ドラマも原作も格別におもしろい「イクサガミ」 

ドラマも原作も格別におもしろい「イクサガミ」 

Netflixオリジナルドラマ「イクサガミ」をイッキ見しました。今村翔吾氏の原作を見事に映像化しつつ、原作と微妙に異なるところもあり、原作ファンも存分に楽しめます。ドラマを先に観ても現在公開分はまだ佳境の手前のため、原作を手に取りたくなること必定です(2025,12,11) 

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世界ランキングでも一時首位に

まずはNetflixオリジナルドラマのほうを紹介しましょう。 

ドラマは11月13日に配信されましたが、12月10日現在、国内視聴ランキングで首位をキープ。世界ランキングでも一時首位に輝くなど海外でも好評です。 

映画評論・情報サイト「バンガー」が12月10日配信した「なぜ?TOP10作品に“ほぼ動きなし”…岡田准一『イクサガミ』首位キープ【Netflix国内ランキング/TV番組 ネトフリおすすめ】」でも、 

とくに岡田准一が主演・プロデューサー・アクションプランナーを務めた『イクサガミ』は世界ランキングでも1位を記録し、今後のアジアNetflixの重要作品になることは間違いないだろう。 

と書いています。 

ストーリーは、 

時は明治初期。かつて最強の侍として知られた嵯峨愁二郎は、あるトラウマから刀を抜くことができなくなっていた。だが病に苦しむ家族のため、究極のバトルロワイヤル”蠱毒”(こどく)に参加する。 

というもので、シーズン1(第1章、全6話)が公開されています。予告編をごらんください。 

原作は講談社文庫から全4巻

原作は今村翔吾氏の小説「イクサガミ」(全4巻、講談社文庫)です。 

明治11年。深夜の京都、天龍寺。
「武技ニ優レタル者」に「金十万円ヲ得ル機会」を与えるとの怪文書によって、腕に覚えがある292人が集められた。
告げられたのは、〈こどく〉という名の「遊び」の開始と、七つの奇妙な掟。
点数を集めながら、東海道を辿って東京を目指せという。
各自に配られた木札は、1枚につき1点を意味する。点数を稼ぐ手段は、ただ一つ――。

「奪い合うのです! その手段は問いません!」

剣客・嵯峨愁二郎は、命懸けの戦いに巻き込まれた12歳の少女・双葉を守りながら道を進むも、強敵たちが立ちはだかる――。

弩級のデスゲーム、ここに開幕!

第1巻「天」あらすじ 

木札を奪い合うデスゲーム

天龍寺に集まったのは292人。各自1枚ずつ木札を与えられ、天龍寺を出る際に2点が求められる。つまり、誰かの木札を奪わなければ外に出られず失格=死を意味します。 

しかも、第2の通過地・関(伊勢国)を通過するには3点、第3の通過地・池鯉鮒(三河国)は5点、第4の通過地・浜松(遠江国)は10点、第5の通過地・島田(駿河国)は15点、第6の通過地・箱根(相模国)は20点、そして第7の通過地・品川(武蔵国)は30点が必要というように、各通過地で必要な枚数になるまで木札の奪い合いというデスゲームを演じなければならず、しかも終着地・東京にたどり着いてから何が待ち受けるのかも不明…というゲームです。 

これほどの大規模なゲームを主催する者は誰なのか、その目的は何か、という要素も絡んで、原作はまさしくイッキ読みでした。 

ストーリーの場面場面で殺し合いのシーンが出てくるのは当然なのですが、巻を進めるにつれて重要な役割を果たすのが12歳の少女・双葉であることに気づかされます。 

場違いな12歳の少女・双葉

双葉は母の虎狼痢(コレラ)を治す治療費欲しさに天龍寺に来たものの、明らかに場違いな存在です。 

「何……」
ここまで来ればもう並のことでは驚かない。だが愁二郎は吃驚のあまり声を漏らした。衆の中に十二、三歳の女の子がいるのだ。大きな躰の屈強な男たちの陰になり、今の今まで気付かなかったのである。猛々しい男たちに怯えている様子で、祈るように両手を胸の前でぎゅっと握っている。

