山内練と麻生龍太郎が16年ぶりに登場!ファン必読の柴田よしき最新刊『初雪』

山内練と麻生龍太郎が16年ぶりに登場!ファン必読の柴田よしき最新刊『初雪』

柴田よしき氏の最新作『初雪 海は灰色 第一部』は、なんと16年ぶりに山内練と麻生龍太郎が登場する長編ミステリー小説でした!名作『聖なる黒夜』に深く繋がる内容で、山内練ファンにはたまらない一冊です。もちろんミステリー小説としても秀逸ですし、既にアナウンスされている続刊への期待は高まる一方です。(2026.8.17) 

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ファン待望!16年ぶりに山内練と麻生龍太郎が復活

『初雪 海は灰色 第一部』は2025年12月に刊行された柴田よしき氏の最新作です。最初に発売元・角川書店の宣伝文句を紹介しましょう。 

『聖なる黒夜』から23年。ついに麻生龍太郎シリーズの長編刊行! 

出版社なら新刊はたくさん売れてほしいはずです。この宣伝文句だと、『聖なる黒夜』を未読の方なら絶対手に取らないでしょうし、「麻生龍太郎シリーズ」という表現も、 

シリーズものかあ…じゃあ、一冊も読んだことない自分には関係ない本だな… 

と思われるリスクが高まります。

それでもあえて、この宣伝文句を採用したのは、柴田よしきさんの最初期の小説群で創り上げた指定広域暴力団「春日組」若頭の山内練という人物と、山内と深く関係する元警視庁捜査一課刑事で私立探偵の麻生龍太郎のファンが非常に多くいる…と角川書店が判断したからでしょう。

その判断は間違っていません! 

名作『聖なる黒夜』から繋がる主要人物たちの関係性

山内練のことは何度も何度も記事にしているので、過去記事の主要なところから抜粋します(くわしくは記事の末尾に過去記事をまとめておきますので、ぜひお読みください) 

(柴田氏のデビュー作の)『RIKO – 女神の永遠』の主人公・村上緑子が、出産を機に新宿署から下町の辰巳署に移動して遭遇する事件を解決するのが『聖母の深き淵』(角川文庫)で、村上緑子が再び難事件を解決する『月神の浅き夢』(角川文庫)と合わせてRIKOシリーズ3部作と呼ばれます。

ところが、村上緑子が登場するのはこの3作だけなのに対して、RIKOシリーズ第2作にあたる『聖母の深き淵』は、その後の柴田さんの警察ミステリーに何度も登場する人物がたくさん出てくるのです。

  • 山内練 春日組若頭
  • 麻生龍太郎 私立探偵(元刑事)
  • 高安晴臣 春日組顧問弁護士
  • 田村 売春管理専門の暴力団員

といったところは全部そろって出てきますし、名前だけなら

  • 韮崎誠一 春日組幹部

も登場します。

その後の柴田よしきさんの作品をみれば、山内練と麻生龍太郎が登場する作品ばかりです。

悪魔的な魅力の山内練、始動!柴田よしき『聖母の深き淵』を紐解く

この文章のとおり、柴田さんの小説で最初に山内練が登場するのがRIKOシリーズ第2作『聖母の深き淵』で、1996年に出版されました。 

理系の大学院生だった山内の転落は、捜査一課刑事になる直前に世田谷署で山内を取り調べた麻生の誤認逮捕がきっかけです。そのことが明かされるのが、1998年に刊行されたRIKOシリーズ3作目『月神の浅き夢』です。 

そして、刑務所で男娼に堕ち、出所後、自殺を図ろうとしていた山内を拾ったのが春日組幹部の韮崎誠一で、韮崎が殺害された事件を麻生が捜査する過程で山内と再会し、山内を転落させた原因が自身の誤認逮捕にあったと麻生が気づくのが、2002年に刊行された警察ミステリー小説の傑作『聖なる黒夜』です。 

麻生龍太郎シリーズの短編集も2009年刊が最後に

この後も、麻生龍太郎を主人公にした短編集の『所轄刑事・麻生龍太郎』(2007年・角川書店刊)と『私立探偵・麻生龍太郎』(2009年・角川書店刊)が出版されています。 

