すっかり春ですね。オフィス街を歩いていると、リクルート姿の若者をたくさん見かけます。一人で行動しているなら就活生だと思いますし、集団でいるなら「新入社員さんたちだな」と見当がつきます。どちらにも心の中で「がんばれ」とエールを送りますが、多くの企業で新入社員が研修期間中に必ずやることがあります。何だかわかりますか? (2024.4.16)
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新入社員が研修期間中に必ずやることーーそれは企業年金(確定拠出型年金=DC年金)の商品設定です。
年金の仕組みは複雑で、企業によっては確定給付型年金=DB年金のところもありますが、
確定拠出年金(企業型)
東京海上日動「企業年金とは?ゼロからわかる制度のしくみ」より
アメリカで普及している企業年金制度をモデルに、2001年に新設された年金制度です。将来受け取る給付額が決まっている「確定給付」とは異なり、支払う掛け金だけを取り決めて従業員の口座に拠出し、従業員が運用指示を行います。
企業側が導入を決める企業型の確定拠出年金のほかに、個人が自分の意思で加入する個人型の確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」もあります。
というもので、「従業員が運用指示を行います」の部分、これがわたしの言う、新入社員が新人研修中に「必ずやること」です。
大学では教えてくれない
わたしは常々不思議に思っているのですが、新しい仕事への期待と不安で胸を膨らませている社会人1年生の新入社員のなかで、DC年金の「運用指示」をできるための前提の知識を、あらかじめ身に着けている人がどれだけいるのでしょうか。
というのも、大学で教えてくれるとは、とても思えないからです。
商学部や経営学部の学生なら学べる授業はあるかもしれませんが、文学部や法学部など、それ以外の学部の学生なら、まず間違いなく学ぶチャンスはありません。
人事部の研修担当者が概略は教えてくれるでしょう。あるいは、人事部が手配したFP(ファイナンシャル・プランナー)が30分程度のレクチャーをしてくれるかもしれません。
でも、それは本当の概略です。せいぜい下記のエッセンスを教えてくれるだけでしょう。
- 元本確保型(定期預金)と元本変動型(投資信託)がある
- 投資信託にはアクティブ型とパッシブ型がある
- 株式は変動が大きく、債券は株式と逆の動きをする
- 株式と債券を組み合わせたバランス型の投資信託もある
ぶっちゃけ、どれを選べばいいの。それだけ教えてよ!
そう言いたくなる気持ちはよ~くわかります。
でも人事部の研修担当もFPも、それだけは絶対に教えてくれません。個別商品のサジェスチョンはしてはいけないことになっているからです。あくまで本人が「運用指示」するのが決まりなのです。
ありがちな2つの誤った選択
ですから、だいたい陥りやすいパターンは、以下の2つではないかと想像します。
元本割れはやっぱり怖いわ…だから元本確保型を多めにしようかな
パッシブって「消極的」って意味だよな。おれはアクティブ型の投資信託から選ぶぜ!
そして、FPは「途中でスイッチングできますから」と必ず言っているにもかかわらず、日々の仕事に追われて、自分がDC年金で何を選択したかもすっかり忘れてしまう…というパターンになっていくのです(何が「正解」なのか、のちほど書きます)
わたしの娘の場合
ちょっと私的な話題をはさみますと、私は娘が20歳になった時につみたてNISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めさせました(NISAは現在18歳からできますが、当時は20歳からでした)
つみたてNISAの掛金は毎月3万3333円、iDeCoは毎月2万円。大学3年と4年の2年間分の積立額と掛け金はわたしが出してあげました。 でも、商品を設定する時は娘を横に座らせて、PC画面で商品の説明をしながら設定しました。 商品を選択する理由がとても大切だからです。
〇〇ちゃんはまだ20歳だから長期に運用ができる。経済は必ず成長するから、世界経済やアメリカ経済の成長を買うと思えばいいよ。だから、この「先進国株」というのを設定するよ。
投資信託を選ぶ基準は手数料(信託報酬)だ。これが低いものを必ず選ぶこと。それだけに気を付けて全世界株、先進国株、米国株のインデックス型投資信託で比較してみてごらん。 ここにパッシブ型と書いてあるのがインデックス型投資信託だから。
ですから、娘は2年後、新入社員研修でDC年金の説明を受けた際、すぐに連絡してきました。
ねえねえ、間違ってないと思うけど、念のため実家に帰るから、商品選択の確認に付き合ってくれる?
