世界一悲しい声の持ち主:ロバート・ワイアット

世界一悲しい声の持ち主:ロバート・ワイアット

「世界一悲しい声」でネット検索すると必ずヒットするイギリス人ボーカリスト、ロバート・ワイアット(Robert Wyatt)を紹介します。以前にプログレ(プログレッシブ・ロック)のバラード曲を紹介した時に一度触れていますが、きちんと紹介したくなりました(2024.1.12)

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カンタベリー・ミュージック

プログレの中に「カンタベリー・ミュージック」と呼ばれる一群があります。カンタベリー地方の出身者が結成したソフト・マシーンキャラバンなどから派生したアーティストたちの音楽の総称で、ソフト・マシーン出身のロバート・ワイアットもそのひとりです。 

プログレの名アルバム200枚を紹介した「200CDプログレッシヴ・ロック」(2001年、立風書房刊)で、カンタベリー・ミュージックやワイアットのことが出てきます。 

ソフト・マシーンこそは、カンタベリー・トゥリーと称されるミュージシャン人脈及び彼らの共有する音楽文化風土の主たる幹にあたるグループである。もとはと言えば、ホッパーやラトリッジがワイアットの持ち家に集まって、オーネット・コールマンやコルトレーンのレコードを聴いたり、即興セッションを繰り返していたのが始まりだった。 

ロバート・ワイアット(ドラム&ボーカル)とマイク・ラトリッジ(キーボード)はソフト・マシーンのオリジナルメンバーで、ヒュー・ホッパー(ベース)が2作目「2」(1969年)から参加しますが、ワイアットはジャズ色を強めていくグループ内で孤立し、「3RD」(1970年)を最後にソフト・マシーンを脱退。1971年にキャラヴァンのキーボード奏者だったデビッド・シンクレアマッチング・モウル(Mathing Mole)を結成します。 

Soft Machine のフランス語の発音を英語に置き換えたネーミングからも「自分こそ本家ソフト・マシーンだ!」という自意識がうかがえます。 

シンガーとして再起

ところが、1973年にパーティーの席で酒に酔って5階の窓から転落する事故に遭い、一命は取り留めたものの、下半身不随になってしまいます。この不慮の事故でドラマー生命を絶たれた彼は、妻のアルフィーに励まされて歌手として再起を図り、アルバム「ロック・ボトム」(1974)で奇跡のカムバックを果たしました。 

「ロック・ボトム」のインナーには、こう書かれています(引用は立川芳雄「プログレッシヴ・ロックの名盤100」(2010年、リットー・ミュージック刊)から) 

「私はもはやドラマーではないのだという事実を受け入れた。そしてこれからの人生において多くの問題を抱えるであろうことも。(これからの私は)もっと歌も歌うようになるだろう。それぞれの曲のために遭ったミュージシャンを選ぶこともできる。脚を失ったことで私は新しい自由を手に入れたかもしれない」 

立川氏はこの言葉を紹介して、次のように続けています。 

事故によってワイアットはドラマーとしての自分を失ったのだが、その代わりに、きわめて内省的な言葉と、それを抑制を効かせて表現するという手法を獲得することになった。

そのような苦難を経て辿り着いたワイアットの声を聴いてみてください。

Free Will and Testament

1曲目は、1997年発表のアルバム「シュリープ」から、「Free Will and Testament」です。

ロバート・ワイアットは沈黙していたのではなく、自分の音楽を磨いていたのだった。静かな成熟というのが、このアルバムから溢れ出てくる音楽にふさわしい言葉である。

「200CDプログレッシヴ・ロック」から

The Song

ワイアットの声は多くのミュージシャンを惹きつけてやまないのでしょう。ワイアットがゲスト参加するアルバムは非常に多く、その中から元ヘンリー・カウジョン・グリーヴス(John Greaves)が1995年に発表した「Songs」に収録された「The Song」を紹介します。

(ワイアットは)ソロ・シンガーとして確固たる地位を築いているブリティッシュ・ロック界の良心とも呼べる存在。独特のハイ・トーン・ヴォイスの美しさと孤高の精神性は本作でも存分に生かされている。 

「Songs」のインナーノーツより

O’Caroline

3曲目は、以前の記事(夜に聞くと心地良いプログレ・バラード)でも紹介したマッチング・モウルの「O’Caroline」です。

メロトロンが優しくイントロを奏で、そこにロバート・ワイアットの悲し気な歌声が被さって来る①(=O’Caroline)を聴いただけで、琴線が大きく揺さぶられる人は多いだろう。70年代英国ロックの楽曲のなかから最も哀切でヒューマンなものを1曲といわれたら、私はこれを選びたい。どこかユーモラスなのに、とても切ない。こんな滋味あふれる曲が20歳代の若者たちによってつくられたということも驚きだ。 

「プログレッシヴ・ロックの名盤100」から

Sea Song

最後は「ロック・ボトム」から「Sea Song」です。 

ワイアットの歌は、穏やかである一方、生きることの喜びを噛みしめているようにも感じられる。中でも絶望と希望の交錯するさまを表現したかのような①(=Sea Song)は名曲。 

「プログレッシヴ・ロックの名盤100」から 

この曲はサンプル音源にワイアットの声が含まれていないため、ユーチューブをつけておきます。

他の3曲もユーチューブで全曲通しで聴くことができます。サンプル音源で興味を抱かれたら、ユーチューブでお聞きください。 

(しみずのぼる) 

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