阿部智里『空棺の烏』徹底解説|シリーズで最も熱い”学園”編の見どころとは?

阿部智里『空棺の烏』徹底解説|シリーズで最も熱い”学園”編の見どころとは?

阿部智里氏の〈八咫烏〉シリーズ第4作目となる『空棺の烏』(文春文庫)は、シリーズ屈指の人気を誇る学園青春ファンタジーであり、物語の大きな転換点です。エリート武官養成所・勁草院で繰り広げられる少年たちの友情と競い合い。主人公・雪哉の成長とその後の展開につながる重要な作品を徹底レビューします。(2023.11.29) 

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〈八咫烏〉シリーズで異色の”学園もの”だが…

『空棺(くうかん)の烏』のことは、荻原規子氏の「西の善き魔女」シリーズで屈指の学園ファンタジーの色彩を帯びる第2作目『秘密の花園』の感想・読書レビューを書いた時から、

〈八咫烏〉シリーズなら絶対に『空棺の烏』だよな!

思い定めて再読していました。

ただ、再読して痛感したのは、本書は途中から読むのは適さない!という点でした。

📖荻原規子「秘密の花園」の感想・読書レビューはこちら

胸躍る”学園もの”冒険譚:荻原規子「秘密の花園」
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『空棺』を楽しむ条件|『主を選ばない』と『黄金』は必ず先に読む

〈八咫烏〉シリーズについては、NHKのアニメ化発表の時にこう書きました。 

NHKが2024年4月から〈八咫烏〉(やたがらす)シリーズをアニメ放映するそうです。

タイトルは『烏は主を選ばない』。このニュースをみて「なるほどそうきたか!」と驚きをもって受け止め、「でも、それが正しいかも…」と納得した〈八咫烏〉ファンは少なくないでしょう。

というのも、〈八咫烏〉シリーズの第1部は、雪哉が事実上の主人公と言ってよい存在だからなのです。

『烏は主を選ばない』以降は、物語が大きく動き出す第3巻『黄金の烏』と第4巻『空棺の烏』、そして第1部の最終巻である『弥栄の烏』まで、一貫して雪哉が主人公であり、とにかくかっこいい存在なのです。

第1部を通して読めば、〈八咫烏〉シリーズの登場人物でファン投票をすればぶっちぎりトップは雪哉でしょう。 

〈八咫烏〉シリーズは何から読む?第2作『烏は主を選ばない』から入るべき理由

そもそも〈八咫烏〉シリーズの公式サイト自身も、メーンの絵柄はどうみても雪哉です。 

YouTube文芸春秋公式チャンネル 150万部の異世界ファンタジー。阿部智里「八咫烏シリーズ」 衝撃の新章スタート

上のユーチューブ動画を見ても、物語が大きく動き出すのはシリーズ3作目の『黄金の烏』からなので、いくら”学園もの”でも、第4作目の『空棺の烏』から読んでしまっては、烏たちが住まう山内(やまうち)を襲う危機ーー人喰い猿の襲撃ーーといったストーリーの大枠がわからず、はてなマークの連続になってしまうでしょう。

ですから、きょう紹介する『空棺の烏』を読む場合は、少なくともシリーズ2作目の『烏は主を選ばない』と3作目の『黄金の烏』は、必ず先に読んでおくようにしてください。

”学園もの”の定法|主人公が仲間に出会い、敵役に出会う

にもかかわらず、『空棺の烏』をオススメするのは、これが傑出した”学園もの”だからです。

ハリー・ポッターがいい例でしょうが、主人公が仲間と出会い、敵役とも出会う……そんな展開になるのが”学園もの”の定法です。荻原規子氏「西の善き魔女」シリーズの『秘密の花園』も、ここでその後の冒険行を共にする少女が登場しますし、前の記事で書いた生徒役員たちはその後何度も(コミカルなかたちで)登場します。

『空棺の烏』の舞台となるのは「勁草院」(けいそういん)ーー近衛隊・山内衆の養成所です。

山神(やまがみ)さまによって開かれた山内の地をつかさどる族長一家の長が金烏(きんう)で、その近習となったのが雪哉です。前作『黄金の烏』で人喰い猿の襲撃を受け、雪哉は山内の防衛には仲間が必要と感じ、近習や北家の貴族出身といった出自を隠して、一生徒として勁草院入りします。