ちゃんと適正な商品を選んでいたので、大学の2年間、つみたてNISAとiDeCoで教えた甲斐があったな~と嬉しくなったものです。
ちなみに、娘が2年間積み立てたiDeCoは、会社勤めになったため企業型DC年金に移管となり、その手続きも厚生部(?)に自分で連絡をとって手続きしていました。
そんな娘なので「〇〇は大学生の時から資産運用してたらしい」とうわさになり、数年先輩の社員から「SBI証券に口座作りたいんだけど、やり方教えてくれる?」と声をかけられたりしたそうです。
わたしの娘のように、大学在学中からNISAやiDeCoをやっているのは相当レアなことで、親が子どもに「社会に出るために必要な教育」の一環で投資教育をしているケースに限られるだろうと想像します。
ということは、大半の新入社員は自分で何とかしないといけないのです。
新人研修で覚えることはたくさんあります。60歳になって初めて受け取れる企業年金のことなど、FPの説明も話半分(スマホいじり半分?)で聞き流すでしょうし、スイッチングのことも絶対忘れるに決まっています。
ところが、そんなうかつな対応をしていたら、60歳近くになって愕然とすることになります。
元本確保型がダメな理由
元本割れはやっぱり怖いわ…だから元本確保型を多めにしようかな
これがなぜダメかと言えば、40年近くものインフレ率(物価上昇率)から、確保される「元本」の価値は、おそらく半分ぐらいになっているだろうからです。
毎月2万円ずつ40年積み立てた場合、元本は960万円ですが、インフレ率2%と仮定した場合、40年後の960万円の価値は430万円程度まで下落しています。
インフレ率を上回る利回りを目指さなければ、事実上、60歳以降に受け取れる実質的なお金は相当減ってしまいます。「国民年金+厚生年金」に上乗せされる3階部分の企業年金を、「元本」にこだわって貨幣価値で半減させたら、老後がかなり不安な状況になりかねません。
インフレ率についてはこちらもご覧ください
これからのリスクは「預金のまま」:インフレ時代の資産管理法
アクティブ型がダメな理由
パッシブって「消極的」って意味だよな。おれはアクティブ型の投資信託から選ぶぜ!
これがなぜ間違えかと言えば、アクティブ型は信託報酬が高いからです。
娘をiDeCoに加入させた時のパンフレットをひもとくと、投資信託で一番低い信託報酬は0.1989%、一番高い信託報酬は1.705%でした。アクティブ型にはもっと高いものもゴロゴロありますが、それでも両者の差は1.5%以上になります。
どちらの投資信託も運用利回りが4%だったと仮定すれば、手数料の差で片方は事実上の利回りは2.5%ということになります。 毎月2万円の掛け金で40年後、利回り4%なら元本960万円に対して、利息分は約1370万円。2.5%なら利息分は約680万円です。差し引き690万円も損をすることになります。
ちなみに、パンフレットの商品の中には「ターゲットイヤー型」も複数選べるようになっていますが、それがダメな理由も手数料が高くなるからです。
投資信託の手数料、インデックス型とアクティブ型の比較はこちらもご覧ください
投資商品は利回りと手数料に着目しよう
考え方はNISAと同じ
このように書いてくれば、実は、これはすべてNISAで言われていることと一緒だとわかるでしょう。
たとえば、マネーコンサルタントの頼藤太希さんの「新NISAで絶対買ってはいけない5つの地雷商品」を見てみましょう。 頼藤氏が挙げる「地雷商品」は、
- 信託報酬の高いインデックス型の投資信託
- ターゲットイヤー型
- テーマ型
- 隔月分配型
- ファンドラップ・ロボアド
の5つですが、 「信託報酬の高いインデックス型の投資信託」なら、