ーー放っておけ。
と、内なる己が呼びかけてくる。この聲が聴こえるのは久しぶりのことであった。昔はよく聴こえていたが、この数年は皆無であった。すでに死んだと思っていたが、心の片隅で息を潜めていたということ。今、己があの頃に立ち戻ろうとしていることを鋭敏に察し、ひょっこり顔を見せたのだろう。
ーーこんなところに来るのが悪い。
聲はなおも語り掛けて来る。確かにその通りである。ここに来た瞬間から、子どもでも異様な雰囲気を感じたはず。槐(えんじゅ)は話をする前ならば離脱を許すと言った。それでも帰らなかったのは娘なのだ。だが一方、それでも逃げることの出来ぬ訳が、娘にあったということからもしれない。

しかし、愁二郎は内なる声に逆らって少女を助けた。「生きる気はあるのか」「俺から離れるな」 

弱い者から狙われる。そんなデスゲームのなか、愁二郎は双葉をかばいながら戦うことを選び取るーー。 

双葉の行動が愁二郎を動かす

何もできない、ただの足手まといと映る双葉に変化の兆しが表れるのは、第3の通過地・池鯉鮒(ちりゅう)を通る場面。原作で言うと第1巻「天」から第2巻「地」に移ったあたりです。 

この間に愁二郎と双葉は元伊賀同心の柘植響陣に同盟を持ち掛けられ、途中で襲って来た3人の参加者を拘束して、響陣の提案で”実験”をしています。 

1人目は木札を奪って警察に引き渡す。2人目は木札を奪わずに警察に引き渡す。3人目は木札1枚のまま池鯉鮒に連れて行く。 

1人目は蟲毒の主催者は失格とみなすだろうが、警察の保護下にある者をどう始末するのか。2人目の場合は失格なのかどうか。3人目は、1点しか持っていなければ池鯉鮒を通過できないが、その時にどうなるのかーー。 

双葉の変化は、その3人目ーー元御家人の跡取りで父が商売に失敗、高利貸しに借りた借金を返すために蟲毒に参加した狭山進次郎が、愁二郎、双葉、響陣とともに池鯉鮒に到着、蟲毒の主催者たちーー木偏の変名を持つ者たちーーに木札を確認される場面であらわれます。 響陣と双葉が確認を終えて宿場を通ったところです。

「では、嵯峨様は……十六点でございますね」
「ああ」
愁二郎は交換された札を受け取ると歩を進めた。
「え……駄目!」
双葉が叫ぶが、愁二郎は口を結んだまま宿場から足を踏み出した。
「何でーー」
双葉はこちらに戻ろうとするが、響陣が腕を掴んでそれを許さない。進次郎は項垂れ、全身を小刻みに震わせている。杜(やまなし)がそっと近寄る。
「狭山様は、札は……一点ですね。もう後ろには誰もいません。真に残念ながら脱落となります」
杜が目配せをし、橡(つるばみ)、柙(はこ)がさっと進次郎の脇を固めた。進次郎の震えは大きくなり、唇は紫色に変じている。
「進次郎さんを助けて!」
双葉は大声で訴える。宿場を行く人の中には、物騒な言葉に何事かと注目している者もいた。
「香月様、静かに。それ以上は約束を破ったと見なします」
橡が目を細めて鋭く言った。掟という言葉を、柔らかな約束に即座に置き換えるあたり、橡はかなり賢い。
「何で……札はあるのに」
札はまだ十六点ある。進次郎に分けてやっても皆が通れる。進次郎の首に掛かった一点を奪わなかったこともあり、双葉は皆で通るのだと思っていたらしい。