そこで、山烏(=庶民)出身で相部屋となる茂丸(しげまる)、西家の貴族出身の明留(あける)、北家で関係のあった一年先輩の市柳(いちりゅう)、誰とも交わろうとしない孤高の千早(ちはや)らと知り合います。彼らはその後も”名脇役”として〈八咫烏〉シリーズの壮大な物語に彩りを添えていきます。

先輩が後輩にいじめ!雪哉も目をみはる茂丸の啖呵

”学園もの”ですから、嫌な先輩も登場します。夏家の貴族出身の公近(きみちか)で、千早を召使同然に使おうとする場面を紹介しましょう。

「もう一度言うぞ、千早。俺の膳を、今すぐ、片付けろ」

「断る」

「何故だ!」

「理由がない」

「先輩命令だと言っているだろう。何でもいいから、お前は俺の言うことを聞け!」

こういういじめも”学園もの”の定番ですが、そこにちょっかいを出すのが雪哉です。

「おーっと、足が滑った!」

公近の後頭部に、焼き茄子と冷麦の味噌汁が、盛大にぶちまけられる。

(略)

「あらら、ごめんなさい。でも、先輩がこんな場所でぼさーっとされているのも悪いんですよ。他の草牙(=2年生のこと)はとっくに自分で膳を片付けてお帰りになったのに、ここで何をなさっているんです?」

激昂する公近に茂丸が割って入る。

「ままま、落ち着いて下せえ、先輩。こいつに悪気はなかったんです。ほら、実技の授業後で疲れていて、足元がおぼつかなかっただけで。なあ、雪哉」

公近が自分の兄が実力者だと凄むと、雪哉が言い返す。

「それにしても、そんな簡単にお兄さまの権威を持ち出すなんて、後輩をいじめるにしても芸がないですねぇ」

「下賤の者が、知った風な口をききやがって!」

ここで今度は雪哉も目をみはるほど、茂丸が色を成して言い返すーー。

「ちょっと待って下せえ」

「先輩が、後輩の生意気に耐えかねてっつうならまだ分かります。でも、身分を持ち出されたんじゃ、黙っているわけにはいかねえや」

「生まれで馬鹿にされたんじゃ、俺達はここに来た意味がねえ。俺達はあんたの身分にへつらうつもりもねえし、身分によって、あんたに馬鹿にされる筋合いもねえよ!」

うーん、かっこいいですね!

雪哉が茂丸に絶対的な友情と信頼の気持ちを抱くようになったのも、そのために雪哉のその後の人格形成に大きな影響を及ぼすことになるのも、とてもよーくわかります。

前文で「その後の展開につながる」と書いたのは、実は茂丸が大きく関係するのですが、すみません、これはネタバレになるので、これ以上は詳しくは書けません…

教官が盤上訓練…完膚なきまで叩きのめされる雪哉

”学園もの”ですから、教官にも敵と味方それぞれ出てきます。

特に好敵手とも言える翠寛(すいかん)が、雪哉を指名して「盤上訓練」(英語で言えばWar Game、日本語に直せば机上作戦演習)で、完膚なきまでに叩きのめします。

「これが実戦であったならば、お前の首は飛んでいるな」

「先ほど言った通り、お前の戦術案は読ませてもらった」

「その上で言わせてもらう。確かにお前は優秀だ。だが同時に、答案の全てに驕りが見えた。よくもまあ、峰入り前からこんな荒唐無稽を考えるものだが、こんなものは作戦とは言わない」

「何でも自分の思い通りになるなどと勘違いするな、小僧。己の分をわきまえず、目上の者に対する尊敬の念がないから、そういう醜態をさらす羽目になるのだ」

このあと翠寛と雪哉の次の場面になります。

身の程を知るがいいと言い捨てた翠寛に、雪哉は目を眇(すが)めた。

「……今の俺達には、口を開く資格などないと?」

「ああ。特に貴様はな」

雪哉を見た翠寛の目は、とても教官が院生に向けるものとは思えなかった。

「私のやり方に不満あらば、一度でも私に勝ってから文句を言いたまえ」

いかがですか。まさに”学園もの”でしょう?

もちろん主人公は雪哉ですから、『空棺の烏』の後半は翠寛と雪哉の再度の対決シーンーー盤上訓練のリベンジ戦となるのですが、これはぜひ本書を手に取ってお確かめください。

でも、くどいようですが、その前に『烏は主を選ばない』と『黄金の烏』は必ず読んでおいてくださいね。

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(しみずのぼる)

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