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は、年0.05775%です。(略)しかし、全世界株インデックスファンドはeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の他にもたくさんあります。そして、商品ごとに信託報酬はバラバラです。たとえば、「全世界株式インデックス・ファンド」(運用会社:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ)というものがありますが、信託報酬は年0.528%です。また、「eMAXIS全世界株式」(運用会社:三菱UFJアセットマネジメント)は運用会社がeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)と同じで、限りなく商品名も似ていますが、全く別の商品であり、信託報酬は年0.66%です。つまり、全世界株がいいからと、適当に商品を選んでしまうと、信託報酬の高いものを買って大損してしまうかもしれない、というわけです。
全世界株インデックスファンドは、同じ指数に連動する商品ならどの商品を選んでも運用成績に差はありません。しかし、信託報酬が違うと、手元に残る資産残高が変わります。
たとえば、新NISAで「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」と「eMAXIS全世界株式」にそれぞれ月5万円ずつ投資したとします。運用利率はどちらも年5%だった場合の30年後の資産額の差は次のようになります。
「新NISAで絶対買ってはいけない5つの地雷商品」より
と書いていますし、「ターゲットイヤー型」なら、
ターゲットイヤー型とは、時間が経つにつれて自動的に資産配分を変化させる投資信託です。一般に、リスク許容度(いくらまで損に耐えられるかの度合い)は、年齢が上がるにつれて低くなります。これを踏まえて、ターゲットイヤー型では投資信託を保有する人が若いうちは株式の比率を高めて高いリターンを狙い、年齢が上がるにつれて徐々に債券の比率を高めてリスクを減らすという運用を運用会社が自動的にやってくれます。(略)しかし、ターゲットイヤー型の商品の信託報酬は、バランス型(配分比固定型)よりも高く設定されています。
たとえば、投資家に人気のバランス型(配分比固定型)「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」の信託報酬は年0.143%です。
それに対して、つみたて投資枠のターゲットイヤー型「野村資産設計ファンド(DC・つみたてNISA)2060」の信託報酬は年0.462%。さらに、成長投資枠のターゲットイヤー型「アライアンス・バーンスタイン・財産設計2050」の信託報酬は年1.59%です。上でも確認したとおり、長期間運用するほどに資産額の差が大きくなっていきます。
バランス型を買うなら超低コストのものを買っておけばいいでしょう。わざわざ余計な手数料を払ってまで「自動的に資産配分を変化させる」必要はありません。
(略)
また、ターゲットイヤー型は、株式などのリスクの高い資産に投資しているときに大きな損失を被ってしまうと、債券などのリスクの低い資産に切り替わったあとで損失を挽回することはできなくなる点に注意が必要です。
新NISAではいつでも自由に資産を売却して引き出すことができますし、売却枠も翌年に復活します。もし、年齢によって資産配分を変えたいのであれば、ターゲットイヤー型に頼らずに、自分で資産を売却したり、新たに投資をしたりして調整すればいいだけのことです。ですからターゲットイヤー型の投資信託は、買ってはいけません。
「新NISAで絶対買ってはいけない5つの地雷商品」より
と書いています。 これはそっくりそのまま、DC年金の「運用指示」にあてはまります。
NISAは18歳から利用できるようになったのに、18歳は高校3年生だから受験勉強に追われてそれどころではありません。でも、大学に入っても「NISAはこうしたらいい」なんて教えてくれる授業はおそらく皆無でしょう。
結局は何ごとも自分で勉強するしかないのですが、新入社員たちのリクルート姿をみて「彼らは大丈夫だろうか…」と思ってしまう今日この頃です。
(いしばしわたる)
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