」という一節があり、行動経済学の用語と消費行動を説明しています。

ザイオンス効果:目に触れる可能性が高いものを選んでしまう。選挙で立候補者の名前を連呼するのも、この効果を狙ったもの 

アンカリング効果:値下げ前と値下げ後両方の価格を示すことで、値下げ前の価格が基準(アンカー)になって「お買い得だ」と感じる 

カリギュラ効果:禁止されるほど興味をかきたてられる。「本当に必要な人しか買わないでください」といわれ買ってしまう 

バンドワゴン効果:ほかの人に後れを取らないようにと考えて商品を購入してしまう。「いま一番売れています」といわれ買ってしまうなど 

端数価格効果:切りのよい値段よりも端数のついた値段を安く感じる。端数のなかでも「8」の数字が値段に含まれていると商品を買ってしまいやすい 

極端の回避・オトリ効果:3つの選択肢を提示されると自然と中間の選択肢を選んでしまう。「松竹梅」のうち「竹」が多く選ばれる 

タイムプレッシャー:時間制限があると冷静な判断ができなくなる。「〇時間後にセール終了」という言葉を見るとつい買ってしまうなど 

いかがですか。スーパーのタイムセール、テレビのネット通販など、あらゆるところに行動経済学が潜んでいることに気づきませんか。 

投資詐欺の手口にも悪用

マネーの記事(「儲け話に引っ掛からないようにしよう」)で投資詐欺に遭って自殺した大学生のことを取り上げました。記事(NHK事件記者取材ノート「そして娘は命を絶った ~“暗号資産”めぐる事件の果てに」)を読むと、こんな記述が出てきます。 

ほのかさんが出資するきっかけになったのは、大学の同級生だった友人のインスタグラムを見たことでした。それは「投資に興味がある人?」というアンケートで、ほのかさんが興味を示すとその同級生から“高校の同級生”だという男を紹介されます。 

投資先とされたのは、海外に拠点を置いているという会社で、「AIを駆使して暗号資産を運用するので、投資すれば多額の配当が出る」とうたっていた事業です。 

(略) 

ほのかさんは「マルチ(商法)ですか?」と疑っていましたが、男はそれを否定したうえ、考える時間を与えないかのように現金を早く用意するよう迫っていました。 

貯金のなかったほのかさんは、「引っ越しの代金という理由にすれば消費者金融で借りられる」と指示され、1日で3社から50万ずつ借りて男に渡してしまったのです。同級生に男を紹介されてわずか4日後でした。 

参考URL:https://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/shougen/shougen47/

典型的な「タイム・プレッシャー」です。投資詐欺を働くような者こそ、行動経済学を熟知して、それを悪用してきます。

入門書で身を守る知識を

身を守るためにも、無意識・無自覚のままであってはいけません。 入門書レベルでいいので、行動経済学の本を何冊か目を通しておけば、投資詐欺のようなケースにも「ちょっと待てよ」と理性が働いてくれることでしょう。そう期待したいものです。 

(いしばしわたる)