後者は山内練も登場しますが、山内練が柴田さんの小説で登場するのは、『私立探偵・麻生龍太郎』と同じ2009年に出版された花咲慎一郎探偵シリーズの第5作目『ドント・ストップ・ザ・ダンス』(実業之日本社刊、のち講談社文庫)が最後でした。 

もう続編は書かれないんだろうな… 

と半ば諦めの境地にあっただけに、山内練や麻生龍太郎の物語を16年ぶりに読むことができる!などという幸せがまだ残っていたとは、想像もしませんでした。 

しかし『初雪』とか『海は灰色』とか、これで山内や麻生の物語だと想像することは難しいでしょう。発売から既に8か月も経つのに、X上で紹介されていることで初めて発売を知り、ほんとに狂喜乱舞しました。 

まあ、こうやって熱く語れば語るほど、過去作を未読の人は腰が引けて手に取らなくなりそうで申し訳なく思うのですが、それだけ熱くなれるシリーズ物だということでご容赦願いたいと思います。 

静かな温泉街で展開する旅情と緊迫の本格ミステリー

『初雪 海は灰色 第一部』は、私立探偵だった麻生龍太郎が、麻生と別れて温泉芸者に堕ちた元妻・玲子の行方を捜して新潟の山間の温泉を訪ねるところから始まります(玲子が麻生のもとを去る経緯は『聖なる黒夜』で描かれています) 

同じ宿には、背中に刺青がある鈴木という名の男と、年が離れた妻を名乗る女が宿泊していた。バーで鈴木と女が口論した直後、鈴木の行方がわからなくなった。 

ここでは今、何かが起こっている。
こんな、ありふれた、日本全国のどこにでもあるような小さな温泉町でも、人がいる限り事件は起こる。
長年の刑事生活で、麻生に染みついてしまった「感覚」が、鈴木は何か事件に、いや、犯罪に巻き込まれたのだ、と麻生に告げている。

鈴木の行方がわからなくなった翌朝、麻生は宿の炊事場で女将が倒れているのを発見した。 

昨夜感じた不安が一層大きくなって、胃に重たい石があるかのように、気分が悪くなった。
何かが、起こっている。
この温泉場で、何かが。

第一発見者の麻生が警察の聴取を終えて宿に戻ろうとすると……(察しのいい人はわかると思いますが、いよいよ山内練の登場です)

支払いを済ませて店の外に出ると、衝撃が待っていた。

「おまえ」
麻生は言葉を出そうとしたがそれだけやっと絞り出した。
「来ちゃった」
練が、へらへらと笑いながらそこに立っていた。

他殺体で見つかる刺青の男と倒れていた女将…謎めく犯人と動機

『初雪 海は灰色 第一部』のストーリーの主軸は、他殺体でみつかる鈴木を殺した犯人は誰で動機は何か、宿の女将が倒れて発見されたのはなぜか、それは鈴木の殺人事件とどういう繋がりがあるのか…という謎解きで、元刑事の麻生と”その筋”の情報網を持つ山内が事件の真相に迫っていくーーというものです。 

例えば、鈴木の妻を名乗る女が何者なのかがわかる場面。 

「あなたが」
鈴木の妻の声は、少しかすれていた。
「見つけてくださったの?」
「第一発見者はこの人です。わたしの友人です」
「友人……」
「今日、ここに来たばかりで」
鈴木の妻は、山内を見た、と、ぼんやりとしていた目つきが急に険しくなり、それから、睫毛が震えて明らかにおびえた顔になった。
「あ……まさか……山内」
「俺のこと知ってんの」
山内が女の方に一歩近づいた。
「どっかで逢った?」
鈴木の妻は、何か言おうとして口を開けたが、次の瞬間にはくるっと身を翻して廊下を駆けだした。麻生は、その行為の唐突さに一瞬戸惑った。
「いちおう、追ったほうがよくない? なんで逃げたのか知りたいじゃん」
山内が面白がる顔で言う。麻生はようやく我にかえって、女のあとを追った。