「双葉、きりが無い。俺たちが生き残るだけでも必死なんだ」
「解っている……私だけでも十分お荷物だって……」
双葉が項垂れたところで、響陣もすっと手を離した。

ところが、そこから双葉は意想外な動きをします。駆け出して宿場の中に戻ったのです。 そして、愁二郎に声をかけます。

「何故、愁二郎さんは天龍寺で私を助けてくれたの……?」 
「それは……放っておけなかったからだ。見捨てれば、妻や子にもう二度と会えないと思った」 
「私も同じ。母上に合わせる顔が無い。死んだ父上にも」 
双葉の小さな背は震えていたが、続いた言葉は凛としたものであった。 
「だから最後まで諦めたくない」

双葉は蟲毒の主催者たちにも言い負けません。 

「香月様、もう後続はおりません。手段は無いと思いますが?」
「もしかして他の参加者が戻って来るかもしれないでしょう」
「確かに皆無ではありませんな。しかし、札を奪えばその者が脱落することになります」
「その人が沢山札を持っているかも」
「ふむ。それも有り得ます。だが結局は先延ばしするだけです。賞金を得られるのは、多くても九人だけなのですから」
「それまでに他に生き残る道が見つかるかもしれない」
「なかなか頑固な御方だ。開催している我々がそれしか道が無いと言っているのに……」
「初めてでしょう」
「と、言うと?」
「こんなことするの。なら貴方たちも見落としている何かがあるかもしれない」

この問答に終止符を打ったのは愁二郎でした。 

「確かに一理ありますな。しかし、困りましたな」
橡がはっとする。その時、愁二郎もまた宿場の中へと戻っていたからである。
「嵯峨様もどうなさいました」
橡、柙、杜、三人ともに殺気が満ちる。ここで主催者側を斬って遁走する。そのような筋書きが頭を過ったのであろう。
「進次郎」
愁二郎はゆっくりと歩を進め、進次郎の手に札を握らせた。両端が青に塗られた、五点を意味する札だ。進次郎が唖然としながら顔を見る。
「これは……」
「使え、橡、これで六点だ」

詫びる双葉に愁二郎はこう言います。 

「お前の言う通りだ。全てを救うのは無理かもしれない。でも目の前の人を見捨てるようなことをして、会えるはずがない。思い出させてくれてありがとう」 

以後も度重なる殺戮シーンで双葉はひとり特異な役回りを果たし、蟲毒の参加者や監視役たちにも影響を及ぼしていきます。 

原作から抜け出してきたような…

Netflixオリジナルドラマで主人公の嵯峨愁二郎を演じるのは、本作のプロデューサー兼アクションプランナーを務める岡田准一氏。双葉を演じるのは17歳の女優・モデル、藤﨑ゆみあさんです。 

ほかにも、嵯峨と行動を共にする柘植響陣を東出昌大氏、剣による殺戮を求めて愁二郎を追う貫地谷無骨を伊藤英明氏など、豪華キャスト陣が揃っています。 

原作のファンなら、ドラマの配役は「まるで原作から抜き出してきたような役者さんばかり…」という感想を抱くのではないでしょうか。 

ただ、ストーリー展開は原作とはやや異なります。

大きなプロットは踏み外していないのは当然のことですが、例えば嵯峨愁二郎と貫地谷無骨の対決シーンは、原作では第3巻「人」で蟲毒の最終盤となる横浜で繰り広げられますが、ドラマでは池鯉鮒の手前で、シーズン1(第1章)の最終回(第6話)のハイライトとなっています。 

原作とディテールが異なるため、原作をすでに読まれた方でも存分に楽しめますし、原作を未読の方は、シーズン1の全6話なら、原作ではまだ第2巻「地」あたりですから、続きが知りたくて原作を手に取る人も必ずいるでしょう。 

ドラマも原作も格別におもしろいーー。とってもオススメです。 

(しみずのぼる) 

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