麻生が女を捕まえて、事情を説明するように求めると、 

「あんな、悪魔なんかあたしのそばに近寄らせないで」
「ずいぶんな言われようだな。あいつは悪魔ですか」
「知ってるくせに。新宿で風俗やってる女なら、あいつのことはみんな知ってる。ド素人のバイトじゃないならね」
「つまり、あなたも新宿で風俗に勤めていた、ということですね」

「やっと思い出した。楊貴妃、の、愛子だ」
「俺んとこの傘下のソープチェーンで、毎月売上げトップを争ってた超売れっ子さんだ。一度だけ、ご尊顔を拝みに店に参上したことがあった」

新宿のソープ嬢がなぜ、妻を騙って鈴木と行動を共にしていたのかーーというあたりから、謎めいた事件の解決の糸口が見つかっていくのですが、ネタバレはここまでにしておきましょう。 

作中の描写から紐解く作品間の時系列と物語の順番

主軸のミステリーはよく練られていますから、本書を単体で読まれても十分に楽しめるだろうと思います。 

ただ、麻生や山内の因縁、あるいは麻生の元妻・玲子が麻生のもとを去って温泉芸者に身を堕とした過去なども出てくるので、柴田よしきさんの過去作品、特に『聖なる黒夜』は読んでおいたほうが存分に愉しめるのは間違いありません。 

なお、過去作品にあてはめると、発売年は先述しましたが、麻生や山内の時間軸で作品を並べ直すと、おそらく次のようになります。 

  1. 『聖なる黒夜』(2002年刊、麻生龍太郎シリーズ第1作) 
  2. 『私立探偵・麻生龍太郎』(2009年刊、麻生龍太郎シリーズ第3作) 
  3. 『聖母の深き淵』(1997年刊、RIKOシリーズ第2作) 
  4. 『初雪 海は灰色 第一部』(本書=2025年12月刊、麻生龍太郎シリーズ第4作) 
  5. 『月神の浅き夢』(1998年刊、RIKOシリーズ第3作) 

『私立探偵・麻生龍太郎』では、『聖なる黒夜』で自身の捜査ミスに気づいた麻生が、山内の冤罪を証明しようと動いた結果、異動を命じられたのを機に警視庁を辞め、私立探偵事務所をスタートさせた直後が描かれています。山内とは恋仲になるものの、麻生は山内に春日組から離れるよう迫り、最後は山内が若頭に就くことを選ぶ場面で終わります。 

『聖母の深き淵』では、私立探偵の麻生が山内をかばって銃を発砲する場面が描かれています。 

『初雪 海は灰色 第一部』は最初の方で、次のような文章が出てきます。 

稲田が助けてくれなかったら、有罪判決を受けて服役した時点で自分の人生は終わっていたと麻生はあらためて思った。
服役した時点で探偵業務は欠格者となって続けられなくなった。刑期満了から五年間は届出ができない。一人で私立探偵事務所を営んでいた麻生は失業してしまった。そんな麻生に手を差し伸べてくれたのが、警察時代同僚だった稲田だった。

稲田は『私立探偵・麻生龍太郎』に出てきますが、麻生が「有罪判決を受けて服役」することになる事件は『聖母の深き淵』で起きているわけですから、上記の順番で間違いないでしょう(角川書店のあらすじは「有罪判決を受け警察官を辞め、探偵の手伝いをするようになった」と書いてありますが、これはやや不正確な記述のように思います) 

作家生活30周年記念作としての位置づけと続編への期待

気になるのは「海は灰色 第一部」という表現です。

当然「第二部」があるでしょうし、もしかしたら「第三部」「第四部」…と続くかもしれません。 

角川書店の紹介ページには、 

2026年12月頃、続編刊行予定。 

と書いてあります。しかも、本書の位置づけが「著者作家生活30周年記念作品」であることも。 

山内練や麻生龍太郎が登場する一連のシリーズはやはり、柴田よしきさんの「作家生活」を記念するにふさわしい作品ということでしょう。 

続編を楽しみに待ちたいと思います。 

(しみずのぼる)

📖あわせて読みたい:山内練が登場する柴田よしき氏の過去作品(花咲探偵シリーズを含む)の紹介記事はこちら👉 

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